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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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最初の夜

旅立ちの草原を後にしたユースケは、『第27始まりの街』へ戻ってきた。

戦っている間は気にならなかったが、北門をくぐった途端、強い空腹が押し寄せてくる。

「お腹減ったな…」

片手剣を振り続けた右腕。

木盾を支えていた左腕。

歩き回った足にも、疲労が残っていた。

「明日になって筋肉痛とかは勘弁してほしいね」

肩を回しながら、冒険者ギルドへ向かう。

まずは、草原で集めたスライムゼリーの換金だ。



冒険者ギルドは、多くの渡り人で賑わっていた。

突然この世界へ閉じ込められ、誰もが生き残る方法を探しているのだろう。

ユースケも受付の列へ並んだ。

順番が来ると、アイテムボックスを開く。

「換金をお願いします」

「承りました」


受付嬢が端末をかざすと、スライムゼリーの数が表示された。

「スライムゼリー53個ですね」

「5,300Gで買い取らせていただきます」

1個100G。


宿泊費や食事代は分からないが、これだけあれば今日を乗り切ることはできそうだ。

「お願いします」


【スライムゼリー×53を売却しました】

【5,300Gを獲得しました】

【所持金:5,300G】


硬貨を渡されることはなく、所持金だけが増えている。

「お金もヘルパーで管理されるんだね」

財布を落としたり、盗まれたりする心配はなさそうだ。

ユースケは表示を閉じ、冒険者ギルドを出た。



外へ出ると、建物の前で男性プレイヤーが立ち尽くしていた。

ユースケより少し年上に見える。

困ったように辺りを見回していた男性と目が合った。


「その剣と盾はどこで手に入れたんだい?」

「えっと、初心者案内所には行きましたか?」

「初心者案内所?」

どうやら、その存在を知らないらしい。


「この道を真っすぐ進んだ先にあります」

ユースケは通りの奥を指した。

「良ければ案内しますよ」

「本当かい?」

男性の表情がわずかに明るくなる。

ユースケは案内所へ向かいながら、知っていることを簡単に伝えた。


「案内所で初期装備と傷薬をもらえます」

「近くの草原にはブルースライムがいるので、最初はそこで戦うのが良さそうです」

「倒したら何か手に入るのか?」

「スライムゼリーが手に入ります」

「さっき換金したら1個100Gでした」

「そうだったのか…」

男性は驚いたように目を見開いた。


「他にも何か分かったことはあるかい?」

ユースケは少し考える。

確実に確認できた情報だけを伝えた方がいい。

「攻撃を繰り返していたらSTRが上がりました」

「レベルアップとは別に?」

「はい」

「行動によって能力が成長するみたいです」

男性の顔に、少しずつ落ち着きが戻っていく。


「それと片手剣は熟練度Lv2でスラッシュを覚えました」

「武器を使い続ければ技も覚えられるのか」

「今のところはそうみたいです」

やがて、初心者案内所の看板が見えてきた。

「ここです」

「本当にありがとう!」

男性が深く頭を下げる。


「いえいえ」

「お互い頑張りましょう」

ユースケは軽く手を振り、その場を離れた。

特別なことをしたつもりはない。

誰もがいずれ知る情報を、少し早く共有しただけだ。

少なくとも、同じ玄武大陸の渡り人同士で情報を隠す理由はない。

仲間が強くなれば、大陸全体の生存率も上がる。

いつか自分が助けられることもあるかもしれない。

「まずは皆で生き残ることが大事だね」

今は、その考え方が最も合理的だった。



ユースケは香ばしい匂いに誘われ、通り沿いの食堂へ入った。

肉の焼ける音が聞こえ、空腹がさらに強くなる。

空いている席へ座ると、店員が注文を取りに来た。


「ご注文は?」

「おすすめは何ですか?」

「旅人定食がイチオシですよ」

「800Gになります」

「じゃあそれをお願いします」


【800Gを支払いました】

【所持金:4,500G】


しばらくすると、湯気を立てる料理が運ばれてきた。

香ばしく焼かれた肉。

野菜の入った温かいスープ。

焼きたてのパン。


豪華ではないが、空腹のユースケには十分すぎる内容だった。

肉を口へ運ぶ。

「美味い!」

思わず声が漏れた。

噛めば肉汁が広がり、焼けた表面の香ばしさまで感じられる。

スープもパンも、現実の食事と何も変わらない。

満腹になるためだけのアイテムではなく、本当に料理を食べている。


改めて、この世界の現実味を思い知らされた。

周囲の席では、渡り人たちが情報交換をしている。


「レベル上がったか?」

「まだ3だよ」

「転職まで遠いな…」

「草原の奥に行った奴はいるのか?」

誰もが手探りで、この世界の仕組みを探っていた。

その時、近くの席から別の会話が聞こえてくる。


「もうすぐ18時だな」

「宿を取るなら今のうちだぞ」

「この世界は18時になると暗くなるらしい」

「マジか?」


ユースケはパンを持つ手を止めた。

18時に暗くなる。

日の入りの時刻が決まっているということだろうか。

すぐにヘルパーへ問いかける。


(昼夜の時間)

【本世界の日の出は6時です】

【本世界の日没は18時です】


「固定なんだね」

季節や地域に関係なく、日の出と日没は変わらないらしい。

「完全に管理された世界みたいだ」

これも重要なルールだ。

夜にモンスターが強くなる可能性もある。

暗くなれば、昼間と同じようには動けない。

自分の目でも確かめておいた方がいい。

ユースケは食事を終え、店を出た。



街の中央広場には、大きな時計塔が立っていた。

針は17時58分を指している。


ユースケは時計塔と西の空を交互に見た。

夕日に染まった空の下で、太陽が地平線へ近付いている。


17時59分。

太陽の端が地平線へ触れた。

そして18時。

最後の光が沈むと同時に、通りの街灯が灯った。

昼の街が、夜の姿へ切り替わっていく。


「本当に時間通りだ」

偶然とは思えないほど正確だった。

日の出は6時。

日没は18時。

夜に行動するなら、この時間を基準に考える必要がある。

ユースケは頭の中へ情報を刻み、宿屋へ向かった。



宿屋へ入ると、受付の女性が笑顔を向けてきた。

「ご宿泊ですか?」

「はい」

「1泊3,000Gになります」

「3,000Gか…」

今日の稼ぎの半分以上がなくなる。

「お願いします」


【3,000Gを支払いました】

【所持金:1,500G】


あれだけ戦って稼いだ金が、食事と宿だけでほとんどなくなった。

「なかなかシビアだね…」

毎日安全に暮らすだけでも、それなりに稼ぐ必要がある。

レベルが上がれば、より価値の高い素材を落とすモンスターとも戦えるはずだ。

明日は、もう少し効率良く稼ぎたい。

鍵を受け取ったところで、先ほど案内した男性の顔が浮かんだ。

「宿代のことまで考えてなかったな…」

初期装備を手に入れ、食事をしても、3,000Gを残せるとは限らない。

今から必要な金額を稼ぐのは難しいだろう。

「野宿になってなければいいけど」

少し気になったが、今から探し回ることもできない。

ユースケは鍵を握り、部屋へ向かった。



部屋は質素だったが、綺麗に掃除されていた。

ベッドへ腰を下ろした途端、身体から力が抜ける。

「結構疲れたな…」

戦闘。

検証。

情報収集。

この世界へ来てから、ほとんど休まず動き続けていた。


浴室へ入り、シャワーで汗を流す。

そのまま湯船へ身体を沈めると、張り詰めていた肩の力が抜けていった。

「生活水準は思ったより高いね」

宿屋の個室に浴室まである。

少なくとも、街での生活に大きな不便はなさそうだ。


風呂を出たユースケは、ベッドへ横になった。

柔らかな布団へ身体が沈み込む。

本来なら、序盤のチュートリアルを終えた後にログアウトする予定だった。

明日の昼には、4人で合流するはずだった。


タケシ。

サクラ。

マユ。

3人も、どこかの始まりの街で最初の夜を迎えている。

無事でいてほしい。

そして、必ず再会したい。


そのためにも、まずは自分が生き残らなければならない。

ユースケはゆっくりと目を閉じた。

Four Kingdoms Onlineで迎える最初の夜。

長かった1日が、ようやく終わろうとしていた。


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