将軍
翌朝。
旅立ちの草原の入口には、5人全員が揃っていた。
ユースケは皆を見渡す。
「みんな、準備は大丈夫?」
「ばっちり!」
シオリが元気よく答える。
「私たちも全部アイアン防具にしたよ!」
ヒナも新しい装備を確かめながら頷いた。
「昨日より安心して戦えそうです」
サトルも自分の鎧を軽く叩く。
「俺たちも今買える中では一番いい装備を揃えたぞ!」
「準備は十分ね」
ランも静かに続ける。
「あとは、あの扉だね」
シオリが少し楽しそうに笑った。
「玄武の紋章があったし、やっぱりボス部屋かな?」
「俺の直感ではそうだな!」
サトルが豪快に笑う。
「その直感は俺も同じかな」
ユースケも笑ってから、洞窟のある方角へ視線を向けた。
「じゃあ、行こうか」
5人は旅立ちの洞窟へ向かった。
◇
旅立ちの森を抜け、洞窟へ入る。
昨日通った道ということもあり、5人の足取りに迷いはない。
しばらく進んだところで、ユースケが足を止めた。
「敵がいる」
前方には、ホブゴブリンが1匹。
その周囲に、ゴブリンが6匹いる。
「昨日と同じですね」
ヒナが小さく呟く。
「うん」
ユースケはアイアンソードではなく、アイアンスタッフを取り出した。
シオリが目を丸くする。
「あれ?」
「ユースケさん、杖使うの?」
「昨日ちょっと試してみたんだ」
「また夜に!?」
「…まあ、その話は置いといて」
シオリの視線から逃げるように、ユースケは前を見る。
「この相手なら、サトルさんとランさんに前を任せて、俺も後ろから攻撃した方が良さそうだからね」
ランが頷く。
「やってみましょう」
敵がこちらへ気付いた。
「行くぞ!」
サトルが前へ出る。
「シールドノック!」
盾を打ち鳴らす音が洞窟へ響き、ゴブリンたちの視線がサトルへ集まった。
同時に、ランがホブゴブリンへ向かう。
棍棒をかわし、その懐へ潜り込む。
鋭い拳打を数発叩き込んだ。
「シオリ」
「うん!」
2人が杖を構える。
「アイスバレット!」
「アイスバレット!」
2発の氷弾がほぼ同時に飛ぶ。
ホブゴブリンの胸へ続けて直撃した。
「グオッ…!」
巨体が光の粒となって消える。
「おお!」
サトルがゴブリンを受け止めながら声を上げた。
「速いな!」
シオリも嬉しそうに笑う。
「アイスバレット強いね!」
ユースケは消えていく光を見ながら頷いた。
「ホブゴブリンには効果は抜群だね」
「やっぱり!」
シオリが得意げに笑う。
残ったゴブリンも、5人で落ち着いて倒していった。
◇
その後も洞窟の奥へ進む。
昨日までに戦い方は十分分かっている。
サトルがゴブリンを受け止め、ランがホブゴブリンを引き付ける。
ユースケとシオリは必要な時だけ魔法を使い、ヒナは前衛のHPを見ながら回復する。
ランが攻撃を受けた時には、ユースケもヒールを使った。
無理にスキルを連発する必要はない。
MPに余裕を残しながら、確実に敵を倒していく。
昨日よりも、さらに動きは安定していた。
何度か休憩も挟みながら進み――。
やがて。
前方に、巨大な石造りの扉が姿を現した。
中央には、蛇が絡みつく亀の紋章。
昨日見つけた扉だ。
「着いたね」
ユースケが足を止める。
5人の表情から、自然と笑みが消えた。
◇
ユースケは全員を見る。
「入る前に、もう1度だけ確認しておこうか」
4人が頷く。
「無理だと思ったら、すぐ下がる」
「倒すことより、生き残ることを優先しよう」
「おう!」
「分かったわ」
「はい」
「うん!」
「まずは相手を確認するところからでいこう」
ユースケが扉へ手を伸ばす。
ゆっくりと押す。
ギィィィ…。
重い音を響かせながら、巨大な扉が開いていく。
その先には、広い円形の空間が広がっていた。
壁には古びた松明が並び、薄暗い部屋を照らしている。
念のため、すぐに戻れるよう扉は開けたままにする。
そして――。
部屋の中央。
「…いるね」
ユースケが小さく呟いた。
棍棒を持ったゴブリンが4匹。
その後ろに、ホブゴブリンが1匹。
そして。
さらに奥に、他の魔物とは明らかに違う存在が立っていた。
ホブゴブリンよりも二回りは大きな身体。
太い腕。
その手には、巨大な金棒が握られている。
周囲のゴブリンたちを従えるように、堂々と立っていた。
「でかっ…」
シオリが思わず呟く。
ユースケはその魔物へ視線を向け、ヘルパーを開いた。
【ゴブリンジェネラル】
【レベル18】
「ジェネラル…将軍か」
サトルが金棒を見ながら笑う。
「名前からして強そうだな!」
「そうだね」
ユースケは敵の配置を確認する。
ゴブリンが4匹。
ホブゴブリンが1匹。
そして、未知のゴブリンジェネラル。
「まず数を減らした方がいいかな」
ユースケはランを見る。
「ランさん、ジェネラルの相手をお願いできますか?」
「任せて」
ランが真剣な表情で頷く。
「倒そうとしなくて大丈夫です」
「安全優先で、時間を稼いでください」
「分かったわ」
次にサトルを見る。
「サトルさんはゴブリン4匹をお願いします」
「任せろ!」
サトルが盾を握り直す。
「俺がまとめて引き受ける!」
「俺はホブゴブリンを取ります」
「シオリと一緒に速攻で倒して、終わったら2人の援護に回る」
「了解!」
シオリが杖を構える。
「ヒナはサトルさんとランさんを優先して見てて」
「俺は危なくなったら自分でヒールするから」
「分かりました」
ヒナも杖を握り直した。
倒し方が分からない相手を、最初から全員で囲む必要はない。
まずは危険な相手をランが引き付け、その間に数を減らす。
それから5人でジェネラルへ向かう。
「これでいこう」
全員が頷く。
その時だった。
「グルルル…」
ゴブリンジェネラルが低く唸る。
巨大な金棒を持ち上げ――。
ドンッ!
石床へ叩きつけた。
重い音とともに、空気が震える。
「うわ…」
シオリが杖を握り直す。
ランは無言で腰を落とした。
サトルも盾を前へ構える。
ユースケはアイアンソードを抜く。
ゴブリンジェネラルが顔を上げた。
赤い瞳が、5人を捉える。
【ユースケ Lv19】
【シオリ Lv16】
【ヒナ Lv16】
【サトル Lv17】
【ラン Lv17】
5人は武器を構えた。
旅立ちの洞窟、その最深部。
初めてのボス戦が始まる。




