小心翼翼
ゴブリンジェネラルを倒してしばらくすると、部屋の中央に光が集まり始めた。
やがて、1つの宝箱が姿を現す。
「これが初回討伐の宝箱だよ」
ユースケの言葉に、Aチームの8人が集まった。
宝箱を開くと、眩しい光が広がる。
【職業に応じた討伐報酬を獲得しました】
「おおっ!」
「装備だ!」
「やった!」
それぞれの前に表示された報酬を見て、8人から次々と声が上がる。
さっきまでの緊張が嘘のように、嬉しそうに報酬を確認していた。
ユースケは自分の前を見る。
何も表示されていない。
シオリとヒナも同じだった。
「やっぱり、初回だけみたいだね」
「みたいだね!」
その時、部屋の奥に石造りの階段が現れた。
「この先が玄武門です」
ユースケはAチームを見る。
「あと少しですよ」
11人は階段を上っていった。
◇
階段を抜けると、目の前に巨大な城壁が広がった。
「あれが…玄武門」
Aチームの1人が呟く。
ここまで辿り着いた8人の顔に、安堵が広がっていく。
「お疲れ様でした。これでAチームは到着ですね」
「ありがとうございました!」
8人が頭を下げる。
ユースケは少し笑ってから、玄武門の中へ視線を向けた。
「俺たちはBチームとCチームを迎えに戻ります」
そして、8人へ向き直る。
「17時に、玄武門の冒険者ギルド前で待ち合わせにしましょう」
「分かりました!」
「じゃあ、またあとで」
ユースケはシオリとヒナを見る。
「戻ろうか」
「うん!」
「はい」
3人は石造りの階段を下り、再び旅立ちの洞窟へ戻った。
歩きながら、ユースケはフレンドチャットを開く。
(ユースケ)
『Aチーム、全員無事に玄武門へ着きました。今から戻ります』
すぐに返事が届いた。
(コウジ)
『了解。こっちも問題ない』
「よかった」
小さく息を吐く。
(ユースケ)
『次はBチームで行きます』
(コウジ)
『分かった。待ってる』
ユースケはチャットを閉じた。
「向こうも全員無事みたい」
「よかったー!」
「では、次はBチームですね」
「うん。すぐ戻ろう」
3人は洞窟を引き返していった。
◇
洞窟の入口を出ると、コウジが手を上げた。
「おかえり!」
その後ろでは、BチームとCチームの16人が固まって待っている。
「ただいま。Aチームは全員無事に玄武門まで着きました」
その言葉に、16人から安堵の声が上がった。
「じゃあ、次はBチームで行きましょう」
Bチームの8人が前へ出る。
戦士1人。
盗賊1人。
僧侶2人。
狩人2人。
魔術師2人。
そこへユースケ、シオリ、ヒナが加わり、11人でパーティーを組み直した。
「コウジさん、また留守番よろしくお願いします」
「任せろ!」
ユースケはBチームを見る。
「Aチームも全員無事に抜けられました。同じように落ち着いていきましょう」
8人が頷く。
11人は再び旅立ちの洞窟へ入った。
◇
Bチームの攻略も順調に進んだ。
ユースケがシールドノックで敵を引きつけ、シオリとヒナのフロストサークルでゴブリンを一掃する。
残ったホブゴブリンへ、後方から矢と魔法が集中した。
戦闘を繰り返しながら進み、やがてボス部屋へ辿り着く。
「行きましょう」
扉を開ける。
そこには、今回も巨大な金棒を持ったゴブリンジェネラルが立っていた。
「やっぱり出るね」
未攻略者がいれば、ゴブリンジェネラルが出現するようだ。
戦い方もAチームと同じだった。
ユースケがすべての敵を引きつける。
シオリとヒナの範囲魔法でゴブリンを減らし、残ったホブゴブリンへ遠距離攻撃を集中する。
最後に残ったゴブリンジェネラルへ、ユースケがアーマーブレイクを叩き込んだ。
金棒が頭上へ持ち上がる。
「離れて!」
全員が距離を取る。
ドォンッ!
金棒が石床へ叩きつけられた。
動きの止まったゴブリンジェネラルへ、矢と魔法が一斉に飛ぶ。
同じ攻防を繰り返し――。
「グオオォォッ!」
ゴブリンジェネラルが光の粒となって消えた。
「やった!」
Bチームから歓声が上がる。
やがて宝箱が現れ、8人が初回討伐報酬を受け取った。
「おおっ!」
「やった!」
嬉しそうに報酬を確認する8人を見届けると、部屋の奥に石造りの階段が現れる。
そのまま階段を上り、Bチームも無事に玄武門へ辿り着いた。
「17時に冒険者ギルド前へ集合してください。Aチームにも同じように伝えてあります」
「分かりました!」
「じゃあ、またあとで」
ユースケはシオリとヒナを見る。
残るは、Cチームの8人。
「あと1組だね」
「うん!」
「最後ですね」
3人は最後の8人を迎えに、再び旅立ちの洞窟へ戻っていった。
◇
再び洞窟を抜けると、コウジとCチームの8人が待っていた。
ユースケは残った8人を見る。
「じゃあ、最後はCチームです」
Cチームは、
戦士2人。
格闘家1人。
盗賊2人。
僧侶1人。
狩人1人。
魔術師1人。
「今回はコウジさんも一緒にお願いします」
「おう!」
Cチームの8人に、ユースケ、シオリ、ヒナ、コウジが加わる。
12人。
正式パーティーの上限ぴったりだ。
それぞれが武器を確認する中、1人だけ動かない少年がいた。
中学3年生のシュン。
職業は盗賊。
始まりの街を出た時はLv12だったが、ここまでの戦闘でLv13になっている。
それでも、24人の中では1番レベルが低かった。
シュンはアイアンダガーを握ったまま、洞窟の入口を見つめている。
「シュン?」
コウジが声をかける。
「どうした?」
シュンはしばらく黙っていた。
やがて、握っていたダガーへ視線を落とす。
「…俺、遠距離攻撃できないよ」
「ん?」
「みんな弓とか魔法で後ろから攻撃してたじゃん。でも俺、これしかないし…」
手にしているのは、転職した時に選んだアイアンダガー。
「弓も魔法も買えなかったし…」
シュンの声が小さくなる。
「俺、レベルも1番低いし…」
洞窟の暗い入口を見る。
だが、足は動かなかった。
コウジがシュンのそばへ歩み寄る。
「大丈夫だ」
「でも…」
「危なくなったら俺が助ける。ユースケさんたちもいるんだ。AチームもBチームも無事だっただろ?」
「分かってるけど…」
シュンはダガーを強く握る。
「でも、俺が攻撃するなら前に行くしかないじゃん」
コウジが言葉を止めた。
「じゃあ、前に出なければいいよ」
ユースケが声をかけた。
「え?」
シュンが顔を上げる。
ユースケはヘルパーを操作し、アイアンボウを取り出した。
「これ使って」
差し出された弓を見て、シュンが目を瞬く。
「…弓?」
「俺のアイアンボウ。玄武門まで貸すよ」
「でも、俺、弓なんて使ったことないよ」
「大丈夫。盗賊は弓も得意なんだよ」
「そうなの?」
「うん。弓適性は110%あるから、相性はいいよ」
ユースケ自身も盗賊へ転職してから弓を使ってきた。
「スキルはなくても普通に撃てるし、矢も自動で出る。最初は当てることだけ考えればいいよ」
シュンはアイアンボウを見る。
それでも、すぐには手を伸ばさなかった。
「…俺にできるかな」
「やってみないと分からないよ」
ユースケはそのまま弓を差し出す。
「前に出るのが怖いなら、無理に前に出る必要はないからね」
シュンがゆっくりと手を伸ばす。
アイアンボウを受け取り、確かめるように握った。
「…これなら、後ろにいていい?」
「もちろん」
ユースケは頷く。
「敵は俺が引きつけるから、シュン君は後ろから撃ってみて」
シュンはもう1度、洞窟の入口を見る。
さっきまでとは違い、今度は視線を逸らさなかった。
「…分かった」
小さく息を吐く。
「やってみる」
コウジが笑った。
「それでいい」
ユースケは全員を見渡す。
「じゃあ、最後のチームです。全員で玄武門まで行きましょう」
「おう!」
「はい!」
シュンもアイアンボウを握り、小さく頷いた。
12人は、旅立ちの洞窟へ足を踏み入れた。




