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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第2章 玄武門

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田中 桜

「やっぱりユースケじゃん!」


振り返った顔を見た瞬間、声が出た。


驚いたように目を見開いている。


「サクラ!?」


その声を聞いて、ようやく実感した。


見間違いじゃない。


高校を卒業して、大学に入って。

こんな世界に放り込まれてから、ずっと会えていなかった友人。


――やっと、1人見つけた。



◇

ユースケと初めて会ったのは、高校に入学して間もない頃だった。


放課後。


サクラが教室へ戻ると、廊下でマユが2人の男子と話していた。


「マユ、何してんの?」


声をかけると、3人がこちらを向いた。


「あ、サクラ」


マユがほっとしたように笑う。


「音楽室の場所を探してたんだけど、分からなくなっちゃって」

「部活見学?」

「うん。それで亀山君が教えてくれてたの」


サクラは隣に立つ男子を見る。


制服をきっちり着ていて、いかにも真面目そうだ。

その横には、体格のいい男子もいる。


「亀山遊助。ユースケでいいよ」

「田中桜。サクラでいいよ」


ユースケが軽く笑う。


サクラはその隣へ視線を移した。


「で、そっちは?」

「山本剛」

「終わり?」

「ああ」

「短っ」


思わず突っ込む。


タケシは気にした様子もない。


「タケシでいい」

「じゃあタケシね」


マユが小さく笑っている。


サクラはもう1度ユースケを見る。


「なんか真面目そう」

「いきなり?」

「第一印象」


タケシが横から口を挟んだ。


「中学じゃ生徒会長」

「マジで?」


思わずユースケを見直す。


「うわ、納得」

「何が?」

「生徒会長っぽい」

「どんなイメージなの、それ」

「真面目で成績も良くて、先生に頼られてそう」

「正解」


タケシが呟く。


「ほらね!」


ユースケが苦笑する。


マユがサクラの袖を軽く引いた。


「サクラ、音楽室」

「あっ、そうだった」

「ありがとう、亀山君」

「ユースケでいいよ」

「じゃあ、ユースケ君。ありがとう」


マユが頭を下げる。


「サクラ、行こ」

「うん。じゃあね!」


そんなやり取りをして、その日は別れた。


その時は、それだけだった。


まさか何年も一緒に遊ぶことになるなんて、サクラはまだ知らなかった。



◇

それから何度か顔を合わせるようになった。


昼休みに会えば、一緒に昼ご飯を食べる。

放課後に見かければ、少し話す。


気づけば4人でいることが増えていた。


そんなある日の昼休み。


「で、みんな部活どうすんの?」


サクラが弁当を食べながら聞いた。


マユが箸を止める。


「私は吹奏楽部かな」

「やっぱり?」

「中学でもやってたしね」


マユは昔から音楽が好きだった。

高校でも続けるだろうと思っていたので、特に驚かない。


「タケシは野球でしょ?」

「ああ」

「迷いなし」

「他にやる理由がない」


タケシが中学から野球を続けていることは、すでに聞いていた。


「ユースケは?」


サクラが聞くと、ユースケは少し考えた。


「まだ決めてない」

「え、意外」

「何が?」

「なんでもできそうだから、もう決めてるかと思った」

「いくつか見てから決めようかなって」

「優柔不断?」

「慎重って言って」

「はいはい」


ユースケが苦笑する。


「サクラは?」

「弓道!」

「即答だな」


タケシが言う。


「昨日見学して決めた!」

「早くない?」

「全然」


マユが笑う。


「最初は袴がかっこいいって言ってたよね」

「ちょっ、マユ!」

「袴?」


ユースケが反応する。


「違うから!ちゃんと弓もかっこよかったから!」

「最初は?」

「第一印象は大事なの!」


3人が笑った。


サクラは頬を膨らませながら弁当を食べる。


きっかけが袴だったのは否定しない。


でも、実際に弓道場へ入った瞬間、そんな理由はどうでもよくなった。


張り詰めた空気。

弦が鳴る音。

放たれた矢が、まっすぐ的へ飛んでいく。


あれを見た瞬間、決めた。


自分もやりたい。


それだけだった。



◇

弓道は思っていたより難しかった。


立ち方。

構え方。

弓の引き方。


ただ矢を的へ飛ばせばいいわけじゃない。


最初はまともに飛ばすことすらできなかった。


だからこそ、面白かった。


「また外した!」


放課後の弓道場。


サクラは的の横へ飛んでいった矢を睨む。


先輩が笑った。


「田中、力入りすぎ」

「分かってます!」

「分かってる顔じゃないな」

「次は当てます!」


外せば悔しい。

当たれば嬉しい。


昨日より今日。

今日より明日。


少しずつ上手くなるのが楽しかった。


気づけば、毎日のように弓道場へ通っていた。


マユは吹奏楽部。

タケシは野球部。


それぞれ放課後は忙しくなった。


そしてユースケは――。



◇

「ユースケ、部活決めた?」


昼休み。


サクラが聞くと、ユースケはパンを食べながら首を振った。


「入らないかも」

「結局、帰宅部?」

「たぶん」

「何それ。散々見て回ってたじゃん」

「ちょっと面白いもの見つけて」

「何?」


ユースケが少しだけ楽しそうな顔をした。


「MMORPG」

「ゲームじゃん!」


思わず突っ込む。


「部活よりゲーム取ったの?」

「そういうわけじゃないけど」

「そういうことだろ」


タケシが横でパンを食べながら言う。


「最近ずっとやってる」

「マジで?」

「うん」

「へえ」


サクラはユースケを見る。


入学した頃の印象は、真面目な元生徒会長。


その印象はまだ変わっていなかった。


――この時までは。



◇

数日後。


「昨日何時に寝たの?」


サクラが聞くと、ユースケは少し考えた。


「2時くらいかな」

「は?」


思わず箸が止まる。


「何してたの?」

「検証」

「何の?」

「前に話したゲーム。攻撃速度がAGIだけで変わってるのか気になって」

「知らないよ!」


ユースケは気にせず続ける。


「装備を変えて何回か測ったんだけど、たぶん別の補正も入ってるみたいで」

「だから2時まで?」

「もう少しで分かりそうだったから」

「馬鹿じゃん」


マユが心配そうにユースケを見る。


「ちゃんと寝ないとダメだよ」

「今日は寝るよ」

「昨日も言ってなかった?」

「…言ったかもしれない」

「ほら!」


サクラが指を差す。


タケシは隣で静かに食べている。


「タケシも止めなさいよ」

「言った」

「で?」

「止まらなかった」

「諦めるな!」


ユースケが笑う。


入学した頃は、もっとまともなやつだと思っていた。


真面目なのは間違っていない。


ただ、その真面目さをゲームへ向けると、とんでもなく面倒くさい。


それが亀山遊助という人間だった。



◇

それからしばらくして、サクラたちもユースケが遊んでいたMMORPG『Rune Saga Online(ルーン・サーガ・オンライン)』――通称RSOを始めた。


最初は、たまに一緒に遊ぶ程度だった。


それがいつの間にか毎週になり、4人でパーティを組むのが当たり前になった。


そしてユースケがギルドを作った。


名前は――タートルズ。


「ダサくない?」

「覚えやすいと思うけど」

「もしかして亀山だからタートルズ?」

「うん」

「安直!」


タケシが短く言う。

「悪くない」

「タケシまで乗るな!」


マユが笑う。

「私は可愛いと思うけど」

「マユまで!?」

文句は言った。


それでも結局、その名前で何年も遊んだ。


最初は4人だけだったタートルズも、少しずつメンバーが増えていった。


一緒に狩りをした人。

別のゲームから移ってきた人。

その友人に誘われて入ってきた人。


人数が増えれば、意見が合わないこともある。


「ユースケさん、次のレイドどうする?」

「参加できる人を確認してから決めよう。時間が合わない人に無理させる必要はないよ」

「この前ドロップした装備、誰に渡す?」

「まず欲しい人を聞いてから考えようか」


気づけば、何かあればみんなユースケに聞くようになっていた。


本人も何でも1人で決めるわけではない。


誰かの意見を聞いて、タケシと相談して、また別の誰かに声をかける。


「ユースケ、また全員に声かけてんの?」

「一応ギルマスだからね」

「寝ろ!」

「まだそんな時間じゃないよ」

「そういう話じゃない!」


サクラが声を上げると、マユが困ったように笑う。


ボイスチャット越しに、タケシが短く言った。


「言っても無駄だ」

「だから諦めるなって!」


いつの間にか、タートルズの中心にはユースケがいた。


ゲームの中でも4人の役割は自然と決まっていった。


ユースケが考える。

タケシが現実的なところを詰める。

マユが無茶を止める。


そしてサクラは、言いたいことを言う。


「ユースケ、説明長い!」

「ここ大事なんだけど」

「3行で!」

「チャットじゃないんだから」


そんなやり取りをしながら、何度も一緒に戦った。


勝てば嬉しかった。

負ければ悔しかった。


「次は勝つから!」

「まだやるの?」

「当たり前でしょ!」


気づけば4人で遊ぶことが、高校生活の一部になっていた。



◇

高校を卒業して、大学へ進んでも、4人の関係はあまり変わらなかった。


毎日顔を合わせることはなくなった。

それでも連絡を取れば、いつものように話した。


そして大学1年の夏休み。


ユースケが持ち出してきたのが、『Four Kingdoms Online ~四神戦記~』だった。


最新のフルダイブMMORPG。


「4人でやろうよ」


ユースケが言った。


タケシはすぐに答える。


「悪くない」


マユも笑った。


「楽しそうだね」


サクラの答えも決まっていた。


「もっちろん!」


選んだのは玄武大陸。


同じ大陸を選べば、すぐに会える。


そう思っていた。



◇

でも、始まったFKOはただのゲームではなかった。


ログアウトできない。

ゲームの中で死ねば、現実でも死ぬ。

帰れるのは、最後まで生き残った1つの大陸だけ。


しかも4人は、別々の始まりの街へ飛ばされた。


怖くなかったと言えば嘘になる。


それでも、止まっている方が嫌だった。


サクラは弓を選んだ。


迷わなかった。


現実でも何度も引いてきた武器だ。


戦って、レベルを上げて、先へ進んだ。


そうして玄武門へ辿り着いたあと、第28始まりの街にまだ人が残っていることを知った。


怖くて動けない人。

戦う自信がない人。

途中で諦めて戻った人。


放っておく気にはなれなかった。


「行ける人で迎えに行こうよ」


気づけば、そう言っていた。


何度か第28始まりの街へ戻り、人を玄武門まで連れてきた。


そして今朝。


最後に残っていた人たちも、無事に玄武門へ辿り着いた。


やっと終わった。


そう思って立ち寄った冒険者ギルドで――。


見覚えのある後ろ姿を見つけた。



◇

「…ユースケ?」


振り返った顔は、昔とほとんど変わっていなかった。


「やっぱりユースケじゃん!」


そして話を聞けば、第27始まりの街に残っていた人たちを助けていたという。


「…そっちも同じことしてたの?」

「サクラこそ」


思わず笑った。


「何それ」


離れた場所から始まったのに、やっていたことまで似ている。


本当に、何それだ。


でも、タケシはいない。

マユもいない。


まだ4人には戻れていない。


それでも、サクラは目の前にいる友人を見る。


高校に入ったばかりの頃、真面目そうな元生徒会長だと思った男子。


ゲームにハマって、寝不足になって。

気づけばギルドマスターになっていた友人。


そして今も、知らない誰かのために動いていた。


――ほんと、馬鹿なんだから。


まずは1人。


ようやく見つけた。

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