やらぬ善よりやる偽善(前編)
0時頃。
ユースケは旅立ちの草原から街へ戻ってきた。
夜風が火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
朝から夜まで戦い続けた疲労はあったが、その表情には充実感が浮かんでいた。
「今日はよく戦ったな」
レベルは8。
片手剣熟練度はLv3。
新たにワイドスラッシュも習得した。
さらに、STR、AGI、DEXも行動によって成長した。
この世界の仕組みを、また少し理解できた気がする。
まず向かったのは冒険者ギルドだった。
今日集めた素材を換金するためだ。
◇
さすがにこの時間になると、冒険者ギルド内は静かだった。
ユースケは受付へ向かう。
「換金をお願いします」
受付嬢は笑顔で頷いた。
「承りました」
素材の確認を終えると、受付嬢が結果を告げる。
「ラビットミート48個ですね」
「9,600Gで買い取らせていただきます」
「お願いします」
【ラビットミート×48を売却しました】
【9,600Gを獲得しました】
【所持金】
【10,900G】
表示された金額を見つめる。
昨日は宿代を払えば、ほとんど残らなかった。
それを思えば、大きな進歩だった。
ホーンラビットを安定して狩れるようになれば、生活にも少しずつ余裕が生まれそうだ。
今日、宿屋に泊まらず野宿すれば、新しい武器を買える。
一番安い武器は10,000G。
違う武器種も検証してみたい。
しかし、もうすぐ転職だ。
転職すれば、得意な武器も変わってくるかもしれない。
少し考える。
「さすがにやめておこうかな」
新しい武器のために野宿したとマユに知られたら、後で絶対に怒られる。
「まずは転職を優先だね」
ユースケはそう決めた。
◇
ギルドを出たユースケは、そのまま北門へ向かった。
街の近くには、夜でもブルースライムがいる。
「ワイドスラッシュを試さずに寝られる道理があるだろうか」
覚えたばかりのスキルだ。
できるだけ早く感覚を掴んでおきたい。
さっきは冷静な俺カコイイみたいに振る舞ったが、我慢できるわけがなかった。
ユースケは苦笑しながら、ブルースライムへ近付く。
片手剣を構えた。
「ワイドスラッシュ!」
片手剣が淡く光る。
次の瞬間。
横薙ぎの斬撃が放たれた。
ブルースライムは、そのまま光の粒となって消えた。
【ブルースライムを討伐しました】
「1発か」
スラッシュと比べた威力は、これだけでは分からない。
だが、斬撃は前方から横方向へ大きく広がっていた。
「複数相手なら使いやすそうだね」
問題は、実際に何体まで巻き込めるのか。
ユースケは周囲を見回した。
この時間帯なら、近くに他のプレイヤーはいない。
迷惑をかける心配もなさそうだ。
「よし、試してみよう」
ブルースライムを3匹引き連れ、ある程度まとまったところで振り返る。
「ワイドスラッシュ!」
横薙ぎの斬撃が3匹をまとめて捉えた。
【ブルースライム3匹を討伐しました】
「マジか! めちゃ効率いいぞ」
MMORPGではトレイン狩りと呼ばれ、ゲームによってはノーマナー行為とされることもある。
だが、ここには他のプレイヤーもいない。
迷惑がかからない範囲なら問題なし。
今そう決めた。
「やらぬ善よりやる偽善だ!」
一拍置く。
「…いや、意味は違うか」
自分でツッコミを入れ、ユースケは苦笑した。
ワイドスラッシュの消費MPは6。
今の最大MPでは、連発できても2回までだ。
「やっぱりMP消費は重いね」
少し休憩してMPの自然回復を待つ。
十分に戻ったところで、今度は3匹。
「ワイドスラッシュ!」
【ブルースライム3匹を討伐しました】
さらに自然回復を挟み、次は4匹を集める。
「ワイドスラッシュ!」
【ブルースライム4匹を討伐しました】
その直後だった。
【MPが1上昇しました】
「おっ、MPも上がったね」
ユースケはステータスを確認する。
これまでの成長を考えると、MPを消費する行動の積み重ねが影響している可能性は高い。
「なるほど。MPも消費行動で成長するのか」
ふと、別の可能性が頭をよぎる。
「だとすると、HPもダメージを受け続ければ上がりやすいのかな」
少し考える。
しかし、すぐに首を横に振った。
「…いや、さすがに命を張る検証は後回しだね」
HPを増やすために、わざと攻撃を受け続ける。
ソロで試すには、あまりにもリスクが高い。
「もう少し安全に試せるようになってからかな」
検証したい気持ちはある。
だが、死ねば終わりだ。
今は安全に確認できることから試していけばいい。
◇
街へ戻る途中。
ユースケはふと思い出した。
「そういえば、ノービスってレベルはどこまで上がるんだろう」
ヘルパーを呼び出して確認する。
すぐに回答が表示された。
【ノービスのレベル上限は10です】
【レベル10到達後は経験値を獲得できません】
【転職を行うことで再びレベルアップが可能になります】
「やっぱり上限があるのか」
レベル10になれば、そのままでは経験値を獲得できなくなる。
転職は、さらに成長するためにも必要らしい。
さらに表示が続く。
【レベル上限到達後も能力成長は継続します】
【武器熟練度は継続して上昇します】
「なるほど」
レベルが上がらなくなっても、行動による能力成長と武器熟練度は止まらない。
「これも覚えておこう」
新しい職業。
新しいスキル。
新しい武器。
転職すれば、また試したいことが増えそうだ。
だが、まずは目の前の目標。
「まずはレベル10だね」
そして、ノービス卒業。
ユースケが時計を確認する。
「もう2時か」
さすがに今日は休んだ方がいい。
「今度こそ宿屋へ行こう」
そう呟き、街へ戻っていった。




