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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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終わりの始まり

まぶしい光が消えた。

遊助はゆっくりと目を開く。

そこには、一面の草原が広がっていた。

頭上には青空が広がり、柔らかな風が草を揺らしている。遠くには木々が並び、小鳥のさえずりまで聞こえてきた。

遊助は立ち上がり、周囲を見回す。


「すごいな…」

風が肌を撫でる感触。

草と土の匂い。

足の裏から伝わる地面の硬さ。

現実とほとんど見分けがつかない。

フルダイブ機器が普及して約10年。遊助もこれまでに何本もの対応ゲームを遊んできたが、ここまで精巧な仮想空間は初めてだった。

その時、目の前に半透明のウィンドウが現れた。


【Four Kingdoms Onlineへようこそ】

【初期設定を開始します】


表示が切り替わる。


【本ゲームでは現実の身体情報を基にアバターを生成します】

【容姿の変更はできません】


「なるほど」

アバターを細かく作るのではなく、本人の姿をそのまま使うらしい。

遊助が自分の手や身体を確認していると、新たな画面が表示された。


【プレイヤー名を入力してください】

【カタカナのみ入力可能】

【人物名として認識可能な名称のみ登録可能】

【同名登録可能】


遊助は迷わず名前を入力する。

『ユースケ』


【初期設定が完了しました】


続けて、ゲームシステムの説明が始まった。


【全プレイヤーはノービスから開始します】

【レベル10到達時に1次職へ転職可能となります】


【戦士】

【格闘家】

【盗賊】

【僧侶】

【狩人】

【魔術師】


ユースケは並んだ職業名へ目を通す。

どれもMMORPGでは馴染みのある職業だった。


【本ゲームはレベル制とステータス成長制を採用しています】

【ステータスは行動内容に応じて成長しやすくなります】

【武器には熟練度が存在します】

【熟練度レベルにより新たなスキルを習得できます】


「これは面白そうだね」

思わず口元が緩む。

レベルを上げるだけでなく、プレイヤーが取った行動によって成長の仕方が変わる。


さらに、武器ごとに熟練度も存在するらしい。

どんな行動で、どのステータスが伸びるのか。

武器熟練度は、どれほど使えば上昇するのか。

職業によって、成長のしやすさは変わるのか。

まだ分からないことばかりだった。


だからこそ、実際に試してみたい。

「いろいろ検証できそうだね」

ユースケが説明を読み進めていると、視界の端に別のウィンドウが現れた。


【参加登録状況】

青龍 8,643/10,000

朱雀 8,205/10,000

白虎 6,917/10,000

玄武 5,564/10,000


「もうこんなに集まったのか」

周囲を見渡す。

同じ草原には、初期設定を進めているらしいプレイヤーたちの姿があった。

参加者数は今も増え続けている。

「サクラの予想、当たったな」

青龍が最も多い。


理由は、本人が言っていた通りなのかもしれない。

格好いいから。

一方、玄武は4大陸の中で最も少なかった。

「やっぱり、亀は地味なのかな」

少し寂しい気もするが、玄武を選んだことに後悔はない。

「好きなんだけどね」


ユースケが玄武の数字を見つめている間にも、参加人数は次々と増えていく。


9,000人。

9,500人。

そして――。


【全大陸定員到達】

【40,000/40,000】


表示が現れた瞬間、足元が大きく揺れた。

「え?」

ユースケが顔を上げる。

青空が歪んでいた。


空に亀裂が走り、巨大なガラスのように砕けていく。

草原も。

木々も。

遠くにいたプレイヤーたちも。

景色そのものが、光の粒となって崩れ始めた。

ユースケが身構えるよりも早く、視界が白く染まった。



次に目を開いた時、ユースケは見知らぬ空間に立っていた。

周囲を見渡し、息をのむ。

広大な空間が、見渡す限りプレイヤーで埋め尽くされている。

前にも。

後ろにも。

どこまで見ても人の姿が続いていた。

「もしかして…4万人全員?」


確認するように前へ進もうとしたが、足が動かない。

腕も上がらない。

顔を動かすことさえできなかった。

見えない力で、身体を固定されている。


「おい、動けないぞ!」

「何だこれ!?」

「メニューも出ない!」

周囲から困惑した声が上がる。

笑っている者。

必死に身体を動かそうとする者。

隣にいる仲間の名前を叫ぶ者。


ユースケも視界の中にメニューやチャットの表示を探したが、何も見つからなかった。

タケシたちへ連絡することもできない。

その時、頭上に巨大な光球が現れた。

白い光が空間全体を照らし、機械的な声が響き渡る。


『プレイヤーの皆様』

『Four Kingdoms Onlineへようこそ』


一瞬の静寂。

その直後、あちこちから歓声が上がった。

「イベントか!」

「演出すげえ!」

「これがオープニング?」

動けないことも、ゲーム開始時の演出だと思ったのだろう。

ユースケも一瞬だけ、その可能性を考えた。

だが、胸の奥に小さな違和感が残る。


『説明終了まで、プレイヤーの移動および各種機能を制限しています』


歓声が少しずつ静まっていく。


『これより、本ゲームを開始します』

光球の周囲に、4つの巨大な紋章が浮かび上がった。


東を示す青龍。

西を示す白虎。

南を示す朱雀。

北を示す玄武。

4つの紋章が円を描くように並び、その中央へ黒い光が集まっていく。


『なお、本ゲームからログアウトすることはできません』


誰かが吹き出した。

悪趣味な演出だと笑う声も聞こえる。

その一方で、必死にメニューを呼び出そうとしている者もいた。


『ログアウト機能は停止されました』

『ゲームクリアまで、現実世界への帰還は不可能です』


笑い声が消えていく。


「…何だよ、それ」

近くで誰かが呟いた。

光球は何も気に留めず、淡々と説明を続ける。


『ゲーム内で死亡したプレイヤーは復活できません』

『同時に、現実世界に存在する肉体も生命活動を停止します』


息を吸おうとして、喉が引きつった。

ゲーム内で死ねば、現実でも死ぬ。

そんなことがあるはずがない。

これはゲームだ。

ただのゲームのはずだ。

そう否定したいのに、声はあまりにも冷たく、冗談を告げているようには聞こえなかった。


『なお、本ゲーム終了まで、現実世界の時間は停止します』

『帰還条件はゲームの攻略です』


4つの紋章が強く輝く。


『帰還できるのは、最後まで勝ち残った1つの大陸に所属するプレイヤーのみです』


中央の黒い光から亀裂が伸び、4つの紋章を分断した。


『攻略に関する詳細は、各大陸で確認してください』


「ふざけるな!」

誰かが叫んだ。

その声をきっかけに、無数の怒声が上がる。

「今すぐログアウトさせろ!」

「運営を出せ!」

「こんなの認められるか!」

「嘘だろ!?」

泣き出す者もいた。

家族の名前を叫ぶ声も聞こえる。

怒声と悲鳴が重なり、巨大な空間を揺らしていた。

だが、光球は何も答えない。


ユースケは動かない身体に力を込めながら、必死に考える。

ログアウトできない。

死ねば、現実の肉体も死ぬ。

帰還できるのは、4大陸のうち1つだけ。

本当なら、あまりにも理不尽だ。


けれど、もし本当なら。

最初に考えるべきことは、自分の命だけではな

い。

「…タケシ」

サクラ。

マユ。

3人も、この空間のどこかにいる。


同じ玄武を選んだ。

少なくとも、敵同士ではない。

今すぐ姿を確認したかった。

声を聞きたかった。

だが、身体は動かず、連絡する方法もない。

「無事でいてくれよ…」


その時、光球が再び声を発した。

『それでは、ゲームを開始します』

飛び交っていた怒声が弱まる。

わずかな静寂が訪れた。


『皆様がどのような選択をするのか――楽しみにしています』


その言葉だけが、妙に耳へ残った。

ゲームの開始を告げる声ではない。

まるで、これからプレイヤーたちが争い、苦しむ姿を観察しようとしているような響きだった。

ユースケの背筋に冷たいものが走る。

次の瞬間、4つの紋章と光球が消えた。

同時に、視界が暗転した。



再び光が戻る。

ユースケは石畳の上に立っていた。

拘束は解かれている。

すぐに周囲を見回した。

見慣れない石造りの建物が並び、道の中央には大きな時計塔が見える。

先ほどまで、周囲は人で埋め尽くされていた。

しかし、今いる街にそれほど多くの人はいない。

それでも、あちこちから混乱した声が聞こえてくる。


「ログアウトできないって本当かよ…」

「運営に連絡する方法は?」

「これからどうすればいいんだよ」

その場に座り込む者。

何度もメニューを開こうとする者。

知り合いの名前を叫びながら走り回る者。


ユースケも人波へ目を凝らした。

タケシ。

サクラ。

マユ。

3人の姿はない。

同じ玄武大陸を選んだはずなのに、どこにも見当たらなかった。

その時、目の前に小さな表示が浮かび上がる。


【所属大陸:玄武】

【現在地:第27始まりの街】


「第27…?」

ユースケは表示を見つめる。

第27ということは、始まりの街はここだけではない。

周囲にいる人数も、玄武大陸の定員である10,000人には到底届かなかった。

「別々の街に分けられたのかもしれないな」

まだ断定はできない。

だが、3人が見当たらない理由としては十分に考えられる。

胸の奥に不安が広がる。

すぐに探しに行きたい。

しかし、どこへ向かえばいいのかさえ分からない。


ユースケはゆっくりと息を吸い、震えそうになる指を握った。

落ち着け。

今は、分かることから確認するしかない。

この街がどんな場所なのか。

連絡する方法はあるのか。

他の始まりの街へ移動できるのか。

そして、3人がどこにいるのか。


街の中心には、大きな建物や人の集まっている広場が見えた。

「まずは情報を集めよう」

何も分からないまま動くより、必要な情報を揃えた方がいい。


ユースケはもう1度、周囲に3人の姿がないことを確認する。

「必ず合流しよう」

自分に言い聞かせるように呟き、街の中心へ向かって歩き出した。


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