玄武門へ行きたいか!?
3組への振り分けを終えると、ユースケは集まった24人を見渡した。
3人組と2人組を1組ずつ合わせ、そこへソロを3人ずつ加えていく。
「この8人がAチーム。こっちの8人がBチーム。残った8人がCチームでお願いします」
呼ばれた人たちが、それぞれの場所へ移動する。
これで8人ずつ、3組。
明日からは、この3組を順番に玄武門まで連れていく。
ただ、分けただけではパーティーとは言えない。
3人組と2人組は互いを知らず、そこへ加わったソロの3人も、今日初めて顔を合わせたばかりだ。
「そうだ。みんな、夕飯はまだですよね?」
突然の言葉に、何人かが顔を見合わせる。
「まだだけど…」
「俺も」
「私たちもです」
「じゃあ、みんなで食べませんか?」
シオリがすぐに反応した。
「みんなって、ここにいる28人で?」
「うん。せっかくだし、明日の前夜祭にしよう」
ユースケはもう1度、24人を見る。
ソロの人を中心に、少し戸惑ったような顔もあった。
「これは明日のためにも大事なことなので、落ち着いた店で食事しながら少し話をさせてください」
「もちろん、食事代は俺が払います」
「キャー、ユースケさん太っ腹!」
シオリの表情が一気に明るくなる。
「じゃあ、行きましょう」
◇
28人でレストランへ入ると、店内が一気に賑やかになった。
「明日一緒に行くチームごとに座ってくださいね」
A、B、Cの3チームに分かれ、それぞれ近くの席へ座っていく。
明日の戦闘では、同じパーティーとして動くことになる。
名前すら知らないまま出発するより、少しでも互いのことを知っていた方がいい。
それだけではない。
24人のうち、9人がソロだった。
明日はユースケたちが一緒にいればいい。
だが、玄武門へ着いたあとは違う。
その先まで、ずっと面倒を見られるわけではない。
今のうちに知り合いを増やしておけば、玄武門で新しいパーティーを組むきっかけにもなる。
それに――。
帰還できるのは、最後に残った1つの大陸だけだ。
この24人が生き残り、その先でも戦えるようになれば、それだけ玄武大陸の戦力が増える。
玄武大陸の生存率が上がれば、巡り巡って自分たちが帰れる可能性も上がる。
ただの人助けというわけでもない。
ユースケは24人とコウジへ尋ねた。
「ちなみに、渡り人ディナーを食べたことがある人っていますか?」
「渡り人ディナー?」
何人かが顔を見合わせる。
手は上がらなかった。
コウジも首を横に振る。
「俺もないな」
「そうですか」
ユースケは小さく笑った。
ちょうどいい。
「じゃあ、今日はそれにしましょう」
「えっ?」
「全員分?」
シオリまで目を丸くしている。
「ユースケさん、私たちの分も?」
「もちろん」
「ちょっと待って。28人だから…」
シオリが指を折りながら計算する。
「70,000G!?」
「そうなるね」
「高いよ!」
ユースケは笑った。
「だてに夜狩りで稼いでないよ」
「夜狩りのお金、ここで使うんだ!?」
シオリが吹き出す。
「必要な時に使わないと意味ないからね」
70,000G。
安くはない。
だが、この人数の生存率を少しでも上げられるなら、使う価値はある。
28人分の渡り人ディナーを注文する。
【渡り人ディナー 2,500G】
【70,000Gを支払いました】
◇
ほどなくして、料理が次々と運ばれてきた。
肉料理にスープ、パン、色とりどりの付け合わせ。
始まりの街では少し高級な料理が、テーブルいっぱいに並んでいく。
シオリが嬉しそうに料理を見る。
「久しぶり!」
「シオリは食べたことあるもんね」
「もちろん覚えてるよ。ユースケさんの奢りだったし!」
ヒナも懐かしそうに微笑んだ。
全員の料理が揃ったところで、ユースケは席を立った。
話していた人たちが気付き、少しずつ声が止まっていく。
28人の視線が集まった。
こうして大勢の前に立つのは久しぶりだった。
中学で生徒会長をしていた頃や、高校でギルドマスターをしていた頃を少し思い出す。
けれど、不思議と緊張はしなかった。
「じゃあ、食べる前に少しだけ」
ユースケは集まった人たちを見渡した。
「まず事務的な連絡です」
「明日は朝9時に冒険者ギルド前に集合してください」
「もし所持金に余裕があれば、遠距離から攻撃できる弓か魔法を準備しておいてください」
少しだけ間を置いた。
「明日から、俺たちは3組に分かれて玄武門を目指します」
「今日まで誰と戦って、どこで過ごしてきたのかは、それぞれ違います。今日初めて会った人もいると思います」
「でも、明日は今のチームで同じパーティーを組みます」
そして、少しだけ視線を落とす。
「だから、1つだけ話しておきたいことがあります」
「俺はこの街を出てすぐの頃、目の前で1人の渡り人が死ぬのを見ました」
食堂が静かになる。
「ウルフに襲われていた3人を見つけて、助けに入りました。でも、1人には間に合わなかった」
あの時の光景は、今でも覚えている。
ユースケは顔を上げた。
「この世界では、本当に人が死にます」
「だから明日は、無理をしないでください。怖かったら怖いって言っていい。危なかったら助けを呼んでください」
「そして、自分に少し余裕がある時は、隣にいる人も見てあげてください」
「俺も、あの時よりは強くなりました。でも、1人で全員を守れるなんて思ってません」
ユースケは小さく笑った。
「だから、みんなで助け合いましょう」
シオリとヒナが静かにユースケを見ている。
「俺はもう、目の前で誰かが死ぬのを見たくない」
その言葉だけは、少し強くなった。
「次は間に合わせたい」
「俺だけじゃなく、ここにいるみんなの力で」
静まり返った食堂に、ユースケの声だけが響く。
ユースケは表情を少し緩めた。
「そのためにも、今日は話してください。名前でも、得意なことでも、好きなゲームでも何でもいいです。明日一緒に戦う人が、どんな人なのか少しでも知っておいてください」
「玄武門に着いたら、俺たちとはそこで別れることになります」
「でも、今日できた繋がりまで、そこで終わらせる必要はないと思います」
ユースケは集まった人たちを見渡した。
「今日たまたま隣に座った人が、明日は命を預ける仲間になるかもしれない。その先も一緒に戦う仲間になるかもしれない」
そして、グラスを手に取った。
「俺たちは、全員同じ玄武大陸にいます」
グラスを少し持ち上げる。
「ここにいる全員で、1人も欠けずに玄武門に立ちましょう」
わずかな間、静寂が流れる。
ユースケは少し笑った。
「乾杯!」
「乾杯!」
声が重なり、あちこちでグラスが軽く触れ合った。
ようやく料理へ手が伸びる。
ユースケも目の前の料理を口へ運んだ。
その直後だった。
料理を口にした人たちの動きが、次々と止まっていく。
コウジも目の前に現れた表示を見て固まった。
食堂が静まり返る。
「…え?」
誰かが呟いた。
次の瞬間――。
「うおおおおっ!?」
「全部上がった!」
「マジかよ!」
「私も!」
「全ステータス+1!?」
「すげえ!」
食堂がたちまち騒がしくなった。
目の前の表示を何度も確認する者。
隣の仲間と見せ合う者。
拳を握って喜ぶ者。
さっきまで不安そうだった顔にも、次々と笑顔が広がっていく。
ヒナが楽しそうにユースケを見る。
「ユースケさんの狙い通りですね」
「うん」
ユースケは笑いながら立ち上がった。
「これも、みんなを誘った理由の1つです」
視線が集まる。
ユースケはその空気を見て、少し声を張った。
「これで俺たちは強くなった!」
「おおっ!」
すぐに声が返ってくる。
思っていたより反応がいい。
それなら――。
ユースケは拳を上げた。
「明日、必ず全員で玄武門まで行くぞ!」
「おおおおっ!」
食堂に大きな声が響いた。
ユースケは笑う。
「その程度か!?絶対に生きて辿り着くぞ!」
「おおおおおおっ!」
さっきより大きな声が返ってきた。
その勢いに、シオリも笑いながら立ち上がる。
拳を高く突き上げた。
「玄武門へ行きたいかーー!?」
「おおおおおおおおっ!」
完全に昔のクイズ番組のノリになっていた。
ヒナが隣でくすくす笑っている。
「すごい盛り上がりですね」
「ちょっとやりすぎたかな」
「いえ。皆さん、楽しそうです」
ユースケも周囲を見渡した。
ステータスが1ずつ上がったからといって、旅立ちの洞窟が安全になったわけではない。
ゴブリンジェネラルの攻撃をまともに受ければ、低レベルの人には危険だ。
それでも、怖がったまま明日を迎えるよりはいい。
さっきまで互いに距離を取っていた人たちが、今は笑いながら話している。
「さっき何のゲームやってたって言ってた?」
「俺もそれやってた!」
「マジで?」
「玄武門に着いたあとも、一緒にやらない?」
別の席では、ソロだった渡り人が2人組と笑いながら話していた。
あちこちでフレンド申請をしているようだ。
ユースケはそれを見て、小さく頷いた。
明日の護衛だけなら、ここまでする必要はなかった。
でも、この先も戦いは続く。
ユースケは再び席へ座り、料理へ手を伸ばした。
明日から、3組を玄武門まで送り届ける。
その前に――。
今夜くらいは、みんなで騒いでもいいだろう。




