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アストライト・ジャーニー ~終星の魔女と機械兵~  作者: 天野 肇
第2章 箱庭の楽園

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5

「今のは、君の魔法……なのか」

「うん、そうだよ。きみに使うのは、これで二度目かな。どこかおかしなところ、ある?」

「ない……どこも。おかしいくらい正常だ」

「そう。ならよかった」


 いいものか。あのまま壊れていればよかった。そう言ってやりたかったが、嬉しそうに緩んだ彼女の表情を前にして、僕は浮かんだ言葉を口にするのをやめた。


「ついカッとなっちゃった……ごめんね。久しぶりにこうやって誰かと言葉を交わすから、感情が暴走しちゃって。いつもひとり言ばっかりだったから、ぼく、その……少しはしゃいでた」


 もう叩いたりしないから、きみも攻撃しないでほしいな。穏やかにそう言われ、僕はその願いに応じることにした。

 どうあがいても勝者は彼女だ。敗者の僕は、その要求に従うしかない。


「めんどくさいなあ、機械兵って。テクナと同じ姿のくせに、ゆーずーがきかない」


 顔を顰(しか)めながら、彼女は僕を括(くく)っていたロープを解いた。


「よしよし。攻撃はしないでよね」


 僕は一度引き受けたことは、解除されるまでそのまま遂行する。機械というのは、良くも悪くも一方通行なものなのだ。


「それで、僕は君になにをすればいいんだ」

「え? 別になにもしなくていいよ?」


 即答……。


「……わかった。こうしよう、交換条件だ」

「じょうけん、こうかん?」

「コウカン! ジョウケンだ! 前と後ろを交換してどうする」


 面白がってんのか。


「もういい……話を続けるけど。不本意だが、今の僕は実質捕虜だ。だから君は、僕を好きなようにしていい。火で炙(あぶ)ってもいいし、水に沈めたっていい」

「うわこわ! 真顔で言うことじゃないよ!」

「僕は君が満足するまで、その望みを叶える。それを徹底して遂行する」

「ふんふん、いいね」

「だからその代わり、気が済んだら君は僕を破壊するんだ」

「まぁーたそんなこと言うー」

「いいだろ。これならどちらにも損はない。公平なはずだ」

「なんで、そんなにきみは壊されたいの?」

「マギアにはきっとわからないさ。テクナを差し置いて残った挙げ句、敵に捕縛された僕の居たたまれなさなんて」


 史上最低の個体であるに違いない。


 散っていった機械兵仲間たちにも、テクナたちにも合わせる顔が見つからない。



「色々と大変なんだね機械兵って……」


 ノルニルは同情するように眉を下げると、ちょうどそこで聞き慣れない音が会話を遮った。


「ああ! 大変、長く話しすぎた!」


 彼女は音の発信源を突き止めると、慌てた様子で叫ぶ。幼い視線の先で、使い古された鉄鍋が、暖炉の火にかけられたまま激しく揺れていた。


「お鍋を火から下ろさないと、スープがこぼれちゃう」


 そう言って車椅子を漕ぎながら、彼女は僕を呼ぶ。


「ねえ、手伝って! 二人分用意するんだから、そこのお皿取ってくれる?」


 ノルニルの指先を追うと、視界に食器棚が入った。


「それが君の望みなのか」


 随分と安い願いだ。

 すると、鍋の中を大きな匙でうんせと引っ掻き回していた彼女が、笑いながら返してくる。


「なに言ってるんだよ。ただお手伝いしてって言ってるだけだよ。望みって言い方、なんか重たすぎ」


 はやくはやく。そう急かされて、僕はなんだか腑に落ちないまま、二人分の食器を取り出してテーブルに並べた。


「久々だなあ、ひとりじゃないごはん!」


 白豆の代用乳を注いだグラス。

 サラダボウルに盛られた、明らかな雑草と色彩あふれる花びらの山。

 そして、底の深い食器になみなみと注がれた、ミントグリーンの謎のポタージュスープ。



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