行動成長
旅立ちの草原へ出てから、どれほどの時間が経っただろう。
ユースケは黙々とブルースライムを倒し続けていた。
最初は手探りだった戦闘も、少しずつ身体に馴染んできている。
跳びかかる前の動き。
片手剣の届く間合い。
木盾で衝撃を受け流す角度。
何度も戦ううちに、余計な力も抜けてきた。
ブルースライムが身体を沈める。
「よっと」
突進を横へかわし、すれ違いざまに片手剣を振るう。
青い身体を斬りつけると、ブルースライムが地面を跳ねた。
追いかけて、もう1撃。
向きを変える前に、さらに剣を振り下ろす。
やがて、その身体が光の粒となって消えた。
【ブルースライムを討伐しました】
ユースケは周囲を見回し、次の獲物を探す。
少し離れた草むらが揺れ、新たなブルースライムが姿を現した。
距離を詰める。
剣を振るう。
突進を避ける。
着地したところへ追撃する。
同じ戦闘を繰り返していた時だった。
【STRが1上昇しました】
「おっ」
突然現れた通知に足を止める。
「なるほど、これが行動成長か」
すぐにステータスを開いた。
【名前】ユースケ
【職業】ノービス
【レベル】3
【HP】24
【MP】12
【STR】7+1
【VIT】7
【AGI】7
【DEX】7
【INT】7
【LUK】7
「上昇した分は別に表示されるんだね」
レベルアップによる基本値の横に、行動成長で増えた数値が追加されている。
これなら、何によって能力が伸びたのか確認しやすい。
「剣を振り続けた影響かな」
タイミングを考えれば、その可能性は高い。
しかし、攻撃した回数が条件なのか。
与えたダメージ量なのか。
モンスターを倒した数が関係しているのか。
まだ断定はできなかった。
それでも、実際に能力が上がったことが嬉しい。
「これは面白いな」
ただレベルを上げるだけではない。
どのように戦ったかが、キャラクターの成長へ反映される。
戦い方によっては、同じ職業でも能力に違いが出るかもしれない。
「もう少し試してみよう」
ユースケは片手剣を握り直した。
知りたいことが、また1つ増えた。
◇
気付けば、太陽は大きく傾いていた。
それでもユースケは、ブルースライムとの戦闘を続けていた。
戦闘を重ねるたび、少しずつ効率良く倒せるようになっていく。
そして――。
【レベルが5に上昇しました】
ユースケは戦闘を終えると、すぐにステータスを確認した。
【名前】ユースケ
【職業】ノービス
【レベル】5
【HP】28
【MP】14
【STR】9+1
【VIT】9
【AGI】9
【DEX】9
【INT】9
【LUK】9
「レベル5か」
ノービスの転職条件はレベル10。
ようやく半分まで来た。
「序盤は思ったより上がりやすいね」
草原の奥へ進めば、さらに強いモンスターもいるはずだ。
まだまだ確かめたいことは多い。
ユースケが次のブルースライムへ向かった時だった。
【片手剣熟練度がLv2になりました】
【スラッシュを習得しました】
「やった!」
思わず声が出た。
「これがピコーンってやつか」
ゲームで新しい技を閃いた時のような高揚感に、自然と笑みが浮かぶ。
ユースケはすぐに詳細を確認した。
【片手剣 Lv2】
【スラッシュ】消費MP:3強力な斬撃を放つ
「消費MPは3か」
熟練度がLv2へ上がったことで、片手剣専用のスキルを習得したらしい。
事前の説明通り、武器を使い続ければ新しい技を覚えられる。
「よし、試してみよう」
覚えたばかりのスキルを、使わずにいられるはずがない。
ユースケは近くで跳ねていたブルースライムへ向かう。
片手剣を構え、意識を集中させた。
「スラッシュ!」
技名を念じた瞬間、刀身が淡い光に包まれた。
身体が引かれるように動き、鋭い斬撃が放たれる。
一閃。
ブルースライムは、そのまま光の粒となって消えた。
【ブルースライムを討伐しました】
「おお、ワンキルか」
通常攻撃なら、何度か斬りつけなければ倒せない。
それを1撃で仕留めた。
「威力はかなり高そうだね」
現在の最大MPは14。
全快でも4回しか使えない。
通常攻撃の代わりに連発するのではなく、危険な場面や早く倒したい時に使うスキルだろう。
「いざという時には頼りになりそうだ」
新しい情報を知る瞬間は楽しい。
自分で試し、結果を確認する。
条件を考え、もう1度試す。
そして、分かったことを仲間へ共有する。
昔から、それが好きだった。
だからこそ、気付くのが遅れた。
ぐぅぅぅ…。
静かな草原に、腹の音が響いた。
ユースケは思わず周囲を見回す。
幸い、近くに他のプレイヤーはいなかった。
「お腹、減るのか」
ゲームの中で空腹を感じるとは思っていなかった。
だが、風や匂いだけでなく、敵から受ける衝撃まで再現されている。
空腹があっても不思議ではないのかもしれない。
そう考えた時、今度は両腕の重さに気付いた。
片手剣を振り続けた右腕。
木盾を支えていた左腕。
歩き回っていた足にも、だるさが残っている。
戦えないほどではない。
だが、動き始めた頃よりも明らかに身体が重かった。
「疲労もあるみたいだね…」
思った以上に長く戦い続けていたらしい。
本来なら、今頃は1度ログアウトしていたはずだった。
ゲーム開始前、4人で決めていた。
最初はそれぞれ自由に進める。
チュートリアルを終え、翌日の昼に合流する。
『でも遊助、徹夜は駄目だからね』
ファミレスでのマユの言葉が頭に浮かぶ。
『絶対分かってない』
続けて、サクラの声まで思い出した。
「まあ…否定はできないかな」
時間を忘れて検証していた時点で、2人の予想通りだった。
タケシ。
サクラ。
マユ。
3人も、どこかの始まりの街で戦っているのだろうか。
タケシなら、慌てず状況を確認しているはずだ。
身体能力も高く、危険な時ほど冷静に動ける。
サクラも弓を手に入れていれば、弓道部の腕を活かせるだろう。
負けず嫌いではあるが、無意味な無茶をするタイプではない。
気になるのはマユだった。
自分より周りを優先し、困っている人を放っておけない。
誰かを助けるために、危険なことをしていなければいい。
「3人とも無事だといいな…」
今は願うことしかできない。
まずは街へ戻る。
食事を取り、休める場所を探す。
集めたアイテムも、冒険者ギルドで換金できるはずだ。
ユースケは片手剣を鞘へ収め、左腕の木盾を見下ろした。
「今日は十分かな」
レベル5。
行動成長によるSTR上昇。
片手剣熟練度Lv2。
そして、新スキルのスラッシュ。
初日としては、十分すぎる成果だった。
ユースケは旅立ちの草原を振り返る。
「続きは、また明日だね」
空腹を訴える腹を押さえながら、街へ向かって歩き出した。




