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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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午前0時

第1章 始まりの街


「だから言ったじゃん。青龍が1番人気になるって」

高校時代から何度も通ったファミレスで、田中桜が得意げにスマートフォンを掲げた。

「いや、朱雀だろ」

向かいに座る山本剛が即座に返す。

「絶対青龍だって」

「理由は?」

「格好いいから」

「理由になってない」

「なってるよ」


2人のやり取りを見て、佐藤真由が口元を緩めた。

「まだ受付前なんだから分からないよ」

その一言で、言い争いがひとまず止まる。


亀山遊助はコップの水を飲みながら、3人の顔を見回した。

高校時代から変わらない光景だった。

大学1年の夏休み。

高校卒業後はそれぞれ別の大学へ進学したが、今でもこうして定期的に集まっている。


今日の話題は、午前0時に登録受付が始まる新作フルダイブMMORPG、FKO。


青龍、朱雀、白虎、玄武。


4つの大陸から所属先を選び、各大陸10,000人

まで参加できる。

「じゃあ最後に確認ね。4人とも玄武でいいかな?」


遊助が尋ねると、真由が頷いた。

「私はいいよ」

「私もー」

桜も迷いなく手を挙げる。

剛は少し呆れたように肩をすくめた。

「どうせ遊助が玄武にしたいだけだろ」

「せっかく4人で始めるんだよ。最初から別々の大陸じゃ面白くないじゃん」


「それもあるけど、亀だからでしょ?」

桜が横から口を挟む。

遊助が高校時代に作ったギルドの名前は『タートルズ』。


由来は単純だった。

亀山遊助の亀。

それだけである。

「玄武も亀だもんね」

「正確には亀と蛇だね」

「蛇?」

真由が首を傾げる。


「四神の玄武は、亀に蛇が巻き付いた姿で描かれることが多いみたいだよ」

「相変わらず詳しいな」

剛が感心するでもなく言った。

「ゲームで覚えた」

「お前らしい」

「でも、結局は亀じゃん」

桜が勝ち誇ったように言う。

「まあ、否定はしないよ」

遊助は素直に認めた。


話しているうちに、時刻は21時を回っていた。

剛がスマートフォンを確認し、席を立つ。

「そろそろ帰るか」

「0時に遅れるなよ」

「それ、剛が言う?」


桜がすぐに突っ込んだ。

「毎回、集合ギリギリなのに」

「朝が弱いだけだ」

「ギリギリなのは否定しないんだね」

真由にまで言われ、剛が頭をかいた。

「お前らな」

見慣れたやり取りに、遊助の頬も緩む。


「そういえば、ゲームが始まったらどうする?」

真由が思い出したように尋ねた。

「どうするって?」

「合流の予定」

桜と剛も遊助へ視線を向ける。

遊助は少し考えてから口を開いた。


「開始直後は、無理に集まらなくてもいいかな」

「まずは全員、チュートリアルを終わらせる?」

「うん。その後で、明日の昼に1回合流しよう」

「場所は?」

「ゲーム内で確認してから決めようか。困ったことがあったらチャットで連絡」


「おけまる」

桜が親指を立てる。

「異議なし」

剛も短く答えた。

真由は3人の顔を順番に見てから頷く。

「じゃあ決まりだね」

そこで、真由が遊助へ顔を向けた。


「でも遊助」

「ん?」

「徹夜は駄目だからね」

「…分かってるって」

「絶対分かってない」

桜が間髪を入れずに突っ込む。

剛も無言で頷いた。

「お前、新しいゲームを始めると寝ないじゃん」

「高校の時も、それで授業中に寝てただろ」

「明日は日曜日だし、今は大学生だよ」

「そういう問題じゃないよ」

真由がじっと遊助を見る。


「ちゃんと寝ること」

「はいはい」

軽く返事をすると、3人から揃って疑うような目を向けられた。

高校時代から何度も繰り返してきたやり取り。

きっと、これからも変わらない。

その時は、誰もがそう思っていた。



23時55分。

遊助は自室のベッドに横になり、フルダイブ機器の状態を確認していた。

通信状況、問題なし。

機器、異常なし。

登録用の端末も接続されている。

準備はすべて終わっていた。


枕元のスマートフォンには、4人のグループチャットが表示されている。


『みんな準備できた?』

真由からのメッセージ。

『問題なし』

遊助が返信する。

『当然』

剛。

『もっちろん』

桜。


高校時代から一緒にゲームを遊んできた仲間たち。

今回も4人で、同じ世界へ飛び込む。


『あと5秒』

剛から新しいメッセージが届いた。

遊助はスマートフォンの時計を確認する。

本当に、あと5秒だった。


5。

4。

3。

2。

1。


午前0時。

登録受付開始。

遊助はすぐに端末を操作した。

大陸選択画面が表示される。


青龍。

朱雀。

白虎。

玄武。


4つの大陸名が並んでいた。

遊助は迷わず玄武を選択する。


【玄武大陸への参加登録が完了しました】


ほどなくして、グループチャットに通知が並んだ。


『玄武登録完了』

剛。

『私も登録できたよ』

真由。

『玄武入りまーす』

桜。

『こっちも完了』

遊助。


どうやら4人とも、無事に登録できたらしい。

遊助は小さく息を吐く。

「よし。全員入れたね」

端末に新たなウィンドウが表示された。


【ダイブを開始しますか?】


遊助は枕元へスマートフォンを置き、フルダイブ機器を装着する。

明日の昼には、4人で合流する。

それまでは、それぞれ自由にゲームを楽しめばいい。


そう考えながら、遊助は【YES】を選択した。

視界が白く染まる。

身体の感覚が少しずつ遠ざかっていく。

4万人が参加する新しい世界。


どんな敵がいるのか。

どんな成長が待っているのか。

考えるだけで、自然と胸が高鳴った。


明日の昼には、また4人で笑いながら攻略の話をしている。

その約束が果たせなくなることなど、誰も想像していなかった。


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