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「今のは、君の魔法……なのか」
「うん、そうだよ。きみに使うのは、これで二度目かな。どこかおかしなところ、ある?」
「ない……どこも。おかしいくらい正常だ」
「そう。ならよかった」
いいものか。あのまま壊れていればよかった。そう言ってやりたかったが、嬉しそうに緩んだ彼女の表情を前にして、僕は浮かんだ言葉を口にするのをやめた。
「ついカッとなっちゃった……ごめんね。久しぶりにこうやって誰かと言葉を交わすから、感情が暴走しちゃって。いつもひとり言ばっかりだったから、ぼく、その……少しはしゃいでた」
もう叩いたりしないから、きみも攻撃しないでほしいな。穏やかにそう言われ、僕はその願いに応じることにした。
どうあがいても勝者は彼女だ。敗者の僕は、その要求に従うしかない。
「めんどくさいなあ、機械兵って。テクナと同じ姿のくせに、ゆーずーがきかない」
顔を顰めながら、彼女は僕を括っていたロープを解いた。
「よしよし。攻撃はしないでよね」
僕は一度引き受けたことは、解除されるまでそのまま遂行する。機械というのは、良くも悪くも一方通行なものなのだ。
「それで、僕は君になにをすればいいんだ」
「え? 別になにもしなくていいよ?」
即答……。
「……わかった。こうしよう、交換条件だ」
「じょうけん、こうかん?」
「コウカン! ジョウケンだ! 前と後ろを交換してどうする」
面白がってんのか。
「もういい……話を続けるけど。不本意だが、今の僕は実質捕虜だ。だから君は、僕を好きなようにしていい。火で炙ってもいいし、水に沈めたっていい」
「うわこわ! 真顔で言うことじゃないよ!」
「僕は君が満足するまで、その望みを叶える。それを徹底して遂行する」
「ふんふん、いいね」
「だからその代わり、気が済んだら君は僕を破壊するんだ」
「まぁーたそんなこと言うー」
「いいだろ。これならどちらにも損はない。公平なはずだ」
「なんで、そんなにきみは壊されたいの?」
「マギアにはきっとわからないさ。テクナを差し置いて残った挙げ句、敵に捕縛された僕の居たたまれなさなんて」
史上最低の個体であるに違いない。
散っていった機械兵仲間たちにも、テクナたちにも合わせる顔が見つからない。
「色々と大変なんだね機械兵って……」
ノルニルは同情するように眉を下げると、ちょうどそこで聞き慣れない音が会話を遮った。
「ああ! 大変、長く話しすぎた!」
彼女は音の発信源を突き止めると、慌てた様子で叫ぶ。幼い視線の先で、使い古された鉄鍋が、暖炉の火にかけられたまま激しく揺れていた。
「お鍋を火から下ろさないと、スープがこぼれちゃう」
そう言って車椅子を漕ぎながら、彼女は僕を呼ぶ。
「ねえ、手伝って! 二人分用意するんだから、そこのお皿取ってくれる?」
ノルニルの指先を追うと、視界に食器棚が入った。
「それが君の望みなのか」
随分と安い願いだ。
すると、鍋の中を大きな匙でうんせと引っ掻き回していた彼女が、笑いながら返してくる。
「なに言ってるんだよ。ただお手伝いしてって言ってるだけだよ。望みって言い方、なんか重たすぎ」
はやくはやく。そう急かされて、僕はなんだか腑に落ちないまま、二人分の食器を取り出してテーブルに並べた。
「久々だなあ、ひとりじゃないごはん!」
白豆の代用乳を注いだグラス。
サラダボウルに盛られた、明らかな雑草と色彩あふれる花びらの山。
そして、底の深い食器になみなみと注がれた、ミントグリーンの謎のポタージュスープ。




