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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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やらぬ善よりやる偽善(前編)

0時頃。

ユースケは旅立ちの草原から街へ戻ってきた。

夜風が火照った身体を心地よく冷ましてくれる。

朝から夜まで戦い続けた疲労はあったが、その表情には充実感が浮かんでいた。


「今日はよく戦ったな」

レベルは8。

片手剣熟練度はLv3。

新たにワイドスラッシュも習得した。

さらに、STR、AGI、DEXも行動によって成長した。

この世界の仕組みを、また少し理解できた気がする。

まず向かったのは冒険者ギルドだった。

今日集めた素材を換金するためだ。



さすがにこの時間になると、冒険者ギルド内は静かだった。

ユースケは受付へ向かう。

「換金をお願いします」

受付嬢は笑顔で頷いた。

「承りました」

素材の確認を終えると、受付嬢が結果を告げる。

「ラビットミート48個ですね」

「9,600Gで買い取らせていただきます」

「お願いします」


【ラビットミート×48を売却しました】

【9,600Gを獲得しました】

【所持金】

【10,900G】


表示された金額を見つめる。

昨日は宿代を払えば、ほとんど残らなかった。

それを思えば、大きな進歩だった。

ホーンラビットを安定して狩れるようになれば、生活にも少しずつ余裕が生まれそうだ。

今日、宿屋に泊まらず野宿すれば、新しい武器を買える。

一番安い武器は10,000G。

違う武器種も検証してみたい。

しかし、もうすぐ転職だ。

転職すれば、得意な武器も変わってくるかもしれない。

少し考える。

「さすがにやめておこうかな」


新しい武器のために野宿したとマユに知られたら、後で絶対に怒られる。

「まずは転職を優先だね」

ユースケはそう決めた。



ギルドを出たユースケは、そのまま北門へ向かった。

街の近くには、夜でもブルースライムがいる。

「ワイドスラッシュを試さずに寝られる道理があるだろうか」

覚えたばかりのスキルだ。

できるだけ早く感覚を掴んでおきたい。

さっきは冷静な俺カコイイみたいに振る舞ったが、我慢できるわけがなかった。

ユースケは苦笑しながら、ブルースライムへ近付く。

片手剣を構えた。

「ワイドスラッシュ!」

片手剣が淡く光る。

次の瞬間。

横薙ぎの斬撃が放たれた。

ブルースライムは、そのまま光の粒となって消えた。


【ブルースライムを討伐しました】


「1発か」

スラッシュと比べた威力は、これだけでは分からない。

だが、斬撃は前方から横方向へ大きく広がっていた。

「複数相手なら使いやすそうだね」

問題は、実際に何体まで巻き込めるのか。

ユースケは周囲を見回した。

この時間帯なら、近くに他のプレイヤーはいない。

迷惑をかける心配もなさそうだ。


「よし、試してみよう」

ブルースライムを3匹引き連れ、ある程度まとまったところで振り返る。

「ワイドスラッシュ!」

横薙ぎの斬撃が3匹をまとめて捉えた。


【ブルースライム3匹を討伐しました】


「マジか! めちゃ効率いいぞ」

MMORPGではトレイン狩りと呼ばれ、ゲームによってはノーマナー行為とされることもある。

だが、ここには他のプレイヤーもいない。

迷惑がかからない範囲なら問題なし。

今そう決めた。


「やらぬ善よりやる偽善だ!」


一拍置く。

「…いや、意味は違うか」

自分でツッコミを入れ、ユースケは苦笑した。


ワイドスラッシュの消費MPは6。

今の最大MPでは、連発できても2回までだ。

「やっぱりMP消費は重いね」


少し休憩してMPの自然回復を待つ。

十分に戻ったところで、今度は3匹。

「ワイドスラッシュ!」


【ブルースライム3匹を討伐しました】


さらに自然回復を挟み、次は4匹を集める。

「ワイドスラッシュ!」


【ブルースライム4匹を討伐しました】

その直後だった。


【MPが1上昇しました】


「おっ、MPも上がったね」

ユースケはステータスを確認する。

これまでの成長を考えると、MPを消費する行動の積み重ねが影響している可能性は高い。

「なるほど。MPも消費行動で成長するのか」


ふと、別の可能性が頭をよぎる。

「だとすると、HPもダメージを受け続ければ上がりやすいのかな」


少し考える。

しかし、すぐに首を横に振った。

「…いや、さすがに命を張る検証は後回しだね」


HPを増やすために、わざと攻撃を受け続ける。

ソロで試すには、あまりにもリスクが高い。

「もう少し安全に試せるようになってからかな」

検証したい気持ちはある。

だが、死ねば終わりだ。

今は安全に確認できることから試していけばいい。



街へ戻る途中。

ユースケはふと思い出した。

「そういえば、ノービスってレベルはどこまで上がるんだろう」

ヘルパーを呼び出して確認する。

すぐに回答が表示された。


【ノービスのレベル上限は10です】

【レベル10到達後は経験値を獲得できません】

【転職を行うことで再びレベルアップが可能になります】


「やっぱり上限があるのか」

レベル10になれば、そのままでは経験値を獲得できなくなる。

転職は、さらに成長するためにも必要らしい。

さらに表示が続く。


【レベル上限到達後も能力成長は継続します】

【武器熟練度は継続して上昇します】


「なるほど」

レベルが上がらなくなっても、行動による能力成長と武器熟練度は止まらない。

「これも覚えておこう」


新しい職業。

新しいスキル。

新しい武器。

転職すれば、また試したいことが増えそうだ。

だが、まずは目の前の目標。

「まずはレベル10だね」

そして、ノービス卒業。


ユースケが時計を確認する。

「もう2時か」

さすがに今日は休んだ方がいい。

「今度こそ宿屋へ行こう」

そう呟き、街へ戻っていった。


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