大切な仲間
翌朝。
宿の食堂へ向かうと、シオリとヒナが先に席へ着いていた。
「おはよっ!」
「おはようございます」
「おはよう」
3人は朝食を受け取り、向かい合って席へ座る。
食事を始めてしばらくした頃、ユースケは昨夜手に入れた指輪を取り出した。
「そうだ 昨日こんなのが出たよ」
「指輪?」
シオリが興味津々に覗き込む。
「ブルースライムから出たんだ」
【安らぎの指輪】
装飾品
効果:横臥時のHP・MP自然回復速度上昇(小)
「装飾品ですか?」
「うん しかもレアドロップらしいよ」
「レアドロップ?」
シオリが興味深そうに指輪を覗き込む。
「ブルースライムから0.02%だって」
「0.02%!?」
シオリが思わず声を上げた。
「約5,000匹に1個じゃん!」
ヒナも驚いたように目を丸くする。
「そんなに低い確率なんですね…」
「狙って出すものじゃないね」
ユースケは苦笑した。
「今回は運が良かったよ」
「いいなぁ 私も欲しい!」
「そのうち出るかもね」
「5,000匹倒せば?」
「それでも出るとは限らないけどね」
「えぇ…」
3人は顔を見合わせて笑った。
◇
朝食を食べ終える頃、ヒナがふとユースケの顔を見つめた。
「ユースケさん」
「ん?」
「少し眠そうですが 大丈夫ですか?」
ユースケは一瞬だけ言葉に詰まる。
「そうかな?」
「はい 少しだけですけど」
シオリも顔を覗き込んできた。
「昨日また遅くまで起きてた?」
「…新しく覚えたスキルが気になってね」
「ちょっと試してた」
「ちょっとだけですか?」
ヒナがじっと見つめる。
「…まあ それなりに」
視線を逸らすと、ヒナが小さくため息をついた。
「無理はしないでくださいね」
「ちゃんと休むことも大切です」
「うん」
「昔からよく言われてるんだ」
「そうなんですか?」
「俺 このゲームには友達と4人で参加したんだ」
「えっ?」
シオリとヒナが同時にこちらを見る。
「タケシは幼馴染で サクラとマユは高校からの友達」
「みんな玄武大陸にいるはずなんだけど まだ会えてないんだ」
シオリの表情が少し曇る。
「そうだったんだ…」
「その中でもマユには 徹夜するなってよく怒られてたな」
口にした瞬間、懐かしい光景が浮かんだ。
いつものファミレス。
向かいに座る3人。
「ユースケ また寝てないだろ」
タケシが呆れたようにこちらを見る。
「イベントが今日までだから仕方ないよ」
「だからって徹夜はダメだよ」
マユが眉を寄せる。
「体調崩したら元も子もないんだから」
「そうそう」
「また授業で寝るつもり?」
サクラまで笑いながら乗っかってくる。
そんなことで言い合って。
どうでもいい話をして。
4人で笑っていた。
あの頃は、それが当たり前だった。
今は、3人がどこにいるのかさえ分からない。
「……」
不意に目元が熱くなった。
ユースケは誤魔化すように水へ手を伸ばす。
シオリもヒナも、何も聞かなかった。
ただ、ヒナがそっと水の入ったコップを近くへ寄せてくれる。
「ありがとう」
一口飲んでから、ユースケは小さく息を吐いた。
「…また4人で会いたいな」
無事でいてほしい。
もう1度、4人でくだらない話をして笑いたい。
今はそれしかできない。
「よし」
気持ちを切り替え、ユースケは2人を見る。
「今日はまず装備を更新しようか」
「うん!」
「はい」
◇
冒険者ギルドへ向かい、昨日までに集めた素材をまとめて換金した。
【所持金 109,480G】
「結構貯まったね」
「やっぱり昨日かなり狩ってたんじゃ…」
ヒナがこちらを見る。
「さて 防具屋に行こうか」
「誤魔化した!」
シオリの声を背中で聞きながら、ユースケは防具屋へ向かった。
◇
「いらっしゃいませ」
店内には、見慣れた防具が並んでいる。
ユースケは迷わず店員へ声を掛けた。
「アイアンアーマーとアイアンシールドをお願いします」
「かしこまりました」
【アイアンアーマーを購入しました】
【アイアンシールドを購入しました】
【85,000Gを支払いました】
【所持金 24,480G】
「えっ!? アイアンシリーズ!?」
シオリが目を丸くする。
「そんなにお金あったの?」
「昨日だけじゃなくて 今まで貯めてた分もあるからね」
ヒナがじっとユースケを見る。
「夜の分も含まれていそうですね」
「…否定はしないよ」
2人も相談しながら、ブロンズ防具を買い揃えていく。
装備を変更すると、それぞれの職業に合わせた外見へ変化した。
シオリが嬉しそうに身体を動かす。
「おおー! なんか強くなった気分!」
ヒナも装備の感触を確かめながら微笑んだ。
ユースケは新しいアイアンシールドを軽く叩く。
「これなら昨日より安心して前に出られそうだね」
◇
続いて3人は魔法屋へ向かった。
棚には色とりどりの魔法書が並んでいる。
ユースケは回復魔法の棚で足を止めた。
「俺はヒールを買おうかな」
「ユースケさんも?」
ヒナが少し驚く。
「うん ちょっと試したいことがあってね」
詳しい理由はまだ言わないでおく。
するとシオリもヒールの魔法書を手に取った。
「私もヒール覚える!」
一方、ヒナは攻撃魔法の棚を眺めている。
「私はウィンドにします」
「ヒナは攻撃魔法か」
「いいと思うよ」
「はい 回復だけではできることが限られてしまいますから」
それぞれ魔法書を購入する。
ユースケがヘルパーへ念じると、魔法書が淡い光となって消えた。
【ヒールを習得しました】
シオリもヒールを習得し、ヒナはウィンドを覚える。
「魔術師なのにヒールって ちょっと変な感じするね」
シオリが自分の杖を見ながら笑う。
「でも全職業で魔法は使えるからね」
「どれくらい回復できるかは試してみないと分からないけど」
「それも検証だね!」
「そういうこと」
ユースケは自分の所持金を確認した。
【所持金 4,480G】
「…また減ったな」
防具とヒールで、かなり使った。
だが、生き残るための出費なら惜しくない。
「また稼がないとな」
小さく呟いてから、ユースケはヘルパーを閉じた。
◇
装備を更新した3人は、そのまま旅立ちの森へ向かった。
ユースケの防御力は上がり、シオリもヒールを覚えたことで回復役が2人になった。
そして――。
「ウィンド!」
ヒナの杖から放たれた風の刃がウルフを切り裂く。
ウルフは光の粒となって消えた。
「おお 結構強いね」
「はい 思っていたより使いやすいです」
ヒナも少し嬉しそうに杖を見つめる。
「これなら私も攻撃に参加できますね」
「回復に余裕がある時なら頼りになりそうだね」
「はい」
その後も3人は、役割を入れ替えながら狩りを続けた。
シオリがファイアで攻撃する。
ヒナがヒールとウィンドを使い分ける。
ユースケは前でウルフを受け止めながら、片手剣を振るい続けた。
夕方が近づいた頃――。
ピコン♪
【レベルが17に上昇しました】
【VITが1上昇しました】
【MPが1上昇しました】
「順調だね」
さらに通知が続く。
【片手剣熟練度がLv5になりました】
【アーマーブレイクを習得しました】
「よし ピコーンだ」
ユースケが思わず声を上げる。
「ピコーン?」
シオリが首を傾げた。
「何ですか それ?」
ヒナも不思議そうに尋ねる。
「えーとね スキルを覚えた時 なんとなく言いたくなるんだ」
「えぇ…」
シオリが苦笑する。
ユースケは新しいスキルを確認する。
【アーマーブレイク】
消費MP:5
強力な一撃を放ち、一定時間、敵の物理防御力と魔法防御力を低下させる。
「防御力低下か」
物理だけでなく、魔法防御力も下げられる。
シオリやヒナと一緒に戦う今なら、かなり使い道がありそうだ。
「試してみる?」
シオリが楽しそうに尋ねる。
「もちろん」
ちょうど近くにウルフがいる。
ユースケはアイアンソードを構え、駆け出した。
「アーマーブレイク!」
淡く光った片手剣が、ウルフの身体を深く切り裂く。
次の瞬間。
ウルフはそのまま光の粒となって消えた。
「……」
ユースケは剣を振り抜いた姿勢のまま止まる。
「倒しちゃったね」
シオリが笑う。
「これじゃ防御力が下がったか分からないな」
「もっと強い相手で試すしかなさそうですね」
ヒナの言葉に、ユースケも頷いた。
「そうだね」
「その時までお預けかな」
◇
その後も狩りを続け、シオリとヒナもLv14へ到達した。
「あと1レベルで新しい職業スキルかな!」
シオリが嬉しそうに言う。
「ユースケさんと同じなら Lv15ですね」
「たぶんね」
「楽しみだね」
さらに、ユースケにも新しい通知が表示された。
【盾熟練度がLv4になりました】
【盾適性が10%上昇しました】
「よしよし またピコーンきたよ」
「またピコーン言ってる…」
シオリが呆れたように笑う。
「もう癖なんですね」
ヒナもくすっと笑った。
ユースケはアイアンシールドを構え直す。
盾適性もこれで100%。
防具を更新したこともあり、前衛としての安定感は昨日より明らかに増していた。
その時だった。
「…あれ?」
ヒナが森の奥を指差した。
「どうしたの?」
3人が同じ方向を見る。
木々の先に、これまで見えなかった大きな空間が開けていた。
そして、その向こう。
岩肌にぽっかりと開いた、巨大な洞窟の入口が見える。
「洞窟…?」
シオリが目を丸くする。
ユースケも目を細めた。
「旅立ちの森を抜けると 次はあそこか」
ヒナが洞窟を見つめる。
「行ってみますか?」
ユースケは西へ傾き始めた空を見上げた。
もう夕方だ。
「入口までにしよう」
「中を調べるのは明日だね」
「賛成!」
「無理は禁物ですね」
3人は並んで、洞窟の入口へ向かう。
その奥には、外からでは何も見えない暗闇が広がっていた。
ユースケはしばらくその暗闇を見つめる。
「次は あそこだね」
新しい場所。
新しいモンスター。
そして、まだ知らない何か。
明日の目的地が決まった。
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