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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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やらぬ善よりやる偽善(後編)

ようやく宿屋の前まで辿り着いた。

すると、入口近くのベンチに若い女性が2人座り込んでいた。

こんな時間にどうしたのだろう。


一瞬、声をかけるか迷う。

夜中に見知らぬ男性から声をかけられれば、警戒するかもしれない。

それでも、放っておくことはできなかった。


ナンパと勘違いされないよう少し距離を取り、できるだけ穏やかに声をかける。

「どうかしましたか?」

2人が顔を上げた。

「宿屋に泊まるお金がなくて…」

「晩御飯を食べる分しか稼げなかったんです」


改めて見ると、高校生くらいだろうか。

どこかサクラとマユを思わせる雰囲気があった。

そのせいか、余計に放っておけない。


「俺も初日はスライムを狩り続けたけど、所持金はギリギリだったよ」

2人の表情を見る。

かなり困っているようだった。


どうするか。

所持金は10,900G。

3人分の宿代を払えば、残りは1,900G。

決して余裕があるわけではない。

相手は見ず知らずの人間だ。

貸したところで、本当に返ってくる保証もない。

自分だって、この先を生き残るために金は必要になる。


それでも…。

目の前で困っている2人を、このまま放っておくのは違う気がした。

ユースケは小さく息を吐く。

「…仕方ないか」


これを見なかったことにしたら、明日からのリアルラックにも影響しそうだ。


やらぬ善よりやる偽善!

さっきと同じ諺だけど、今回はガチだ。


「今日の宿代くらいなら何とかなるから、貸すよ」

2人が驚いたように顔を見合わせた。

「え…」

「でも、いつ返せるか分からないし…」

「初めてお会いした方に、そこまでお世話になるわけには…」

「また会った時に、余裕があれば返してくれればいいよ」


ユースケはできるだけ安心させるように笑った。

「俺もいつか、誰かに助けてもらうかもしれないからね」

2人は黙り込んだ。

しばらくすると、片方の女性が目元を拭った。

「ありがとうございます…」

もう1人も深々と頭を下げる。

「本当にありがとうございます」

「気にしなくていいよ」


この世界では、いつ誰が困るか分からない。

今日は自分が助ける側だった。

明日は、自分が助けられる側かもしれない。

持ちつ持たれつ。

それくらいでいい。


「それじゃ、受付に行こうか」

2人が顔を上げる。

「本当にいいんですか?」

「うん」

ユースケは宿屋へ入り、受付へ向かった。

「3人分、1泊お願いします」

受付の女性が微笑む。

「9,000Gになります」


【9,000Gを支払いました】

【所持金】

【1,900G】


表示された金額を見て、ユースケは苦笑する。

新しい武器が遠のいたな…。

「まあいいか」

また明日から稼げばいい。

レベルが上がれば、もっと効率の良い狩場も見つかるはずだ。


受付から鍵を受け取る。

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」

「ありがとうございました」

2人と別れ、それぞれの部屋へ向かった。



部屋へ戻ったユースケは、シャワーを浴びた。

温かい湯を浴びると、張り詰めていた力が抜けていく。

今日だけで、かなりの時間を戦った。

ホーンラビット。

新しいスキル。

ステータスの成長。

夜の草原。

トレイン狩りも楽しかった。

そして最後には、知らない2人の宿代まで払っている。


「今日は本当に色々あったな…」

ベッドへ腰を下ろす。

疲れてはいる。

それでも、不思議と後悔はなかった。

ユースケは眠る前に、最後の確認としてヘルパーを開いた。


【名前】ユースケ

【職業】ノービス

【レベル】8

【HP】34

【MP】17+1

【STR】12+2

【VIT】12

【AGI】12+1

【DEX】12+1

【INT】12

【LUK】12


【片手剣 Lv3】

【盾 Lv1】


「フルダイブゲームとしては、最高に面白いな」

これが普通のゲームなら、間違いなく夢中になっていた。

「でも…」

どれだけ面白くても、普通のゲームではない。

死ねば終わり。

命を賭けたゲームなのだ。


「強くなりたいから無茶をするんじゃない。生き残るために強くならないと」

自分に言い聞かせる。

無茶をしない。

焦らない。

まだ開始から2日目。


分からないことだらけだ。

それでも、この世界の仕組みは少しずつ見えてきている。

ユースケはヘルパーを閉じた。

「明日はレベル10まで上げたいな」

転職条件を満たす。

それが明日の最優先目標だ。


戦士。

格闘家。

盗賊。

僧侶。

狩人。

魔術師。


どんな特徴があるのか。

どんなスキルを覚えられるのか。

武器との相性はどうなのか。

考えるだけで楽しみになってくる。

「これは…明日が待ち遠しいな」

自然と笑みが浮かぶ。

その時、ふと3人の顔が頭に浮かんだ。


タケシ。

サクラ。

マユ。

3人もきっと、それぞれの場所で戦っている。


タケシなら、冷静に状況を見ながら進めているはずだ。

サクラは、弓を使って楽しそうに戦っていそうだ。

マユは…。

きっと、どこかで誰かの面倒を見ている気がする。


「3人とも無事だといいな」

ユースケは静かに目を閉じた。

必ず再会する。

そのためにも、明日はもっと強くなる。


Four Kingdoms Onlineで迎える2度目の夜。

明日になれば、また新しい発見がある。

そんなことを考えながら、ユースケは眠りへ落ちていった。


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