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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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草原の奥へ(前編)

翌朝6時。

ユースケは窓から差し込む朝日で目を覚ました。

昨日確認した通り、この世界の日の出は6時で固定されている。


身体を起こし、大きく伸びをする。

「んー…」

昨日まで感じていた腕や足のだるさは、ほとんど残っていなかった。

「寝れば疲労も回復するのかな」

今のところ、心配していた筋肉痛もない。

空腹や疲労は現実に近いが、睡眠による回復にはゲームらしい補正があるのかもしれない。

ユースケは身支度を整え、1階の食堂へ向かった。



朝食はパンとスープだった。

宿泊費に含まれているらしく、追加料金は必要ない。

豪華ではないが、朝から動くには十分な量だった。

周囲の席では、他の渡り人たちも食事をしている。


昨日のように泣いたり、取り乱したりしている者は少ない。

不安が消えたわけではないだろう。

それでも、何もしなければ生き残れない。

誰もが少しずつ、この世界での生活を受け入れ始めているように見えた。


「明日にはレベル10まで行けるかな」

「無理だろ」

「でも早く転職したいんだよ」

近くの席から会話が聞こえてくる。

ユースケも目標は同じだった。


まずはレベル10。

そして1次職への転職。

ただし、ブルースライムだけを倒し続けるより、強いモンスターを狙った方が効率は良いかもしれない。

朝食を終えたユースケは宿を出た。



旅立ちの草原へ着くと、すでに多くの渡り人が戦闘を始めていた。

街に近い場所では、昨日と変わらずブルースライムが跳ね回っている。

初めて戦う者が多いのか、あちこちから掛け声や悲鳴が聞こえてきた。

昨日までなら、ユースケもこの辺りで戦っていただろう。

だが、ブルースライムの動きはある程度分かってきた。

昨日ヘルパーで確認したところ、草原の奥には別のモンスターも生息しているらしい。

「同じ敵だけじゃ分からないこともあるよね」

強い相手と戦うリスクはある。

それでも、この世界を理解するには新しい経験も必要だった。


「無理そうならすぐ戻ろう」

ユースケは街から離れる方向へ歩き出した。

進むにつれて、周囲の渡り人は少なくなっていく。

やがて街が遠くに見えるほど進んだ頃、前方の草むらが大きく揺れた。


白い影が飛び出す。

兎だった。

ただし、額には鋭く尖った角が生えている。

ユースケが意識を向けると、頭上に情報が表示された。


【ホーンラビット】

【レベル5】


「こっちも定番だね」

ユースケと同じレベル。

初心者向けのモンスターだとしても、油断できる相手ではない。

片手剣を抜き、木盾を構える。

次の瞬間、ホーンラビットが地面を蹴った。

「速い!」

白い身体が一気に距離を詰めてくる。

ユースケは咄嗟に横へ跳んだ。

鋭い角が目の前を通り過ぎる。


「危なっ!」

すれ違いざまに片手剣を振るったが、刃先がわずかに身体をかすめただけだった。

ホーンラビットは着地すると、すぐに向きを変える。

ブルースライムとは比べものにならない速さだ。

再び突進してくる。

ユースケは横へ動き、角をかわした。

追撃しようとするが、踏み込む前に距離を取られる。


「攻撃できる時間が短いな」

動きを見ながら、もう1度構える。

ホーンラビットが地面を蹴る。

回避。

距離を取る。

再び突進。

今度は、相手が着地する位置を予測して先に動いた。

白い身体が横を通り過ぎる。


その直後、ユースケは踏み込んだ。

「スラッシュ!」

片手剣が淡い光を帯びる。

振り抜いた刃が、振り返ろうとしたホーンラビットを正面から捉えた。

大きく体勢を崩す。

ユースケは逃さず、もう1歩踏み込んだ。

片手剣を振り下ろす。

ホーンラビットの身体が光の粒となって消えた。


【ホーンラビットを討伐しました】

【ラビットミートを獲得しました】


「速かったな…」

ユースケは周囲を確認してから、片手剣を下ろした。

ブルースライムより明らかに強い。

それでも、動きを見て対応すれば戦えない相手ではなかった。

その時、新たな通知が表示される。


【AGIが1上昇しました】


「おっ」

すぐにステータスを確認する。


【AGI】9+1


「回避を繰り返した影響かな」

初めてホーンラビットと戦い、何度も突進を避けた直後だ。

AGIが上がった原因としては十分に考えられる。

ただし、これだけでは断定できない。

「もう少し試してみよう」

ユースケは次のホーンラビットを探した。



2体目との戦闘。

突進をかわす。

着地へ合わせて距離を詰める。

片手剣を振るい、相手が向きを変える前に離れる。

最初の戦闘よりも落ち着いて動けていた。

何度か攻防を繰り返し、ホーンラビットを倒す。

その直後。


【DEXが1上昇しました】


「今度はDEXか」


ユースケはステータスを開いた。

【DEX】9+1


「攻撃を当て続けた影響かもしれないね」

STRは剣を振り続けた時に上昇した。

今回は、素早いホーンラビットへ攻撃を命中させ続けた直後にDEXが上がっている。

攻撃することと、正確に当てること。

同じ戦闘行動でも、成長する能力は細かく分かれているのかもしれない。


「思った以上に作り込まれてるね」

ユースケは片手剣を握り直し、次のホーンラビットへ向かった。

だが、少し慣れてきたことが油断につながった。

ホーンラビットが突進してくる。

先ほどと同じようにかわそうとしたが、踏み出すタイミングが遅れた。


「っ!」

鋭い角が左足をかすめる。

熱を持ったような痛みが走り、身体がよろめいた。

ホーンラビットはすぐに向きを変える。

ユースケは慌てて追いかけず、木盾を構えた。

正面から突進を受け止める。

左腕に衝撃が走ったが、今度は体勢を崩さない。

距離が離れたところで、相手の動きをもう1度見る。


「焦らなくていい」

呼吸を整え、次の突進を横へかわす。

着地に合わせて片手剣を振るう。

数度の攻防の末、ホーンラビットは光の粒となって消えた。


【ホーンラビットを討伐しました】


周囲に別のモンスターがいないことを確認してから、ステータスを開く。


【HP】24/28

【MP】11/14


「4減ったか」

スラッシュを1回使用したため、MPは3減っている。

角が足をかすめた攻撃では、HPを4失ったらしい。

レベルが同じ相手でも、何度か攻撃を受ければ危険な状態になる。

「慣れてきた時が1番危ないね」

ユースケは近くの岩へ腰を下ろした。

傷薬を使うか考えたが、残りは3本しかない。

HPを10回復するため、今使うと効果の一部が無駄になる。


まずは少し休み、変化を確認することにした。

アイテムボックスから水筒を取り出し、水を飲む。

しばらくすると、ステータスの数値が変わった。


【HP】25/28

【MP】12/14


「ん?」

そのまま座って待つ。

さらに数分後。


【HP】26/28

【MP】13/14


「自然に回復してるね」

ユースケはヘルパーへ問いかけた。


(HPとMPの回復方法)

【HPとMPは時間経過で自然回復します】


(自然回復の速度)

【座位時は自然回復速度が上昇します】

【横臥時はさらに上昇します】


「横臥…寝転がるってことか」

座ることで回復速度が上がる。

さらに横になれば、もっと早く回復するらしい。

ただし、モンスターが出現する草原で無防備に寝転がるのは危険すぎる。


「戦闘中に寝転がって回復は絵面がシュールすぎるね」

思わず口元が緩む。

ゲームで座って回復するのは定番だが、寝転がるほど速くなる仕組みは初めてだった。

傷薬は戦闘中や、すぐに回復する必要がある時に使う。

安全を確保できる状況なら、座って自然回復を待つ。


「使い分けが大事になりそうだね」

また1つ、この世界の仕様が分かった。

HPとMPが十分に戻ったことを確認し、ユースケは岩から立ち上がった。

「よし、もう少し試してみよう」



その後も、休憩を挟みながら戦闘を続けた。

突進を避ける。

片手剣を振るう。

距離を取り、動きを観察する。

最初は目で追うだけで精一杯だった速さにも、少しずつ慣れてきた。

そして――。


【レベルが6に上昇しました】


「上がったね」

ユースケはすぐにステータスを確認した。


【名前】ユースケ

【職業】ノービス

【レベル】6

【HP】30

【MP】15

【STR】10+1

【VIT】10

【AGI】10+1

【DEX】10+1

【INT】10

【LUK】10


「転職まであと4レベルか」

ブルースライムよりも、ホーンラビットの方が明らかに経験値は多い。

危険は増えたが、安定して倒せるならレベル上げの効率も良さそうだった。

ただし、少し慣れただけで攻撃を受けた。

油断すれば、すぐに状況は変わる。


「無理をせずに続けよう」

ユースケは片手剣を構え直した。

新しいモンスター。

新しい行動成長。

自然回復という新しい仕様。

この世界には、まだ知らないことが多すぎる。

だからこそ、確かめられることから1つずつ

試していく。


少し離れた草むらから、白い角が覗いた。

「次も慎重にいこう」

ユースケはホーンラビットの動きを見ながら、ゆっくりと距離を詰めていった。


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