門出の桜
24人との話を終えたあと、コウジがユースケたちへ向き直った。
「じゃあ、俺も行くよ」
「コウジさんもお疲れ様でした」
「いや、こっちこそ助かった。本当にありがとう」
コウジが笑う。
「これからは俺も、少しずつ先に進むよ」
「はい。またどこかで」
「おう。何かあったら連絡くれ!」
コウジは手を上げると、玄武門の街へ歩いていった。
その背中を見送り、シオリが大きく息を吐く。
「これで終わったねー」
「第27はね」
ユースケはヘルパーを開き、第27始まりの街を確認する。
【第27始まりの街】
【現在人数:0人】
「0人になってる」
「よかったー!」
シオリが笑う。
「これで本当に全員移動できたんですね」
「うん」
ヒナの言葉に頷きながら、ユースケは表示を閉じた。
だが、気になることが1つ残っている。
「第28始まりの街はどうなってるんだろう」
「第28?」
「第14玄武門には、第27と第28から人が来るんだよね」
ユースケはヘルパーを操作してみるが、第28始まりの街の人数は確認できない。
「やっぱりダメか。出身地じゃないから分からないみたい」
「まだ人が残ってるかもしれないってこと?」
「うん」
第27には、今朝まで24人が残っていた。
第28にも同じように、玄武門まで来られていない人がいる可能性はある。
「それに、タケシが第28にいる可能性もあるし」
「サクラさんとマユさんもだね」
シオリの言葉に、ユースケが頷く。
今どこにいるのか分からない以上、可能性は1つずつ確認していくしかない。
そこで、ユースケは思い出した。
「あっ」
「どうしたの?」
「リクたち、第28の出身だ」
リク、カイ、ソラの3人は第28始まりの街から来ている。
「じゃあ、任せて!」
シオリがフレンドチャットを開いた。
(シオリ)
『リクちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、時間ある?』
しばらくすると返事が届いた。
(リク)
『明日ならいいよー。なに?』
(シオリ)
『第28始まりの街について聞きたいの』
(リク)
『おっけー!』
(シオリ)
『じゃあ明日の10時、玄武門の冒険者ギルドでどう?』
(リク)
『カイとソラにも言っとく!』
「明日の10時に会えるって」
「じゃあ、その時に聞けば分かるね!」
「はい」
シオリとヒナは宿へ戻ることにした。
ユースケも2人と別れ、夕食を済ませたあと、アイアングレートソードを手にコボルト狩りへ向かう。
狩りを始める前に、ユースケは昼間に覚えたスキルを確認する。
【ハイド】
【消費MP:6】
【一定時間、自身の気配を消し、敵から発見されにくくなる】
【攻撃や一部の行動を行うと効果は解除される】
【自身より格上の相手や感知能力に優れた相手には、見破られる場合がある】
「これも試しておこうかな」
ユースケは少し離れた場所にいるコボルトを見つける。
「ハイド」
スキルを発動し、そのままゆっくり近づいていく。
普段ならこちらに気付く距離まで近づいても、コボルトは反応しない。
「ちゃんと効いてるね」
さらに距離を詰め、両手剣を振りかぶる。
攻撃を仕掛けた瞬間、コボルトがこちらを振り向いた。
「攻撃したら解除、と」
そのまま両手剣を振り下ろす。
「奇襲には使えそうだね」
その後、修練の指輪を装備し、2時まで両手剣を振り続けた。
【HPが1上昇しました】
【MPが1上昇しました】
【STRが1上昇しました】
【DEXが1上昇しました】
【INTが1上昇しました】
「今日はこのくらいで許してやるか」
ユースケは狩りを切り上げ、宿へ戻った。
◇
翌朝。
10時少し前に、ユースケたちは冒険者ギルドへやって来た。
朝から中には多くのプレイヤーが集まり、掲示板の前でクエストを探している。
「ちょっと早かったかな」
「まだ10時前だしねー」
ユースケたちは邪魔にならない場所へ移動し、リクたちを待つ。
第28始まりの街に、まだ人が残っているのか。
もし残っているなら、どうするか。
そんなことを考えていると――。
「…ユースケ?」
背後から名前を呼ばれた。
ユースケの動きが止まる。
聞き覚えのある声だった。
ゆっくり振り返る。
少し離れた場所で、1人の少女がこちらを見ていた。
茶髪のショートヘアに、ぱっちりとした目。
数秒、互いに動かなかった。
「…サクラ?」
少女の目が大きく開く。
「やっぱりユースケじゃん!」
「サクラ!?」
ユースケも思わず声を上げた。
「えっ、サクラさん!?」
シオリが2人を交互に見る。
サクラが駆け寄ってくる。
「何してんの、こんなところで!」
「それ、こっちのセリフだよ」
顔を見合わせる。
間違いない。
高校時代から一緒に遊んできた、田中桜だった。
「サクラ、無事だったんだな」
「そっちこそ!」
サクラが笑う。
ユースケもようやく実感が湧いてきた。
「この2人はシオリとヒナ。こっちで知り合った仲間」
「シオリです!」
「ヒナです」
「サクラだよ。よろしく!」
簡単に紹介を済ませたところで、ユースケは思い出す。
「そうだ。サクラって、もしかして第28始まりの街だった?」
「第28だけど」
3人の視線が一斉にサクラへ向いた。
「な、なによ」
ユースケは苦笑してから、サクラへ向き直る。
「第28始まりの街って、今何人残ってる?」
「0人だよ」
即答だった。
「0人?」
「うん。さっき最後に残ってた人たちを玄武門まで連れてきたから!」
ユースケが目を瞬く。
シオリとヒナも顔を見合わせた。
「私たちと同じだ…」
シオリが呟く。
サクラが首を傾げる。
「同じ?」
「俺たちも第27始まりの街に残ってた人たちを玄武門まで連れてきてたんだよ」
「マジで?」
サクラが目を丸くする。
少しの間、2人は顔を見合わせた。
「…そっちも同じことしてたの?」
「サクラこそ」
サクラが吹き出す。
「何それ」
ユースケも笑った。
離れた場所から始まったはずなのに、知らないところで似たようなことをしていたらしい。
だが、まだ確認したいことがある。
「タケシとマユは?」
サクラの表情が少し曇った。
「…会ってない」
「そっか」
第28始まりの街には、もう誰も残っていない。
少なくとも、そこにタケシやマユが取り残されている可能性はなくなった。
その時、冒険者ギルドの入口から明るい声が飛んできた。
「ユースケさーん!」
振り向くと、リクが大きく手を振っていた。
その後ろには、カイとソラもいる。
ユースケは手を上げ返した。
「おはよう!」
聞きたかった答えは、思わぬところから先に見つかっていた。




