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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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初めてのフレンド

翌朝。

ユースケは勢いよく目を覚ました。


(時刻)

【8時07分】


「しまった!」

飛び起きる。

昨夜はワイドスラッシュの検証を終えてから宿へ戻り、眠ったのは3時近くだった。

本来なら6時には起きて、すぐに狩りへ向かう予定だった。

「2時間以上も寝坊したか…」


朝の草原は人が少ない。

昨日の経験から、ホーンラビットの狩場まで進めば効率良くレベルを上げられることも分かっている。

転職まであと2レベル。

この寝坊は痛い。


ユースケは時計を見つめ、小さく息を吐いた。

「…まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ないか」

失った時間は戻ってこない。

今日できることをやればいい。

気持ちを切り替え、身支度を整えた。



1階の食堂へ降りると、すぐに朝食が運ばれてきた。

今日の朝食はラビットシチューと焼きたてのパンだった。

「いただきます」

昨日まで倒していたホーンラビットが、今日は食卓に並んでいる。

少し不思議な気分だった。


スプーンですくったシチューを口へ運ぶ。

柔らかく煮込まれた肉が、ほろりと崩れた。

「やっぱ、ここのご飯は美味いな」

温かな料理が、空腹だった身体に染み込んでいく。

食事を終え、席を立とうとした。


その時だった。

「あっ!」

聞き覚えのある明るい声が響いた。

振り返ると、宿の入口に昨日助けた2人の少女が立っている。

ユースケを見つけると、すぐにこちらへ駆け寄ってきた。


「昨日は本当にありがとうございました!」

元気いっぱいに頭を下げる少女。

隣でも、もう1人の少女が少し照れながら頭を下げる。

「ありがとうございました」

「ちゃんと休めたみたいで良かった」

ユースケは安心して笑った。


「改めて、ユースケです」

「私はシオリです!」

明るく名乗った少女が胸を張る。

「ヒナです。よろしくお願いします」

ヒナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「よろしく」


ちょうどその頃、宿の従業員が2人の席へ朝食を運んできた。

「せっかくだし、食べながら話そうか」

「はい!」

2人が席に着き、ユースケも向かいへ腰を

下ろす。


「2人は高校生?」

「高校2年生です!」

シオリが答える。

「幼馴染で、同じ高校なんです」

ヒナも続けた。

「そうなんだ。俺は大学1年だから、2つ上だね」

「大学生だったんですね!」

シオリが目を丸くする。


「敬語じゃなくてもいいよ。その方が話しやすいし」

「本当ですか?」

「うん」

「じゃあ、お言葉に甘えます!」

シオリが笑う。

「よろしくね、ユースケさん」

ヒナも少し照れながら微笑んだ。

食事をしながら話しているうちに、昨日まであった距離も少しずつなくなっていく。


「そういえば、ユースケさん」

シオリが食事の手を止めた。

「どうしたの?」

「フレンド登録しない?」

「フレンド?」

「うん。お金が貯まったら連絡したいし」

昨日の宿泊代を気にしているのだろう。

フレンドになれば、いつでも連絡を取れる。

今後、何かあった時にも便利そうだ。

「もちろん、いいよ」

3人はそれぞれヘルパーを開いた。


(フレンド登録)

【対象プレイヤーの承認後、フレンド登録が完了します】

【フレンドはメッセージ・通話機能が利用できます】


ユースケが承認すると、すぐに通知が表示された。


【シオリとフレンドになりました】

【ヒナとフレンドになりました】


「これでいつでも連絡できるね!」

シオリが嬉しそうに笑う。

「困ったことがあったら遠慮なく連絡して」

「うん! お金もちゃんと返すから!」

「無理しなくていいよ」

「はい。ありがとうございます」

ヒナも嬉しそうに微笑んだ。

ユースケも自然と笑う。

この世界で初めてできたフレンドだった。



宿を出ると、3人で旅立ちの草原へ向かった。

歩きながらユースケが尋ねる。

「2人は今、レベルいくつ?」

「2人とも4だよ!」

「俺は8だから、少し先に進んでるくらいかな」

「レベル8!?」

シオリが驚く。

「すごいです」

ヒナも感心したように言った。


「昨日ずっと狩ってたからね」

レベル4なら、まだ街の近くでブルースライムを相手にしている頃だろう。

本当なら、このままホーンラビットの狩場へ向かいたい。

だが、少しくらいなら時間はある。

「よかったら、狩りのコツを少しだけ教えようか」

「本当!?」

シオリの目が輝く。

「ぜひお願いします」

ヒナも頭を下げた。



旅立ちの草原。

街の近くでは、ブルースライムがあちこちで跳ね回っている。

ユースケはその中から1匹を指差した。

「まずは焦らないことかな」

シオリとヒナが真剣な顔で聞いている。

「突進をよく見て避ける。そのあと1歩踏み込んで攻撃すると当てやすいよ」

「なるほど!」

シオリが片手剣を構える。


ブルースライムが跳ねた。

次の瞬間、勢いよく突進してくる。

シオリはタイミングを合わせて横へ動いた。

ブルースライムが目の前を通り過ぎる。

「今!」

その声に反応し、シオリが1歩踏み込む。

木製の片手剣が振り下ろされ、ブルースライムを捉えた。

「やった!」

「その調子。次は声をかけなくてもいけそうだね」

「やってみる!」

シオリは再び片手剣を構えた。


続いてヒナも挑戦する。

こちらはシオリより慎重だった。

ブルースライムの動きをじっと見つめる。

突進。

横へ避ける。

そして、すぐに踏み込んだ。

片手剣がブルースライムを捉える。

「当たりました」

ヒナが嬉しそうに笑った。


「うん。この調子なら大丈夫そうだね」

2人とも、まだ戦闘に慣れていないだけだ。

少し経験を積めば、自分たちでも十分戦えそうだった。

「そうだ。昨日試してて分かったことがあるんだけど」

2人がユースケを見る。


「攻撃を続けたらSTRが上がった。回避を繰り返したらAGI、攻撃を当て続けたらDEXも上がったよ」

「やはりそういう感じで上がるのですね」

ヒナが頷く。

「みたいだね。まだ全部は分からないけど、行動によって伸びやすさがあるみたい」

「それと、2人とも片手剣を使ってるよね」

「うん!」

「俺は片手剣を使い続けてたら、熟練度がLv2になってスラッシュを覚えたよ」

「スキル!」

シオリの目が輝く。

「俺はレベル5くらいの時に覚えたから、2人もこのまま使ってればもう少しかもしれないね」

「楽しみ!」

「頑張ります」

「焦らなくていいよ。今みたいに安全に戦ってれば、自然と強くなるから」

2人は揃って頷いた。



しばらく進むと、草原の奥へ続く道が見えてきた。

昨日、ユースケがホーンラビットと戦った場所だ。


「この先からホーンラビットが出るよ」

ユースケが前方を指差した。

「でも、今の2人にはまだ少し早いかな」

ブルースライムより速く、攻撃も強い。

今の2人が無理に挑む必要はない。

「俺なら、もう少しここでレベルを上げて、スラッシュを覚えてから行くかな」

「分かった!」

シオリが元気よく答える。

「そうします」

ヒナも頷いた。


「困ったことがあったらフレンドで連絡して。メッセージでも通話でも大丈夫だから」

「ありがとう!」

「ありがとうございます」

ユースケは2人を見た。

寝坊した分、今日の狩り時間は減っている。

それでも、この時間を無駄だったとは思わなかった。


「それじゃ、俺は先に行くね」

「うん!」

「気を付けてくださいね」

「2人もね」

シオリとヒナに手を振り、ユースケは草原の奥へ歩き出した。


転職まであと2レベル。

今日もまた、新たな1日が始まる。


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