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「……ふう、危なかった」
心底安心したように息を吐いたのはノルニルだった。
まさか、これは。このあり得ぬ状況を一瞬にして作り出したのは――いや、僕でないとすれば、もうそうとしか思えない。
「これも、君の魔法なのか」
問えば、彼女はぎくりとして視線を逸らした。
「んっ……まー、それは置いといてさ」
「置いておけない。説明してくれ」
「いや……これほんと、あんまり長くはしてられないからさ。ライ君……まだ飛べそう?」
「それなんだが。さっき少し破損したみたいだ。バランスが非常に取りにくい」
「まじ――⁉︎」
「飛べるには飛べる。でも速さが充分に出せない。飛び上がったところで、はたき落とされる可能性が高い」
「そんな……」
「空中がだめなら、地上で迎え撃つしかない」
「ま、待ってよ、戦うっていうの⁉︎ こいつに勝てるの⁉︎」
「勝てる見込みは……46%といったところだ。でも、手がないわけじゃない」
ノルニルはごくっと喉を鳴らす。
「君にも、まだ出せる手札があるんだろ」
「ま、まあ……あるには、あるけども……んむむう」
「その力があれば、勝率を今以上に押し上げられるか」
「うん……できる、と思う」
自信なさげに頷く。だが、迷っている暇もない。彼女が先ほど言ったように、この状態は長く維持できないらしい。うっすらと額に汗を滲ませる彼女に、僕は短く告げた。
「じゃあ、それで頼む」
同時に、モノクロだった視界がパッと色を取り戻した。
風が吹く。雲が流れる。砂埃が舞い上がる。
止まっていたなにもかもが、一斉に動き出した――。
「やばい、解けちゃった――ライ君‼︎」
洞穴のような口腔が僕らを噛み砕くより先に、僕は飛び上がってその一撃をかわした。
それにしても……。
「邪魔すぎる」
「うるさいな‼︎」
片手が塞がっている状態は辛い。それでも、ここはなんとか凌ぐしかない。
顎を上げ、僕は左手を口の中へ躊躇なく突っ込んだ。
「なにそれ! セルフリバース⁉︎」
んなわけがないだろうが……!
斜め下から飛んできた下品なツッコミに、ちょっとイラッとする。
喉の奥まで指を送り、そこで掴んだものを一気に引き抜いた。
「うっ……ライ君……」
ああ、見ての通りだ。
僕たちクロガネシリーズには、それぞれ異なる特殊武装が与えられている。
そして、僕に搭載されたのが――体内に収められた、この一振りの刀。
鍔も柄も、刀身さえも。すべてが黒一色に染め上げられたその名は――『冥刀・鬼殺し』。
元は軍が保有していた国宝級の名刀を模したレプリカ。この刀の携行を許され、なおかつ扱うことができる機械兵は、僕ただ一人だけだ。




