大魔導士
翌朝。
ユースケたちは宿の食堂に集まり、朝食を食べながら今日の予定を話していた。
「昨晩のうちに、買うものはだいたい決めたよ」
「もう決めたんですか?」
ヒナが尋ねる。
「まずはシルバーソードとシルバーシールド。それと魔法を3つ買う」
「強化は?」
シオリが聞く。
「一旦見送るよ。まずは装備を更新したいかな」
現在の所持金は324,900G。
シルバーソードが110,000G。
シルバーシールドが120,000G。
それだけで230,000Gになる。
「魔法は何を買うの?」
シオリが身を乗り出す。
「ファイアとウィンドとアース」
「3つも?」
「これで4属性の単体攻撃魔法が揃うからね」
ユースケはすでにアイスバレットを覚えている。
ヒナが納得したように頷いた。
「ユースケさんらしいですね」
「そうかな?」
「武器も使い分けていますし、アナライズで弱点が分かるなら、魔法も選べた方が便利そうです」
「俺もそう思った」
3つの魔法書で45,000G。
装備と合わせれば275,000Gだ。
「買ったら残り49,900Gか」
かなり減るが、必要なものを揃えるなら問題ない。
「じゃあ、私も4属性揃える!」
シオリが目を輝かせる。
「あと範囲魔法!」
「何を買うの?」
「フレイムサークル!」
即答だった。
「やっぱり火なんだ」
「火属性ってカッコいいじゃん!」
「100,000Gするけど」
「分かってるよ!」
シオリが胸を張る。
「それでも欲しい!」
ヒナが小さく笑う。
「シオリらしいね」
「でしょ?」
「褒めてるかは分からないけど」
「えっ?」
ユースケは思わず笑った。
「杖も強化するんだよね?」
「もちろん!」
シオリが元気よく頷く。
「昨日、鉄鉱石を20個も掘ったからね。魔力の杖を+4まで強化してみる!」
「フレイムサークルも買うなら、お金はちゃんと残しておいてね」
「大丈夫!」
本当に計算しているのか少し気になったが、シオリもそこまで無計画ではないだろう。
「ヒナは?」
「私はリジェネを買います」
「やっぱり回復魔法?」
「はい。ヒールとは使い方が違いますし、選択肢を増やしておきたいです」
ヒナは少し考えてから続ける。
「それとシルバースタッフ。攻撃魔法はファイア、アイスバレット、アースを買うつもりです」
「ヒナも4属性になるんだ」
シオリが嬉しそうに言う。
「うん。でも範囲魔法はまだいいかな」
「回復もあるもんね」
「そういうこと」
シオリは範囲攻撃。
ヒナは回復を優先しながら攻撃属性も増やす。
ユースケはアナライズに合わせて、使える手札を広げる。
同じ4属性を揃えても、目的は少しずつ違う。
ユースケは残りの朝食を口に運んだ。
◇
朝食を終えた3人は、さっそく買い物へ向かった。
最初は武器屋だ。
「シルバーソードをください」
ユースケは110,000Gを支払い、シルバーソードを受け取る。
隣では、ヒナもシルバースタッフを購入した。
続いて防具屋へ向かう。
「シルバーシールドをお願いします」
120,000Gを支払い、こちらも受け取った。
これで片手剣と盾がシルバー装備になった。
◇
次は魔法屋だ。
ユースケはファイア、ウィンド、アースの魔法書を購入した。
3冊で45,000G。
【所持金 49,900G】
「一気に減ったな…」
「でも、これで4属性だね!」
シオリが楽しそうに言う。
「うん。試すのが楽しみだね」
続いてシオリはウィンドとアースを購入する。
さらに――。
「フレイムサークルください!」
迷いはなかった。
「本当に買った」
「買うって言ったじゃん!」
シオリが100,000Gの魔法書を大事そうに抱える。
「これで私も4属性!しかも範囲魔法付き!」
「嬉しそうだね」
「めちゃくちゃ嬉しい!」
最後にヒナも、リジェネ、ファイア、アイスバレット、アースを購入した。
「これで買い物は終わりかな」
「まだ!」
シオリが即答する。
「鍛冶屋!」
「忘れてなかったんだ」
「忘れるわけないよ!」
シオリは鉄鉱石を取り出す。
「20個あるから、+4まで挑戦する!」
「じゃあ、行こうか」
3人は鍛冶屋へ向かった。
◇
鍛冶屋へ入ると、昨日の大柄な男が工房の奥から顔を出した。
「おう。昨日の兄ちゃんと嬢ちゃんたちか」
「鉄鉱石持ってきたよ!」
シオリが元気よく答える。
「今日は何を強化するんだ?」
「これ!」
シオリが魔力の杖を差し出した。
「+4までお願いします!」
男が眉を上げる。
「いきなり+4までか?」
「うん!」
「途中から失敗もあるぞ」
「分かってる。それでもやる!」
シオリは真剣な顔で頷いた。
男は少しだけ口元を緩める。
「分かった。まずは+1だ」
魔力の杖と鉄鉱石1個を受け取る。
「10,000Gだ」
「はい!」
代金を支払うと、鍛冶が始まった。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
工房に金属音が響く。
しばらくして、男が杖を返した。
「+1、成功だ」
「やった!」
シオリが嬉しそうに杖を掲げる。
「次は+2。鉄鉱石2個と20,000G。成功率90%だ」
「お願いします!」
再び鍛冶が始まる。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
男が杖を確認する。
「成功だ」
「よし!」
シオリが拳を握った。
「次は+3。鉄鉱石4個と40,000G。成功率85%」
「やる!」
即答だった。
「迷わないな」
「当たり前でしょ」
シオリが胸を張る。
「私は炎と氷を極めて、大魔導士になるの!」
男が少しだけ目を丸くした。
「大魔導士か」
「うん!」
「そんな職業あるのかな…」
ユースケは聞こえないように呟いた。
ヒナが小さく笑う。
鍛冶が始まる。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
やがて男が顔を上げた。
「成功だ」
「やったぁ!」
シオリが飛び跳ねる。
「次が、この工房でできる最後だな」
「+4!」
「鉄鉱石8個と80,000G。成功率80%だ」
シオリは一瞬だけ杖を見る。
「お願いします!」
「失敗しても泣くなよ」
「泣かないよ!」
「さっき鉱山で叫んでたけど」
ユースケが言う。
「それは別!」
ヒナが吹き出した。
男も笑いながら杖を鍛冶台へ置く。
「じゃあ、始めるぞ」
カンッ!
カンッ!
カンッ!
シオリがじっと作業を見守る。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。
最後の音が止まった。
男が杖を持ち上げ、状態を確認する。
「…成功だ」
「本当!?」
シオリが身を乗り出す。
「+4だ」
「やったぁ!」
両手を上げて喜ぶ。
「すごい!」
ヒナも嬉しそうに笑った。
「全部通ったね」
ユースケも杖を見る。
+2、+3、+4。
失敗する可能性のある強化をすべて1回で成功させた。
「嬢ちゃん、ついてるな」
男が感心したように言う。
「えへへ」
シオリが魔力の杖を大切そうに抱えた。
「大魔導士に1歩近づいた!」
男が笑う。
「次に強化できる場所を見つけたら、その杖を持っていきな」
「うん!」
シオリは大きく頷いた。
「ありがとう、おじさん!」
「誰がおじさんだ!俺はまだ20代だ!」
「うそぉ!?」
今度はシオリだけでなく、ユースケとヒナも男の顔を見る。
「本当だ!」
「……」
「なんだ、その間は!」
シオリがじっと顔を見る。
「だって、どう見ても…」
「シオリ、それ以上はやめておこう」
ユースケが止める。
ヒナも苦笑した。
「うん。それ以上はやめた方がいいね」
「お前ら、揃いも揃って失礼だな!」
男の声が工房に響く。
シオリは笑いながら、強化された杖を抱え直した。
「でも、本当にありがとう!」
「おう。大事に使えよ」
「もちろん!」
いつの間にか、2人の間には妙な親しさが生まれていた。
ユースケはそんなやり取りを見ながら笑う。
「これでシオリの火力も上がったね」
「うん!これからも任せて!」
ヒナも新しい杖を持ち上げる。
「私もリジェネを覚えたし、できることが増えましたね」
「俺も武器と魔法が増えたし、準備はできたかな」
「次はどこに行く?」
シオリが尋ねる。
「それは、これから考えようか」
ユースケは2人を見る。
新しい武器。
新しい魔法。
そして、強化された装備。
玄武門での冒険は、まだ始まったばかりだ。
シオリが杖を掲げる。
「大魔導士シオリの冒険はこれからだ!」
「勝手に変えないでよ」
ユースケが笑い、改めて前を向く。
「俺たちの戦いはこれからだ!」




