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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第4章 誰が為の命令

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 彼女が気絶している今なら、魔法は使われない。とても、とても容易いことだ。指一本でだって遂行する自信がある。


 忘れていた。僕はこれまでずっと、この子と仲良しごっこに興じていただけだったことを。

 意味もない会話をして。一緒に化け物を倒して。機械兵の僕には、取るに足らないことだらけだったというのに。

 テクナの悲願を忘却し、挙げ句、マギアと行動を共にするなんて。なんという醜態。

 もしかしたら、それすらノルニルの魔法だったのかもしれないな。


 ――でも。


 今、この時なら、しくじることはない。

 僕は転がっていた『鬼殺《おにごろ》し』へ指を伸ばし、引き寄せる。

 感情プログラムなんて、やはり必要なかった。こんなバグがあったせいで、とんだ茶番劇に振り回されることになった。


 僕は、機械兵。

 僕はどこまでいっても機械で、傷つけることしかできない兵器なんだ。

 感情など、ない。

 あったとしても、それは偽物。

 惑わされているだけだ。

 思い出せ。

 目的を。

 なんのために存在しているのかを。


 戦い、敵を殲滅《せんめつ》する――。

 それこそが僕の――。

 冷たい指先を揃え、ノルニルの急所を捉える。

 それだけで、すべてを終わらせることができる。


「――ほんとうに、それでいいの?」


 顔を上げると、


「……トート…………博士……?」


 僕と同じ顔をした、眼鏡に白衣の男性がしゃがみ込んで笑っていた。

 うそだ。

 何故。

 いや――。


「生きて……いたのか」

「ねえ、ほんとうにそれでいいのかい。君は」

「は……?」

「言っただろう。よく考えなさいと。ほんとうに相手を目の前から消してしまっていいのか、どうか」

「なに言って……」


「前にした話だよ。君には、テクナ軍から与えられた決まりごとがある。でも、それだけが君のすべてじゃない。今の君は見て、考えて、迷うことができるんだから」


「マギアは敵だ……博士。外を見ただろ。テクナも見当たらない。荒廃した土地がずっと広がっている。みんなマギアが壊したから、ああなったんじゃないのか」


 そう言うと、トート博士は小さく横に首を振る。


「ほんとうに悪い人なんて、きっとどこにもいないんだよ」

「博士、なに言ってるんだ」

「その子は、君の敵なのかい」

「それは……」

「少なくとも彼女は、君を敵とは思っていないだろうね。君を助けてくれたんだから」

「博士」

「確かに感情プログラムは後付けのオプションでしかない。でも、君の中に根付いた、マギアを敵とみなす思考だって、軍から与えられたものだ。君自身の憎しみじゃない。だから勘違いをしてはいけないよ。君は、彼らを殺したくて殺そうとしているんじゃないんだ」


「でも――それじゃあテクナは」


「君に直接命令を下す者はもういない。でも、君の中にはまだ彼らが残した枷がある。だからこそ、考えるんだ。自分が、ほんとうはどうしたいのかを」


 博士は笑う。あの頃のように。


「…………ふふ、ライか。いい呼び名をもらったじゃないか」


 掴みどころのないことを言って。

 答えが欲しいのに、いつもそうだ。

 あなたは、与えてくれない。


「博士……僕はどうしたら――」


 問いかけた時には、まるで最初からそこには誰もいなかったみたいに。

 トート博士の姿は、音もなく消えた。

 残されたのは、薄く発光する僕の体と、腕の中で眠るノルニルだけだった。


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