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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第4章 誰が為の命令

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1

《──警告。機体各部に重大損傷を確認》

《左腕部接続断裂。左翼ユニット応答なし。頸部および外装に異常あり》

《保護対象の生命反応を確認》


 つくづく機械兵でよかったと思うのは、たぶんこれが初めてだった。

 どれほど落下したかは測定する暇もなかったが、あれから結構な距離を落ちた。そして、いろんなものに激突した。


 鋼鉄の体でなければ機能停止は免れなかっただろう。こうやって、片腕がぼろんともげても、ショックを受けることもなければ、痛みに絶叫することもない。血も出ないから目にも優しい。これが生身の体だったらスプラッターホラー確定の、十八歳未満閲覧禁止というやつだ。


 ほんと、機械兵でよかった――などと思い浮かべるあたり、僕の思考回路はだいぶ重症である。


 周囲は暗く、湿った土と埃の臭いがする。ひび割れた床。崩された壁の奥から覗く金属片。古びた配管。荒れ果て朽ち果てた、どこだかもわからぬ場所。


 ここは――いったい。

 少なくともテクナが造った場所で間違いはなさそうだ。

 生体反応は依然として感じられないものの、泥に混じった微かな薬品の臭いが、僕の記録領域《メモリ》のどこかに引っかかった。


 確信は持てないが、知らない場所とは思えない。

 暗闇を照らすべく全身を薄く発光させ、腕の中の彼女の安否を確かめる。

 激突寸前にほとんどの機能を放棄し、衝撃を抑えることだけに残存エネルギーの大半をあてたおかげか、外傷は見当たらない。呼吸もある。小さな心臓は今も、とくとくと動いている。


「はあ……」


 小さく息を吐き、ぷにっと柔らかい頬についた泥を拭う。

 彼女が意識を失った理由。恐らく魔法を使用したことによる消耗だろうと推測する。

 彼女はあの時、長く維持していられないと言った。加えて、疲労を表す汗。

 魔法――。マギアだけが使える奇跡の力。一見、無から有を生み出すような、神の御業《みわざ》に等しい能力ではあるものの。


 彼らにも力を行使する限界はあるようだ。テクナが資源や多大な時間を費やして物質を生成するように、マギアは体力や精神を削ってその魔力を編む。


 彼女が持って生まれた星命ノ輝石(アストライト)の性質について、もうだいたい見当がついているが、その特殊すぎる性質が少々重荷となっているのだろう。


 それにこの未熟な体だ。マギアとて、子供の頃から強大な魔法を好きなだけ行使できるわけがない。


 体が成熟するからこそ、力のコントロールを覚え、安定する。ノルニルの発展途上の精神と肉体では、現時点で力を発現させるには相当な負荷を要する。言ってしまえば、スタミナが足りていないのだろう。


 今の彼女の限界は、数回から十回そこら。時間に換算すると……たぶん数十分いくかいかないか、くらいか。


 こんな小さな体に、無限の可能性を秘めた力。釣り合いが取れるようになるのは、きっともっと先のことになるのだろうな。


 あんなことがあったのに、それでもまだ死んだように眠ったノルニルの背を支え、まるで同情しているみたいな考えを浮かべて――ハッとした。


 大変なことに気がついたのだ。

 僕は…………いったい、なにをしている。

 いや、ほんとうに、どうかしている。

 何故、今まで気がつかなかったのだ。

 こんな、単純すぎることに。

 できるじゃないか。

 殺すことが。

 できるじゃないか、今なら。

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