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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第2章 玄武門

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始まりの終わり

翌朝9時。


冒険者ギルド前には、ユースケ、サクラ、シオリ、ヒナの4人が集まっていた。


「おはよう」

「おはよ!」

「おはようございます」


挨拶を交わし、ユースケはヘルパーを開く。


始まりの街が消滅するまで、残り4時間。13時。

街が消えることは分かっている。だが、その後に何が起こるのかは分からない。


「それまでに、できる準備はしておこうか」

「準備?」

サクラが聞く。

「装備とか魔法とか。13時になって何が起きても動けるようにしておきたいかな」

「確かに」

ヒナが頷く。


シオリも自分の装備へ視線を落とした。

「じゃあ私、防具を買おうかな」

「私もそうしようと思ってました」

「ヒナも?」

「はい。胴装備はこのまま使いますが、それ以外は更新できますから」


ヒナが祈りのローブへ触れる。リザードタートルの討伐報酬で手に入れた、回復魔法の消費MPを軽減する装備だ。


シオリも自分のローブを見る。

「私もこれは変えたくない!」


魔導のローブ。こちらは攻撃魔法の消費MPを軽減する効果がある。


「じゃあ、頭と腕と足かな」

「うん!」

「私もそれでいきます」


サクラも自分の装備を確認する。

「私は今のところ大丈夫そうかな」

「じゃあ、まず防具屋へ行こうか」


4人は歩き出した。



◇

防具屋へ入ると、シオリとヒナはシルバー装備を見て回った。


購入するのは3か所。

シルバーヘルム、シルバーガントレット、シルバーグリーブ。

合計230,000G。


「やっぱ高いなー…」

シオリが値段を見つめる。

「でも、何が起こるか分からないですから」


ヒナは迷わず購入した。シオリも少し考えたあと、大きく頷く。

「よし、私も買う!」


2人が装備を変更すると、銀色の防具がそれぞれの職業に合わせた形へ変化する。


ヒナは新しい装備を確認し、満足そうに頷いた。

「これなら少し安心ですね」

「うん」


少なくとも、今できる準備はしておいた方がいい。

次に4人は魔法屋へ向かった。



◇

店内には、以前と変わらず多くの魔法書が並んでいた。ユースケはその中から1冊を手に取る。


【リジェネ】

【属性:回復】

【消費MP:12】

【価格:120,000G】

【対象1人のHPを一定時間、継続的に回復する】


「それ買うの?」

サクラが尋ねる。

「うん。ソロで戦うことも多いし、自分にかけておけば使えそうだからね」


ヒールとは使い方が違う。

ダメージを受ける前から使えるなら、戦い方の選択肢も増える。


ユースケは120,000Gを支払い、魔法書を購入した。その場で使用すると、本が淡い光へ変わる。


【リジェネを習得しました】


サクラがユースケを見る。

「盗賊なのに回復魔法まで使うんだ」

「覚えられるなら、使わないともったいないからね」

「相変わらずだねー」

サクラが笑う。


シオリとヒナも魔法書を見て回ったが、今回は何も買わなかった。


「次は鍛冶屋に行きたいです」

ヒナが言うと、シオリが足を止めた。

「あっ」

「どうしたの?」

「私も魔導のローブを強化したい!」


シオリがアイテムボックスを確認する。

「鉄鉱石、9個ある!」

「それなら上手くいけば、+3まで挑戦できるね」

「やる!」


ヒナも自分のアイテムボックスを確認した。

「私も祈りのローブを強化しようと思います」

「ヒナは何個あるの?」

「20個です」

「じゃあ+4まで挑戦できるね!」


なぜかシオリが1番嬉しそうだった。



◇

鍛冶屋へ入ると、工房の奥にいた大柄な男が顔を上げた。

「おう。大魔導士の嬢ちゃんか」

「おじさん、久しぶり!」

「誰がおじさんだ!」

即座に声が返ってくる。

シオリが嬉しそうに笑った。


「今日はこれ!」

アイテムボックスから魔導のローブを取り出し、男へ差し出す。

「+3までお願いします!」

「鉄鉱石は?」

「9個ある!」

「なら足りるな」


+1は鉄鉱石1個と10,000G。+2は2個と20,000G。+3は4個と40,000G。すべて成功すれば、合計7個と70,000Gだ。


「途中から失敗もあるぞ」

「分かってる!」


男が強化を始める。


まずは+1。

「成功だ」

「よし!」


続いて+2。

「成功」

「きた!」


そして+3。成功率は85%。

シオリがじっとローブを見つめる。


しばらくして、男が顔を上げた。

「成功だ」

「やったぁ!」

シオリが両手を上げる。

「また全部成功した!」

「強化運いいね」

「でしょ!」


シオリは嬉しそうに魔導のローブ+3を受け取った。


「次は私もお願いします」

ヒナが祈りのローブを差し出す。

「+4までお願いします」

「嬢ちゃんも一気にやるのか」

「はい」


ヒナは鉄鉱石を取り出した。+4までに必要なのは15個。費用は150,000G。


「まずは+1だ」

強化が始まる。

「成功」


続いて+2。

「成功だ」

「おお!」

またシオリが反応する。

「シオリ、静かに見ようよ」

「だって気になるじゃん!」


+3。

男が状態を確認する。

「成功」

「また通った!」

ヒナも少し表情を緩めた。


「最後ですね」

「ああ。+4は成功率80%だ」

「お願いします」


男が鉄鉱石8個を受け取る。ユースケも黙って見守った。


少しして、男が祈りのローブを持ち上げる。

「成功だ。+4になったぞ」

「よかったです」

ヒナがほっとしたように受け取った。


「ヒナも全部1回で通った!」

「シオリも全部成功してたよね」

「うん!」

2人が笑顔で頷き合う。


ユースケは少しだけ視線を逸らした。

「…いいな」

「ユースケさん?」

「何でもないよ」


サクラが首を傾げる。

「何かあったの?」

「聞かないであげて」

シオリが真顔で言った。

「なんで?」

「ユースケさんには悲しい過去があるのです」

「勝手に話を大きくしないでよ」


鍛冶屋の男が豪快に笑う。

「兄ちゃん、あの時はすまんな!」

「いえ。亀様への信仰が足りなかったみたいです」


サクラがさらに首を傾げる。

「説明しなくていいからね」

ヒナが口元を押さえて笑った。


シオリは魔導のローブ+3。ヒナは祈りのローブ+4。さらに頭、腕、足もシルバー装備へ更新した。


「これで準備はできたかな」

ユースケが時刻を確認する。まだ13時までは時間がある。

「少し早いけど、昼ご飯を食べておこうか」

「賛成!」

シオリが即答した。

サクラが笑う。


4人は鍛冶屋をあとにした。



◇

11時半を少し回った頃。


4人は食堂で、少し早めの昼食を取っていた。店内には、いつもより多くの渡り人がいる。


聞こえてくる話題も似たようなものだった。

「あと1時間半か…」

「本当に街が消えるのか?」

「みんな間に合ったのかな…」


始まりの街。

その言葉が、あちこちから聞こえてくる。


「やっぱり、みんな気になってるんだね」

サクラが食事の手を止める。

ヒナが静かに頷いた。

「何が起こるんでしょうね」


誰にも分からない。

ユースケもヘルパーを確認する。

残り時間は、少しずつ減っていた。


「食べ終わったら、広場へ行こうか」

「うん」


昼食を済ませ、4人は冒険者ギルド前へ向かった。



◇

12時を少し回った頃。


広場には、すでに何人もの渡り人が集まっていた。


普段ならクエストを探す者や、仲間を募集する声で賑わっている場所だ。

だが今日は違う。

誰もが遠くへ視線を向けている。


見たいものではない。

それでも、見届けずにはいられない。

そんな人が多いのだろう。


時間が経つにつれ、広場へ集まる渡り人はさらに増えていった。


1人で来る者もいれば、仲間と並んで立つ者もいる。

不安そうに話している者。

何も言わず、遠くを見つめている者。


「あっ」

シオリが少し離れた場所を見る。


そこにはコウジたちの姿があった。

救助した渡り人たちも何人か一緒にいる。

シュンもその中にいた。


こちらに気付くと、小さく手を上げる。

ユースケも手を上げて返した。


彼らは、つい昨日まで第27始まりの街にいた。


少し離れたところから声が聞こえる。

「昨日まで、あそこにいたんだよな…」


誰が言ったのかは分からない。

返事をする者もいなかった。


12時30分。さらに人が増える。


12時40分。広場を満たしていた話し声が、少しずつ減っていった。


そして12時50分。ユースケはヘルパーを開く。


【玄武大陸 8,243名】


ユースケの視線が止まる。


玄武門へ着いた頃に確認した時は9,015人だった。

あれから772人が亡くなっている。


ユースケは表示を切り替えた。


【始まりの街消滅まで 残り10分】


「あと10分か…」

サクラが呟く。

「うん」


ユースケは、第27始まりの街があるはずの方角へ視線を向けた。


あの街から旅立ちの草原へ出た。

旅立ちの森を抜け、盗賊へ転職した。

そして旅立ちの洞窟を越えて、ここまで来た。


すべてが始まった場所だ。


残り5分。

3分。

1分。


いつの間にか、広場からほとんど話し声が消えていた。


ユースケは残り時間を見る。


10秒。

9。

8。

7。

6。

5。

4。

3。

2。

1。

0。


何も起こらない。

ほんの一瞬、そう思った。


その時だった。


遠くの地平線が、青白く染まった。


「…え?」

シオリの声が漏れる。


直後、青白い光柱が地上から空へ一直線に駆け上がった。


一瞬で視界が白く染まり、ユースケは反射的に目を細める。


眩しい。

だが、それだけではない。


目を背けたくなるほど、冷たい光だった。

祝福でも、花火でもない。

そこにあるものを消し去るためだけに放たれたような光が、空を貫いている。


遥か遠く、別の方角でも青白い閃光が上がった。


誰も歓声を上げない。

広場に集まった渡り人たちは、ただ黙って見つめていた。


数秒遅れて、腹の底まで響く低い轟音が届く。

大地が震え、建物の窓が細かく揺れた。


ヒナが息を呑む。

シオリからも、いつもの明るい声は出ない。

サクラも遠くを見つめたままだった。


やがて光柱が細くなり、青白く染まっていた空が少しずつ元の色を取り戻していく。

それでも、ユースケの視界には光の残像が焼き付いていた。


狩りをして、装備を買って、仲間と笑う。


いつの間にか、ゲームのような日々に慣れ始めていたのかもしれない。


だが、あの青白い光が一瞬で思い出させた。


ここはデスゲームだ。


ユースケは遠くの空を見つめる。

誰も声を出さない。


その静寂の中、視界の端にヘルパーの表示が浮かんだ。


【始まりの街が消滅しました】

【新たな街が開放されました】

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