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「これが……」
「うん。ぼくたちの星の、ほんとうの姿」
「……なにかの間違いじゃないのか。こんなのがここから先ずっと……? 嘘だろ、ここだけだろ。きっと、もっと……先に行けばもしかしたら街が見えてくるかもしれない」
やはりこの目で見ないことには信じられない。
スピードを上げ、そのまま飛び続ける。
だが、見渡す限りの乾いた大地がそこから途切れることはなかった。
探索可能範囲に、人と思しき生体反応は感じられない。
なにも。
いない――。
それから小一時間ほど飛んで、西も東も北も南も、上空から何か一つでも動きがないか入念に探したが、無駄に終わった。
空から見ていて思った。こんな場所で、テクナもマギアも、その他の動物だって生きることができるはずがないのだ。
しばらくして、地面から剥き出しになった大きな岩場を見つけ、そこで僕たちは地上に降りることにした。
「こちらKG315677……我が同胞たちよ、聞こえているなら応答せよ。こちらKG315677……」
緊急シグナルを発信して呼びかけるが……、依然として応答はなかった。
「ライ君……大丈夫?」
なんてことだ……。このまま、誰も見つからなければ。
僕はもう彼女が言った、戦争が終わってから三百年経っているという途方もない話を信じなければならないということになる。
本当にテクナは、マギアは……この星から滅び去ったというのか。
岩場に座らせたノルニルは、水筒の水を飲んで僕の方を心配そうに見ている。
「ねえ、言ったとおりでしょ」
「ああ……まさかここまでとは思わなかった。でも、まだ一日の半分も探していない。もっと探せば」
「それでも、見つからないよ。だって、ずっと前にもぼくとおじいちゃんで散々探したんだ……生きてる人を。でもダメだった……それどころか、ぼくらも殺されそうになったんだよ。だからぼくたちは少しでも生き延びようと思って、残っていた自然に、あの丘の上に隠れたんだ……」
「待てよ……殺されるって、ノルニル、なんの話をしているんだ」
「ライ君は、やっぱり知らないんだね。戦争の後に……この星に何があったのか」
岩の上に立ち、懲りずに千里先を見ていた僕は、言われて振り返る。
「テクナとマギアは、もともとこの小さな星で仲良く暮らしてた。でも時代が進んで、二種族は長いケンカを続けるようになったんだ。それは、ライ君も知ってるよね」
ああ……知っている。
テクナはより便利で住みよい暮らしを築きあげるべく、自然を犠牲にして技術を高める生き方を選んだ。
かたやマギアは、より良い暮らしよりも自然と共存することを信条とし、優れた技術を禁忌とした。星の資源をテクナに奪われぬよう独占しようとしたのだ。
相容れない二種族の価値観はやがてぶつかり合い、戦争が勃発した。
「戦の炎はこの星の全体に広がったよ……どっちも譲らない戦いだった。いろんな人が戦場に向かって、そして帰ってこなくなった」
きっと君も、その中の一人だったんだろうねと、彼女はぽつんと言った。
「テクナの作った兵器や爆弾、マギアの破壊の力が、どんどん星を傷つけて、住むところも、食べ物も……自然も、大好きな人もみんな、最後にはなくなっちゃったんだよ」
そうしてお互いを削り合い。
少なく、限りなく少なく。
力をほとんど持たぬ者たちが絞り込まれ。
戦いの炎は小さくなり、やがて消えていった。
「でも本当に大変だったのはその後だったよ。結局、争いは、また次の争いを生むことになった……星の自然がたくさん削り取られて、住む場所もなくなって……、生き残った者たちが満足に分け合うほど余裕なんてなかった」
だからまた争いが起こった。
「食料や住む場所を奪い合って、同族同士の争いも当たり前に起こった。みんな……おかしくなっちゃってた」
「それで、滅びたっていうのか」
「ほとんどはね……でも、本当に滅びるきっかけになったのは、そうじゃなくて――」
彼女が言いかけた、その時だった。
激しい地響きと地震が、なんの予兆もなくその場を襲った。
ノルニルは岩場にへばりついて悲鳴をあげ、僕は岩場から降りて周囲を見渡した。
尋常じゃない揺れ。大地が割れ、叫びを上げる。――そして、内側で規格外の生命エネルギーの反応を感じた。
あり得ない――そう思いたくなる。
つまりそれほど強大な。
足元だ。真下からやってくる――物凄い、速さで接近してくる。
「ノルニルッ、掴まってろ――」
言うや否や、僕は岩場の上にいた彼女を引っ掴んで、上空へ飛び上がった。
瞬間――。
干からびた大地が豪快に破裂し、
「なんだあれは……!」
見たこともない、巨大な生命体が姿を現したのだ。
この星に生息していた生物に例えるならば。何が当てはまるのだろうか。
八脚の蜘蛛に似た形態。頭部には昆虫を思わせる触角。口腔らしき裂け目の奥では、鎌の刃に似た夥しい数の歯が蠢いている。
腹部の後ろから伸びる蠍のそれに似た三本の尾の先端は鋭く、一振りで岩をも砕きそうな凶悪な形状で、黒光りする甲殻類のような外殻は、銃弾程度では傷一つつかない。見ただけで、そう判断できた。
そして、口元の周囲でぎらりと光るのは、六つの赤い眼――。
ここまで説明すれば、そいつがかなり醜悪な見てくれであると想像がつくかもしれないが。
本当に醜悪なのは、その姿ではない。
その大きさである。
なんと言えばいい。黒い小山が、脚を生やして地の底から這い出してきた。
そう錯覚するほどの巨体だった。




