持ちつ持たれつ
ユースケたちが近づくと、男性もこちらに気付いた。少し不思議そうな顔をしたあと、目を見開く。
「君、あの時の…!」
「覚えてたんですね」
「もちろんだよ。あの時は本当に助かったから」
男性が笑った。
頭上には『コウジ』と表示されていた。向こうもユースケの名前を確認したらしい。
「俺は戦士のコウジ。よろしくな」
「盗賊のユースケです。よろしくお願いします」
初めて会った時は、互いに名前すら知らなかった。
ユースケは周囲を見る。広場には何人もの渡り人が集まり、不安そうに話し合っていた。
「今から出る?」
「でも、もう夕方だぞ…」
「洞窟を抜けるまで何時間かかるんだ?」
「ボスがいるって聞いたけど、本当なのか?」
「俺たちだけで行って大丈夫かな…」
街の出口を見ながら迷っている者。
武器を握ったまま動けずにいる者。
仲間同士で何度も相談している者。
宣告を聞いて、ここに留まり続けるわけにはいかないことは分かっている。
それでも、死ねば終わりだ。
急いで出発することが正しいのか。
明日の朝まで待った方がいいのか。
自分たちだけで旅立ちの洞窟を突破できるのか。
誰も答えを持っていなかった。
「俺はレベル18まで上がったから、行こうと思えば行けるんだけどさ」
コウジが広場を見る。
「怖くて動けない人もいるし、何とか一緒に行けないかと思ってたんだ」
「そうだったんですね」
あの時、何をすればいいのか分からず困っていた男性が、今は他の渡り人を気にかけて残っている。
ユースケは少し嬉しくなった。
コウジがシオリとヒナへ視線を向ける。
「ユースケさんたちは、どうして戻ってきたんだ?」
「ここの人たちを玄武門まで連れていこうと思って」
コウジが驚いたように目を見開く。
「そのために戻ってきたのか?」
「はい。ただ、全員をまとめて連れていくのは無理だと思ってます」
ユースケは広場へ視線を向けた。
「まず、旅立ちの洞窟について分かってることを話してみます」
「分かった。みんな、ちょっと聞いてくれ!旅立ちの洞窟を抜けた人から話がある!」
コウジが周囲へ大きな声をかける。
広場にいた渡り人たちが、少しずつこちらへ集まってきた。
全員ではない。
離れた場所で話し続けている者もいれば、そのまま宿屋へ向かう者もいる。
それでも、旅立ちの洞窟について知りたい者は多いのだろう。
ユースケたちの周囲に、自然と人の輪ができた。
「俺たちは1度、旅立ちの洞窟を抜けて玄武門まで行っています」
ざわめきが少し収まった。
「洞窟の推奨レベルは18です。途中にはゴブリンとホブゴブリンが出ます」
何人かの表情が強張る。
「ゴブリン系には氷属性が有効です。
アイスバレットが使える人がいたら、かなり役に立つと思います」
「ボスは?」
すぐに声が上がった。
「俺たちが攻略した時は、最深部にゴブリンジェネラルがいました。レベル18です」
周囲がざわつく。
「やっぱりボスいるのか…」
「無理だろ…」
ユースケは続ける。
「金棒を頭上まで振りかぶった時は、できるだけ大きく離れてください。床に叩きつける攻撃は、周囲にも衝撃が広がります」
真剣な表情で聞いていた者たちが頷く。
「盗賊のクイックステップや格闘家のサイドステップが使える人は、それで大きく距離を取ってください」
ユースケは少し間を置いて続けた。
「叩きつけた後は隙が大きいので、そのタイミングで総攻撃すると戦いやすいです」
周囲から小さく声が上がる。
情報を聞いたことで安心した者もいる。
逆に、ボスの存在を知って顔色を悪くした者もいた。
それでいい。
危険を知らないまま進むより、知ったうえで判断した方がいい。
少しすると、誰かが口を開いた。
「貴重な情報をありがとう。俺たちは行ってみるよ」
「人数も6人いるし、明日の朝に出る」
それをきっかけに、別の集団も話し始める。
「俺たちも他の人を誘ってみよう」
「氷魔法を持ってる人、探そうぜ」
先ほどまで止まっていた空気が、少しずつ動き始める。
ユースケはその様子を見てから、もう1度周囲へ声をかけた。
「自分たちだけでは難しいと思う人は、無理に出発しないでください」
視線が集まる。
「俺たちは、そのために戻ってきました」
広場が静かになった。
「俺は今、レベル23です。旅立ちの洞窟も1度攻略しています」
ユースケは集まった人たちを見渡した。
「危ないところは俺たちが前に出ます。人数を分けて、玄武門まで一緒に行きます。だから、自力で行くのが不安な人は残ってもらえますか?」
すぐに返事はなかった。
互いの顔を見る者。
俯く者。
迷っている者。
やがて、1人がゆっくりと手を上げた。
「…お願いしてもいいですか?」
その声をきっかけに、別の場所でも手が上がる。
「俺も…」
「私たちもお願いします」
ユースケは集まってくる人たちを見ながら頷いた。
「分かりました。まず、皆さんのことを教えてください」
集まった人たちを見渡す。
「今すでにパーティーを組んでる人は、そのメンバーごとに並んでもらえますか?」
何人かが互いの顔を見て動き始める。
「ソロの人は、こっちに並んでください」
ユースケが少し離れた場所を示した。
やがて、広場の端にいくつかの小さな集団ができる。
3人組が3つ。2人組が3つ。そして、ソロが9人。
合わせて24人。
普段から一緒に戦っている相手なら、無理に引き離す必要はない。
連携だけでなく、知っている相手がそばにいる安心感もあるはずだ。
まずは今の組み合わせを残す。
そのうえで、ソロの人たちを加えればいい。
ユースケは並んだ24人を見渡した。
「これなら、うまく分けられそうだね」
正式なパーティーは最大12人。
3人組と2人組を1組ずつ合わせれば5人。そこへソロを3人加えれば8人になる。
それを3組。
さらに、ユースケ、シオリ、ヒナが加われば11人だ。
「8人ずつ、3回に分けて玄武門まで行きましょう」
集まった渡り人たちが顔を見合わせる。
「今一緒にいる人たちは、そのまま同じ組にします。そこにソロの人を3人ずつ入れます」
ユースケがそう説明すると、何人かが安心したように頷いた。
あとは――。
ユースケはコウジを見る。
「コウジさん、お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「もしよければ、俺たちと一緒に手伝ってもらえませんか?」
コウジは少し目を丸くした。
だが、すぐに笑う。
「もちろんだよ。そのつもりで残ってたんだから」
「ありがとうございます」
これで12人。
ユースケはもう1度、集まった24人へ視線を戻した。
3回に分ければ、全員を玄武門まで連れていける。
まずは、そのための準備からだ。




