にんげんっていいな
翌朝。
ユースケは目を覚ますと、しばらく天井を見つめていた。
「…」
昨晩の出来事が鮮明に蘇ってくる。
90%。
95%。
85%。
「考えるのはやめよう」
思い出すだけで、また疲れてきた。
ユースケはベッドから起き上がり、宿の食堂へ向かった。
◇
食堂へ入ると、シオリとヒナはすでに朝食を食べ始めていた。
ユースケも同じテーブルに座る。
「おはよう」
「おはよっ!」
「おはようございます」
2人が挨拶を返す。
「そういえば!」
シオリが顔を上げた。
「昨日、お昼寝したあとにヒナと街の周りでレベル上げして、2人ともレベル20になったよ!」
「そうなんだ。おめでとう」
「ありがとうございます」
ヒナが嬉しそうに微笑む。
「ユースケさんは昨日、何してたの?」
「コボルトを相手に短剣の熟練度上げかな。レベルも22になったよ」
「やっぱり!」
シオリが笑う。
「短剣はどうだった?」
「だいぶ慣れてきたかな。熟練度もLv2になったよ」
「おお!新しいスキルは?」
「ダブルアタック」
「どんなの?」
「素早い2連撃を放つスキルだね」
「盗賊っぽい!」
シオリが楽しそうに笑う。
ユースケは少し間を置いた。
「…あと、ポイズンダガーも+3になったよ」
「えっ!もう強化したの?」
「うん」
「すごいじゃん!」
シオリが目を輝かせる。
その隣で、ヒナがユースケの顔をじっと見ていた。
「ユースケさん、何かあったんですか?」
「…分かる?」
「なんとなく」
ユースケは少し考えてから口を開く。
「成功率90%を失敗した」
「え?」
シオリが目を丸くする。
「その次の95%も失敗した」
「ええっ!?」
「そのあと85%も失敗した」
「うそでしょ!?」
「本当」
ユースケは遠い目をした。
ヒナも苦笑する。
「それは辛かったですね…」
「90%、95%、85%を続けて外す確率、0.075%だよ」
「…」
シオリが少し考える。
「そっか」
そして、顔を上げた。
「じゃあ、逆にすごくない?」
「何が?」
「そんな低い確率を引いたんだから!」
シオリが笑顔で頷く。
「ユースケさん、運がいいね!」
「それは違うと思う」
ヒナが小さく笑う。
「でも、最終的には+3になったんですよね?」
「うん」
「それなら、結果としては悪くなかったんじゃないですか?」
「まあ、結果だけ見ればね」
ユースケも苦笑する。
「じゃあ問題なし!」
シオリが元気よく言う。
「今日はリザードマンの巣窟に行くんでしょ?」
「うん」
「だったら昨日のことは忘れよ!今日は新しい人たちと一緒に冒険できるんだよ!」
ヒナも穏やかに微笑む。
「今日は今日で、楽しみなことがありますから」
ユースケは2人を見る。
シオリはいつも通り明るい。
ヒナも優しく笑っている。
昨日の強化失敗を、まだ引きずっていた。
それを年下の2人に励まされている。
「…何やってるんだろうな、俺」
思わず笑いが漏れた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
ユースケは残っていた朝食を口に運ぶ。
不思議と、昨日までの重たい気分が消えていた。
人間っていいな。
そんな言葉が、ふと頭に浮かぶ。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
シオリが満面の笑みを浮かべる。
「どういたしまして」
ヒナも優しく微笑んだ。
◇
朝食を終え、3人は宿を出た。
「それじゃあ、冒険者ギルドへ行こうか」
「うん!」
「はい」
歩き始めると、シオリが楽しそうに話しかけてくる。
「どんな人が来てるかな?強い人だったらいいね!」
「シオリ、レベルだけで判断しちゃ駄目だよ」
「分かってるって!」
「本当?」
「本当だよ!」
2人のやり取りを聞きながら、ユースケは笑う。
しばらく歩いたところで、ふと思い出した。
「そういえば、2人ともレベル20になったんだよね」
「うん!」
「はい」
「じゃあ、新しいスキルも覚えた?」
「もちろん!」
シオリが嬉しそうに答える。
「私は【プッシュ】っていうスキルを覚えたよ!」
「プッシュ?」
「魔力で相手を吹き飛ばすんだって!」
シオリが両手を前へ突き出す。
「消費MPは5!」
「敵との距離を取れるなら、かなり便利そうだね」
「でしょ?」
シオリが得意げに笑う。
「ヒナは?」
「私は【プロテクション】です」
「どんなスキル?」
「味方1人のVITを上昇させます。効果時間は30分で、消費MPは8です」
「VITアップか」
ユースケは少し考える。
「前衛に使えば、かなり役立ちそうだね」
「はい。これからは戦闘前に使えそうです」
ユースケは2人を見る。
シオリは敵との距離を作るスキル。
ヒナは味方の耐久力を上げるスキル。
「2人とも、それぞれの役割に合ったスキルだね」
「じゃあ、今日はプッシュを試したい!」
シオリが楽しそうに言う。
「ダンジョンで使える相手がいたらいいな!」
「シオリ、まずは安全第一だよ」
「分かってるって!」
「本当?」
「もう、ヒナは心配しすぎ!」
シオリが頬を膨らませる。
ユースケは笑った。
「まあ、実戦で試してみるのは大事だね」
「でしょ!」
「ただ、無理はしないようにね」
「はーい!」
3人はそんな話をしながら、冒険者ギルドへ向かった。




