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地上から数千メートルの上空を、風を切り、ただひたすら南を目指して飛ぶ。
「キィイイイイイイイイイイアアアアアアアア――‼︎」
聴覚ユニットがビリビリと音割れするほど甲高い声で叫び続ける魔女を、腕に抱えて。
長距離特化の飛行モード――マッハドライヴは、低出力に抑えている。衝撃緩和も最大限にかけているのに、この騒ぎだ。
「キャッハー! 高い! 高い高い! 飛んでる! 飛んでるよ、ぼく! すごいすごい! ヒャアアアア‼︎ キャアアアアアアア──────‼︎」
首元にしがみついて最初は怖がっていたと思ったら、数分経ったら順応したようで、さっきからずっとこの調子である。
「やばいやばいやばい‼︎ テンション上がるー! やばいよー! こわいけど面白い! こわ面白いッ‼︎」
興奮しているところに水を差すようで悪いけど。これ以上暴れたら僕が君を落とすかもしれないし、あまり喋りすぎると舌を噛んで死ぬぞ。
「すごいよ、空飛べるなんて! ライ君!」
「君はマギアなのに空が飛べないのか」
「そりゃあマギアでも、飛行系の魔法が使える人じゃないと飛べないよ。ぼくはそういうのじゃないから」
そうだったな。
彼らの魔力は、彼らが持って生まれた星命ノ輝石と呼ばれる結晶核によって発現する。
星命ノ輝石の性質によって扱える魔法は限られ、空を飛べる者もいれば、自然を操る者、治癒や身体強化に特化した者もいる。
皆が一様に空を飛べるとは限らないのだ。
そう考えると、技術一つでなんでも飛ばせる人間は、やはりすごいのだと思う。
「なにそれ、マギアだってすごいよ! ……まあいいや、ねえ! もっと、もぉおおっと! 高く飛んでよ!」
高度を上げたところで何になるわけでもないのに。
「ねえ! 高く! 高くしてよ!」
ああ、うるさいな。暴れるな。
面倒になって、僕はさらにぐんと高く、雲の上まで飛び上がる。
注文どおりになって、ノルニルが奇声を発して喜ぶ。
「次! ぎゅーっと急降下‼︎」
「はあ? 遊ぶなよ」
「いいから! やってやってやって‼︎」
落下するという恐れも知らず、ぼよんぼよん腕の中で跳ねる。
ああもう。子供って特にマニュアルどおりにいかないって聞いてたけど、これほど厄介とは……。
「きゃああああ! はははははぁあ! 速い! こわあああい‼︎」
「これで満足したか。そろそろ山を越えるから高度を下げて、地上に集中しないと」
「次は左にギューン!」
「おい」
「できないの?」
「……」
なわけないだろう。
それぐらい――、充電前だ!
急降下しながら、ぎゅるんと捻って左旋回。どうせ右もって言われるだろうから、そのまま右旋回。
上昇して、一回転。フィニッシュで逆回り。
「どうだ」
なんて聞けば、目をキラキラさせて彼女は訴える。
「やばいよ! 心臓ひゅうーんってなったァ! こんなの初めて! すごすぎてもう‼︎ もう…………もうっ、うぷ」
⁉︎
「はぎそう゛」
「やめろ! こんな、腕の中で‼︎ 絶対にやめろ‼︎」
鬱蒼と生い茂った森林、どっしりと並んだ青い山々を次々に追い越していくと、徐々に木や川といった自然が薄くなり……地上に変化が見えてくる。
今まで感じ取れていた鳥や獣の生命反応がぱったりと途絶えた時には。
乾き、ひび割れた丸裸の大地が僕らの真下に現れた。
ここが……かつてテクナが住んでいた――場所。
そこは村だったのか、街だったのか、都市だったのか、戦場だったのか、基地だったのか。
どこに何があったのか見当がつかない。だって、なにも残っていなかったのだ。なにも、なに一つもだ。
草の一本すら生えていない醜い更地が、見通せないほど果てしなく広がっていた。




