赤岩の谷
翌朝。
冒険者ギルドの前に集まると、サクラが3人の顔を見回した。
「なんかみんな眠そうじゃない?」
「昨日、ちょっとヒナと夜狩りしてたから」
シオリが欠伸を噛み殺す。
「23時頃まで頑張りました」
ヒナも小さく笑った。
サクラの視線がユースケへ移る。
「どうせユースケはもっと遅くまでやってたんでしょ」
「否定はしないかな」
「やっぱり」
シオリが笑う。
始まりの街は消えた。
玄武門がいつまで安全なのかも分からない。
だからこそ、今できることはやっておきたい。
考えていたことは、3人とも同じだった。
「でも今日は討伐クエストだし、油断しないでね」
「うん」
「はーい!」
「分かりました」
4人は冒険者ギルドへ入った。
◇
受付で、昨日確認していたクエストを受注する。
【討伐クエスト】
【グレートサラマンダーの討伐】
【推奨レベル24】
【依頼内容】
【赤岩の谷にて、グレートサラマンダーを討伐】
【報酬】
【400,000G】
「これでいいね」
「推奨レベル24なら、今の私たちにはちょうどいいんじゃない?」
サクラの言葉に、ユースケも頷いた。
「そうだね。ただ初めての相手だから、最初は慎重にいこう」
ギルドを出ると、サクラが思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ。私もLv25になって新しいスキル覚えたよ」
「どんなの?」
「ヘイトクリア」
サクラがヘルパーを開く。
【ヘイトクリア】
【消費MP:8】
【自身へのヘイトをリセットします】
「自分へのヘイトを消すんだ」
「そう。でも、これって便利なのかな?」
「便利だとは思うけど、使いどころは難しそうだね」
「なんで?」
シオリが首を傾げる。
「サクラを狙っていた敵のヘイトが消えたあと、次に誰を狙うか分からないから」
シオリが自分を指差す。
「私に来るかもしれない?」
「そういう可能性もあると思う」
ヒナも表示を見ながら頷いた。
「敵の狙いが変わるタイミングを考えて使う必要がありそうですね」
「なるほどねー」
サクラが腕を組む。
そのまま歩き出そうとして、ユースケは赤岩の谷という名前を思い出した。
「そういえば、サクラってピッケル持ってる?」
「ピッケル?」
「持ってないね」
「赤岩の谷なら発掘ポイントがあるかもしれないし、買っておこうか」
シオリが目を輝かせる。
「魔鉱石あるかも!」
「何それ?」
「行けば分かる!」
「説明雑すぎない?」
4人は鍛冶屋へ立ち寄り、サクラも50,000Gでピッケルを購入してから赤岩の谷へ向かった。
◇
しばらく歩くと、周囲の景色が変わってきた。
草木が減り、赤茶けた岩が目立ち始める。
さらに進むと、左右を高い岩壁に挟まれた谷へ入った。
「暑っ!」
シオリが顔をしかめる。
岩の隙間から熱気が立ち上り、乾いた空気が肌を撫でる。
「赤岩の谷って、そのまんまだね」
サクラが周囲を見回した。
「発掘ポイントもありそうじゃない?」
「ありそうだけど、まずは敵に注意しよう」
その時、サクラが足を止めた。
「いるよ」
視線の先。
少し離れた岩陰で、何かが動いている。
赤黒い鱗に覆われた、大型のトカゲ。
その隣にも同じ姿があった。
「2体か」
ユースケはヘルパーを開き、1体へ視線を向ける。
【サラマンダー】
【レベル23】
「グレートじゃない方か」
サクラが弓を構える。
ユースケも盾と片手剣を装備した。
「最初は無理に攻めないで、何をしてくるか確認しよう」
「了解!」
ヒナが杖をユースケへ向ける。
「その前に、プロテクションをかけておきますね」
「ありがとう」
「プロテクション!」
淡い光がユースケの身体を包む。
準備を整えると、4人は武器を構えた。
サラマンダーもこちらに気づく。
ユースケは1体へ視線を向けた。
「アナライズ!」
【弱点属性:氷】
【耐性属性:火】
【状態異常耐性:毒、暗闇】
「弱点は氷!」
シオリの表情が明るくなる。
「やっぱりサラマンダーなら氷だよね!」
「予想は当たったね」
2体が地面を蹴り、こちらへ迫ってくる。
「シールドノック!」
ユースケが盾を打ち鳴らす。
1体が大きく口を開けて飛びかかってきた。
鋭い牙を盾で受け止める。
直後、もう1体が身体を回した。
太い尻尾が横から迫る。
「っと!」
ユースケは後ろへ下がってかわす。
その隙をサクラが狙った。
「ダブルショット!」
2本の矢がサラマンダーの身体へ続けて突き刺さる。
シオリも杖を向けた。
「アイスバレット!」
氷弾が胴へ直撃する。
「ギャアッ!」
サラマンダーが大きく身体を反らした。
「かなり効いてそう!」
「うん」
もう1体が口を開く。
その喉の奥が赤く光った。
「何か来る!」
次の瞬間、炎が吐き出された。
ユースケは横へ跳ぶ。
だが、完全には避けきれない。
炎が腕をかすめ、HPがわずかに減った。
「リジェネ!」
すぐにヒナの魔法が飛ぶ。
淡い光がユースケを包み、減ったHPが少しずつ戻り始める。
「ありがとう」
「このくらいなら、リジェネで大丈夫そうです」
「うん。ヒールは温存できそうだね」
「正面には立ち続けない方がよさそうだね」
「ユースケ、右!」
サクラの声に反応し、もう1体の噛みつきを盾で受ける。
そこからは早かった。
ユースケが2体を引きつけ、サクラが矢で削る。
シオリはアイスバレットを中心に攻撃し、ヒナはユースケのHPを見ながら支援を続ける。
やがて1体が光へ変わり、続いてもう1体も消えた。
「よし!」
シオリが杖を下ろす。
「噛みつき、尻尾、火炎か」
ユースケは戦った場所を振り返る。
「もう何回か戦って確認しよう」
「はいはい、検証ね」
サクラが笑った。
その時、ヒナが岩壁へ目を向ける。
「あそこ、見てください」
視線の先には、見覚えのある採掘マークが浮かんでいた。
「発掘ポイント!」
シオリが駆け寄る。
サクラも岩壁を覗き込んだ。
「これが言ってたやつ?」
「うん。1人5回まで掘れるよ」
4人はピッケルを取り出した。
ガンッ!
ガンッ!
乾いた音が谷へ響く。
全員が5回ずつ掘り終え、取得結果を確認した。
「鉄鉱石、1回で2個出るんだ」
ユースケが手元を見る。
以前の発掘ポイントより、1度に採れる量が多い。
「私は鉄鉱石10個!」
シオリが結果を見せる。
ユースケも確認すると、鉄鉱石は8個。
そして――。
【魔鉱石を1個獲得しました】
「あ、出た」
「魔鉱石!」
シオリが食いつく。
ヒナも自分の結果を確認し、小さく声を上げた。
「私も魔鉱石が1個出ました」
「え、シオリと私は出てないんだけど」
サクラが不満そうにピッケルを見る。
「まだ発掘ポイントがあるかもしれないよ」
「次は絶対出す」
「気合いで出るものなのかな」
4人は採掘を終え、再び谷の奥へ進んだ。
◇
その後も、サラマンダーは2体ずつ現れた。
何組か戦ううちに、動きも少しずつ分かってくる。
噛みつきは速いが、直前に頭を引く。
尻尾は側面まで届く。
火炎は吐く前に喉が赤く光る。
ヒナのプロテクションとリジェネもあり、最初より安定して戦えるようになっていた。
「だいぶ分かってきたね」
「アイスバレットならかなり楽!」
シオリが嬉しそうに言う。
さらに谷を進んだところで、今度はサクラが足を止めた。
「あった!」
岩壁に、2つ目の採掘マークが浮かんでいる。
「今度こそ!」
誰より先にサクラがピッケルを取り出した。
「そこまで気合い入れなくても…」
シオリが笑う。
「シオリがそれ言う?」
ユースケも笑いながらピッケルを取り出した。
再び4人で5回ずつ採掘する。
結果を確認したサクラが、すぐに声を上げた。
「出た!魔鉱石1個!」
「私も1個出た!」
シオリも嬉しそうに結果を見せる。
これで4人全員が魔鉱石を1個ずつ手に入れた。
今回の発掘では、ユースケとヒナが鉄鉱石10個。
サクラとシオリが鉄鉱石8個と魔鉱石1個ずつだった。
サクラが魔鉱石を眺める。
「で、これ何に使うの?」
「玄武門の鍛冶屋なら、能力を3上げる装飾品に加工してくれるよ」
「3!?」
「STR、VIT、AGI、DEX、INT、LUKから選べます」
ヒナが補足する。
「シオリとヒナは前にINTを上げたんだ」
「知恵の指輪!」
シオリが得意げに手を上げる。
サクラは少し考えてから、魔鉱石をしまった。
「私はDEXかな」
「俺は今回は取っておくかな」
「ユースケは作らないの?」
「他の使い道もあるかもしれないからね」
「また検証案件が増えた」
「そういうこと」
採掘を終え、4人はさらに谷の奥へ進んだ。
◇
しばらくすると、狭かった谷が大きく開けた。
その中央。
赤い岩の上に、巨大な影が横たわっている。
「…あれじゃない?」
サクラが声を落とす。
通常のサラマンダーより、明らかに大きい。
頭にはトサカのような突起。
太い四肢に、長く伸びた尾。
赤黒い鱗の隙間からは、炎のような光が漏れている。
ユースケは足を止め、ヘルパーを開いた。
【グレートサラマンダー】
【レベル24】
「討伐対象ですね」
ヒナが杖を握り直す。
シオリも先ほどまでの笑顔を引っ込めた。
「サラマンダーより、だいぶ大きいね…」
「動きが同じとは限らない」
ユースケは盾を前へ構える。
「まずは俺がタゲを取るね。ヒナは余裕があったらバフをお願い」
「分かりました!」
サクラとシオリも武器を構える。
4人がゆっくり距離を詰める。
その時。
グレートサラマンダーが頭を上げた。
黄色い瞳が、4人を捉える。
低い唸り声とともに、巨大な口が開いた。
喉の奥が、赤く輝き始める。
「来るよ!」
ユースケが盾を構えた。




