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《──警告。機体各部に重大損傷を確認》
《左腕部接続断裂。左翼ユニット応答なし。頸部および外装に異常あり》
《保護対象の生命反応を確認》
つくづく機械兵でよかったと思うのは、たぶんこれが初めてだった。
どれほど落下したかは測定する暇もなかったが、あれから結構な距離を落ちた。そして、いろんなものに激突した。
鋼鉄の体でなければ機能停止は免れなかっただろう。こうやって、片腕がぼろんともげても、ショックを受けることもなければ、痛みに絶叫することもない。血も出ないから目にも優しい。これが生身の体だったらスプラッターホラー確定の、十八歳未満閲覧禁止というやつだ。
ほんと、機械兵でよかった――などと思い浮かべるあたり、僕の思考回路はだいぶ重症である。
周囲は暗く、湿った土と埃の臭いがする。ひび割れた床。崩された壁の奥から覗く金属片。古びた配管。荒れ果て朽ち果てた、どこだかもわからぬ場所。
ここは――いったい。
少なくともテクナが造った場所で間違いはなさそうだ。
生体反応は依然として感じられないものの、泥に混じった微かな薬品の臭いが、僕の記録領域のどこかに引っかかった。
確信は持てないが、知らない場所とは思えない。
暗闇を照らすべく全身を薄く発光させ、腕の中の彼女の安否を確かめる。
激突寸前にほとんどの機能を放棄し、衝撃を抑えることだけに残存エネルギーの大半をあてたおかげか、外傷は見当たらない。呼吸もある。小さな心臓は今も、とくとくと動いている。
「はあ……」
小さく息を吐き、ぷにっと柔らかい頬についた泥を拭う。
彼女が意識を失った理由。恐らく魔法を使用したことによる消耗だろうと推測する。
彼女はあの時、長く維持していられないと言った。加えて、疲労を表す汗。
魔法――。マギアだけが使える奇跡の力。一見、無から有を生み出すような、神の御業に等しい能力ではあるものの。
彼らにも力を行使する限界はあるようだ。テクナが資源や多大な時間を費やして物質を生成するように、マギアは体力や精神を削ってその魔力を編む。
彼女が持って生まれた星命ノ輝石の性質について、もうだいたい見当がついているが、その特殊すぎる性質が少々重荷となっているのだろう。
それにこの未熟な体だ。マギアとて、子供の頃から強大な魔法を好きなだけ行使できるわけがない。
体が成熟するからこそ、力のコントロールを覚え、安定する。ノルニルの発展途上の精神と肉体では、現時点で力を発現させるには相当な負荷を要する。言ってしまえば、スタミナが足りていないのだろう。
今の彼女の限界は、数回から十回そこら。時間に換算すると……たぶん数十分いくかいかないか、くらいか。
こんな小さな体に、無限の可能性を秘めた力。釣り合いが取れるようになるのは、きっともっと先のことになるのだろうな。
あんなことがあったのに、それでもまだ死んだように眠ったノルニルの背を支え、まるで同情しているみたいな考えを浮かべて――ハッとした。
大変なことに気がついたのだ。
僕は…………いったい、なにをしている。
いや、ほんとうに、どうかしている。
何故、今まで気がつかなかったのだ。
こんな、単純すぎることに。
できるじゃないか。
殺すことが。
できるじゃないか、今なら。




