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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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草原の奥へ(後編)

昼頃。

ユースケは周囲にモンスターがいないことを確認し、大きな木の陰へ腰を下ろした。


アイテムボックスからパンと水筒を取り出す。

パンは今朝、街を出る前に2個買っておいた。

昼食用と、帰りが遅くなった時の夜食用。

1個100Gだったため、所持金は1,300Gまで減っている。


飲料水は街で無料でもらえる。

水筒も初心者案内所で支給されたものだった。

「本当に便利だね」

食料も水筒も、重さを感じることなく持ち歩ける。

焼きたてではないパンを一口かじる。

少し硬くなっていたが、空腹の今は十分に美味しかった。

どうやらアイテムボックスに、時間を止める機能はないらしい。


食事を取らずに戦い続けたらどうなるのか。

空腹が強くなるだけなのか。

動きが鈍くなったり、ステータスへ影響が出たりするのか。

確認したい気持ちはある。

だが、今すぐ試す必要はなかった。

「検証にも優先順位があるからね」

死ねば終わりの世界で、空腹の限界を調べる理由はない。

パンを食べ終え、水筒の水を飲む。

十分に休憩してから、ユースケは立ち上がった。



午後もホーンラビットとの戦闘を続けた。

突進の予備動作を見逃さない。

横へかわし、着地に合わせて片手剣を振るう。

距離を取られたら深追いせず、次の攻撃を待つ。

危険を感じた時だけスラッシュを使う。

午前中よりも安定して倒せるようになっていた。

それでも油断はしない。

同じ動きを繰り返すうちに、慣れから判断が雑になることは、すでに経験している。

ホーンラビットの突進をかわし、片手剣を振り下ろす。

攻撃を受けた魔物が地面を跳ねた。

さらに踏み込み、もう1撃。

白い身体が光の粒となって消える。


【ホーンラビットを討伐しました】


その直後、新たな通知が表示された。


【STRが1上昇しました】


「また上がったね」

ユースケはステータスを確認する。


【STR】10+2


最初にSTRが上昇してからも、片手剣を振り続けてきた。

やはり、攻撃行動の積み重ねが関係している可能性は高い。

ただし、必要な攻撃回数までは分からない。

倒したモンスターの強さや、与えたダメージ量が影響していることも考えられる。

「まだ条件までは絞れないかな」

それでも、戦い続ければ行動に応じた能力が成長することは間違いなさそうだった。

「これも情報だね」

ユースケは片手剣を握り直し、次のホーンラビットへ向かった。



戦闘と休憩を繰り返しているうちに、空が赤く染まり始めた。

ユースケが時計を確認する。

17時59分。


昨日、街で見た時と同じように、太陽が地平線へ近付いている。

そして18時。


最後の光が沈むと、草原の景色が夜の色へ切り替わった。

頭上には、大きな満月が浮かんでいる。

月明かりが草原を淡く照らし、想像していたほど暗くはなかった。


「これなら戦えそうだね」

昨日の夜も、同じような満月が出ていた。

季節だけでなく、月の満ち欠けまで固定されているのだろうか。

ユースケはヘルパーへ問いかけた。


(月齢)

【本世界に月齢はありません】


「やっぱり固定なんだ」

月が欠けることはなく、毎晩同じ明るさが保たれるらしい。

夜でも活動しやすいよう、ゲームとして調整されているのだろう。


「玄武様も夜更かしを推奨してるってことかな」

満月を見上げ、少し考える。

「異世界最高だね」

新しいゲームを始めれば、時間を忘れて遊び続ける。

現実ならマユたちに止められているところだ。

思わず口元が緩む。


ただし、月明かりがあるとはいえ、昼間と同じようには見えない。

草むらの陰が濃くなり、遠くにいるモンスターも見つけにくい。

「無理はしないでおこう」

少しでも危険を感じたら、すぐ街の近くへ戻る。

そう決めて、ユースケは片手剣を構えた。



夜になっても、ホーンラビットは変わらず草原を動き回っていた。

ただし、こちらから見つけるのは昼より難しい。

ユースケの右側で草むらが揺れた。

すぐに木盾を構える。

直後、ホーンラビットが飛び出してきた。

突進を横へかわす。

着地したところへ片手剣を振るう。

攻撃が命中したが、無理に追わず距離を取った。


再び突進してきたところを避け、今度は正面から剣を振り下ろす。

ホーンラビットが光の粒となって消えた。


【ホーンラビットを討伐しました】


「夜は、いつも以上に慎重にだね」

焦らない。

無理をしない。

そんな戦闘を繰り返していた時だった。


【片手剣熟練度がLv3になりました】

【ワイドスラッシュを習得しました】


「やった!」

レベルアップとは別の、新しい技を覚える瞬間。

何度経験しても嬉しいものだった。


「この瞬間、好きすぎるな」

通知を見つめ、思わず笑みを浮かべる。

「技を閃いた時のピコーンってやつだね」

今回は頭の中で音が鳴ったわけではない。

それでも、感覚としてはよく似ていた。

ユースケはすぐにスキルの詳細を確認する。


【ワイドスラッシュ】

消費MP:6

前方広範囲へ斬撃を放つ


「範囲攻撃か」

スラッシュは、目の前の敵を強く斬りつける単体攻撃。

ワイドスラッシュは、前方にいる複数の敵を巻き込めるらしい。


使い方次第では、複数のモンスターに囲まれた時の切り札になる。

一方で、消費MPはスラッシュの2倍だった。

現在のMPでは、自然回復を挟まなければ何度も使えない。


「試すならブルースライムかな」

今いる場所で、複数のホーンラビットを相手にするのは危険すぎる。

新しいスキルほど、安全な条件で性能を確かめた方がいい。


「街の近くで試してみよう」

すぐに使いたい気持ちはある。

だが、夜の草原で無理をする理由はなかった。

ユースケは奥へ進むのをやめ、街に近い方向へ移動しながら、単独のホーンラビットだけを狙って戦闘を続けた。



休憩を挟みながら戦っているうちに、夜はさらに深くなった。

昼間に比べて、草原にいる渡り人は少ない。

時折、遠くから戦闘の掛け声が聞こえる程度だった。

ユースケは周囲にモンスターがいないことを確認し、時計を見る。

23時を回っている。


「今日はここまでだね」

ユースケは片手剣を鞘へ収め、最後にステータスを確認した。


【名前】ユースケ

【職業】ノービス

【レベル】8

【HP】34

【MP】17

【STR】12+2

【VIT】12

【AGI】12+1

【DEX】12+1

【INT】12

【LUK】12


【片手剣 Lv3】

【盾 Lv1】


レベルは5から8まで上がった。

行動成長ではSTRがさらに上昇。

AGIとDEXも、それぞれ1ずつ伸びている。


片手剣熟練度はLv3になり、ワイドスラッシュも習得した。

十分な成果だった。

ノービスの上限はレベル10。

転職まで、あと2レベル。


「明日には届くかな」

ユースケは静かな草原を振り返る。

今すぐワイドスラッシュを試したい。

だが、それを始めれば、また時間を忘れてしまいそうだった。


「続きは街の近くで少しだけだね」

誰に言い訳するでもなく呟き、街へ向かって歩き出した。


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