死の淵から…
始まりの街へ戻った3人は、宿の食堂で夕食を囲んでいた。
「ホブゴブリン倒せた時、嬉しかった!」
シオリが笑顔でスープを口へ運ぶ。
「シオリの追撃、良かったよ」
「ほんと!?」
ぱっと表情が明るくなる。
「うん」
「シールドバッシュに、ばっちりファイアを合わせてくれたからね」
「えへへ」
シオリが照れたように笑う。
「ヒナのウィンドも効いてたし、ヒールのおかげで安心して前に出られたよ」
「ありがとうございます」
ヒナも少し嬉しそうに微笑んだ。
しばらく食事を続けたところで、ユースケが口を開く。
「あの洞窟だけど…」
2人が顔を上げる。
「今の3人だと、奥まで進むのは少し厳しいかもしれないね」
「うん…」
シオリも真面目な表情になる。
「毎回、あの距離から先制できるとも限りませんしね」
ヒナの言葉に、ユースケも頷く。
今回は入口が近く、全員のMPも満タンだった。
それでも、1戦だけでかなり消耗した。
同じような戦闘が続けば、途中で回復が追いつかなくなる可能性もある。
「そうだ!」
シオリが顔を上げた。
「冒険者ギルドで臨時パーティーを募集してみない?」
「臨時パーティーか」
「人数が増えれば、もう少し安全に進めそうですね」
ヒナも頷く。
ユースケは少し考えてから答えた。
「そうだね」
「臨時募集はまだ使ったことないし、試してみようか」
「決まり!」
「では、明日は冒険者ギルドからですね」
「うん」
明日の方針も決まり、3人は残りの夕食をゆっくりと味わった。
◇
食事を終え、宿の前で別れる。
「それじゃ、おやすみ!」
「おやすみなさい」
「また明日」
シオリとヒナを見送る。
ユースケも宿へ――。
戻ろうとして、足を止めた。
今日買ったヒール。
まだ自分では1度も使っていない。
「…少しだけ確認しておこう」
そのまま踵を返し、街の門へ向かった。
◇
夜の旅立ちの草原は、昼間よりも静かだった。
街からそれほど離れていない場所で、ブルースライムがゆっくりと跳ねている。
今晩は恒例のゴーゴートレインが目的ではない。
確認したいのはヒールだ。
「まずは1匹でいいかな」
ブルースライムを1匹だけ引きつける。
アイアンソードも抜かない。
だが、いつでも避けられるように相手の動きは見ておく。
スライムが身体をぶつけてきた。
軽い衝撃が身体へ伝わる。
HPを確認する。
まだ十分に余裕がある。
もう1度だけ攻撃を受けたところで、距離を取った。
「このくらいでいいかな」
杖を使わず、そのまま魔法を発動する。
「ヒール」
柔らかな光が身体を包み、減っていたHPが戻っていく。
「ちゃんと使えるね」
回復量はヒナほど高くない。
盗賊の回復魔法適性は70%。
それでも、自分で回復できる手段があるのは大きい。
そこで、もう1つ気になることが浮かんだ。
以前、実戦でダメージを受けた後にHPが成長したことがある。
ならば、ダメージを受けてヒールで回復する。
この一連の行動を繰り返した場合、どうなるのか。
「試す価値はあるかな」
ただし、危険を冒すつもりはない。
相手はブルースライム1匹。
街の門もすぐ近くだ。
HPにも十分な余裕を残し、減りすぎる前に必ずヒールを使う。
ユースケは再びスライムの攻撃を受けた。
少しHPが減ったところで距離を取る。
「ヒール」
回復。
もう1度攻撃を受ける。
距離を取って、またヒール。
何度か繰り返したところで、通知が表示された。
【INTが1上昇しました】
「おっ」
狙っていたHPではない。
だが、ヒールを使い続けたことでINTが伸びた可能性は高そうだ。
「これはこれで収穫だね」
MPが少なくなったところで、ブルースライムを倒す。
そのまま街へ戻ることはせず、近くの岩へ腰を下ろした。
MPが自然回復するのを待ち、十分に戻ったところで立ち上がる。
そして、また別のブルースライムを1匹だけ引きつけた。
攻撃を受ける。
ヒールで回復する。
MPが減れば休む。
回復したら、また繰り返す。
「HPはまだ変化なしか」
何度目かの休憩を挟んだ頃――。
【MPが1上昇しました】
「MPも来たか」
魔法を繰り返し使った影響だろう。
それでも、ユースケは検証を終えなかった。
ここまでやったなら、もう少し確かめたい。
新しいスライムを引きつけては、余裕を持って攻撃を受ける。
ヒールを使い、MPが減れば休憩する。
何度同じことを繰り返しただろう。
最初は数回だけ試すつもりだった。
それがいつの間にか、攻撃を受ける回数やヒールの使用回数まで頭の中で数え始めている。
「こうなると、どこまでやったら変化するのかも気になるな…」
さらに検証を続ける。
それでもHPは上がらない。
そして――。
【INTが1上昇しました】
「なっ、またINTか…」
これでINTは今晩だけで2上がった。
MPも1伸びている。
それだけ魔法を繰り返し使ったということだ。
一方で、HPには一度も変化がない。
ユースケはブルースライムを倒し、近くの岩へ腰を下ろした。
「ここまでやって上がらないなら…」
以前、ウルフとの戦闘中に被弾した時はHPが伸びた。
だが今回は、いつ攻撃を受けるか分かった状態で、危険のない相手からわざと攻撃を受けている。
同じダメージでも、状況が違う。
「わざと攻撃を受けるだけじゃ、駄目なのかもしれないな」
もちろん、まだ断定はできない。
だが、少なくとも簡単ではなさそうだ。
「まあ、これでHPまで上がるなら…」
安全なブルースライムを相手に、攻撃を受けて回復するだけ。
それを繰り返せば、誰でもHPを伸ばせることになる。
「さすがに、そんな都合よくはいかないか」
少し考えて、苦笑する。
「死の淵から復活したら戦闘力が上がる…なんて世界でもなさそうだね」
もっとも、今やっていることは死の淵どころか、かなり安全な検証だ。
HPは伸びなかった。
その代わり、ヒールを使い続けたことでINTが2、MPが1伸びた。
「これも情報だね」
今後、実際の戦闘でダメージを受けた時にもう1度確認すればいい。
ユースケは立ち上がると、何気なく時刻を確認した。
「…2時?」
思わず二度見する。
「少しだけのつもりだったんだけどな…」
どうやら検証を始めると、時間の感覚まで鈍くなるらしい。
「さすがに今日は寝よう」
始まりの街へ戻りながら、最後に現在のステータスを開く。
【名前】ユースケ
【職業】盗賊
【レベル】17
【HP】52+3
【MP】40+5
【STR】18+5
【VIT】17+4
【AGI】21+4
【DEX】21+5
【INT】17+3
【LUK】18+1
【武器熟練度】
片手剣:Lv5
盾:Lv4
弓:Lv2
【習得スキル】
■盗賊固有スキル
【瞬足】
消費MP:0
移動速度が上昇する。
【クイックステップ】
消費MP:3
素早く後方へ飛び退き、敵との距離を取る。
■片手剣スキル
【スラッシュ】
消費MP:3
強力な斬撃を放つ。
【ワイドスラッシュ】
消費MP:6
前方広範囲へ斬撃を放つ。
【片手剣適性アップ】
パッシブ
片手剣の武器適性が10%上昇する。
【アーマーブレイク】
消費MP:5
強力な一撃を放ち、一定時間、敵の物理防御力と魔法防御力を低下させる。
■盾スキル
【シールドバッシュ】
消費MP:2
盾で相手を強く打ち付け、吹き飛ばす。
【シールドノック】
消費MP:3
盾を打ち鳴らし、周囲の敵の注意を自分へ向ける。
【盾適性アップ】
パッシブ
盾の武器適性が10%上昇する。
■弓スキル
【パワーショット】
消費MP:3
威力の高い矢を放つ。
【武器適性】
短剣:120%
片手剣:110%(100%+10%)
両手剣:80%
槍:100%
斧:90%
弓:110%
杖:90%
鈍器:90%
ナックル:110%
盾:100%(90%+10%)
【魔法適性】
攻撃魔法:90%
回復魔法:70%
【装備】
武器:アイアンソード(ATK+10)
盾:アイアンシールド(DEF+10)
頭:ブロンズヘルム(DEF+2)
胴:アイアンアーマー(DEF+12)
腕:ブロンズガントレット(DEF+3)
足:ブロンズグリーブ(DEF+3)
装飾品①:安らぎの指輪
効果:横臥時のHP・MP自然回復速度上昇(小)
装飾品②:なし
「うん」
「少しずつだけど、ちゃんと伸びてるね」
ヘルパーを閉じる。
明日は臨時パーティーを募集して、旅立ちの洞窟へ挑む。
今度は3人ではない。
どんな相手と組むことになるのか。
そんなことを考えながら、ユースケは宿へ戻っていった。




