予想外の収穫
始まりの街へ戻ると、シオリとヒナとはそこで別れた。
宿に着いたユースケは、さっそくステータスを開く。
【名前】ユースケ
【職業】盗賊
【レベル】16
【HP】50+3
【MP】37+3
【STR】17+5
【VIT】17+3
【AGI】20+3
【DEX】20+4
【INT】17+1
【LUK】17+1
【武器熟練度】
片手剣:Lv4
盾:Lv3
弓:Lv2
今日の戦闘では、HP、STR、VITがそれぞれ1伸びていた。
そして、気になるものがもう1つある。
Lv15になった時に習得した、盗賊の新しい固有スキルだ。
【クイックステップ】
消費MP:3
素早く後方へ飛び退き、敵との距離を取る。
「回避用のスキルかな」
Lv10では瞬足。
そしてLv15ではクイックステップ。
少なくとも今のところ、盗賊の固有スキルは5レベル刻みで習得している。
ユースケはクイックステップの説明を見つめた。
どれくらい飛び退けるのか。
発動はどれくらい速いのか。
連続で使えるのか。
実戦で攻撃を避けられるのか。
気になることが次々と浮かんでくる。
明日も朝からシオリたちと狩りをする予定だ。
本当なら、今日はこのまま休んだ方がいい。
けれど――。
「…これは試さずには寝られないな」
ユースケは立ち上がった。
◇
再び旅立ちの草原へ向かう。
夜風が心地いい。
この時間になると、他のプレイヤーの姿もほとんど見当たらなかった。
「まずは安全な相手で確認しよう」
ブルースライムを1匹だけ弓で釣る。
ゆっくりと近付いてくるスライムを見据え、十分に引きつけた。
「クイックステップ!」
その瞬間、身体が後ろへ弾かれるように動いた。
気付けば、スライムとの距離が大きく開いている。
「おお…」
体感では3メートルほど。
着地も安定していて、ほとんど体勢を崩していない。
「これは使えそうだね」
すぐにもう1度試す。
「クイックステップ!」
――発動しない。
「なるほど」
「連発はできないのか」
少し待ってから、もう1度。
「クイックステップ!」
今度は問題なく発動した。
「再使用まで少し間があるみたいだね」
それでも、危険な場面でいったん距離を取れるだけでも十分使えそうだ。
何度か繰り返し、飛び退く距離や発動の感覚を確かめていく。
「よし」
「草原で試せるのはこのくらいかな」
ひと通り確認を終える。
そこで帰ればいいのだが――。
ユースケは旅立ちの森がある方角へ目を向けた。
「実戦でも試しておきたいな」
結局、そのまま森へ向かった。
◇
いつものように、アイアンボウでウルフを1匹だけ釣る。
すぐにアイアンソードへ持ち替えた。
ウルフが地面を蹴る。
牙が迫った瞬間――。
「クイックステップ!」
身体が後ろへ飛ぶ。
ウルフの牙が、ついさっきまでユースケがいた場所を噛み締めた。
「いいね」
着地と同時に踏み込み、アイアンソードを振るう。
斬撃を受けたウルフがよろめく。
「実戦でも十分使えそうだ」
瞬足が移動そのものを補助するスキルなら、クイックステップは敵の攻撃から距離を取るためのスキル。
同じ移動系でも、使い方はかなり違う。
その後も狩りを続けた。
弓で釣る。
片手剣へ持ち替える。
通常の回避とクイックステップを使い分けながら、ウルフを倒していく。
途中、2匹がリンクする場面もあった。
1匹の攻撃をかわし、もう1匹が迫ったところでクイックステップ。
距離を作り直してから、落ち着いて各個撃破する。
「2匹なら問題なさそうだね」
もちろん、数が増えても同じように動けるとは限らない。
それでも、新しい選択肢が増えたのは大きかった。
狩りを続けていると、ヘルパーが表示される。
【DEXが1上昇しました】
さらにしばらくして――。
【AGIが1上昇しました】
「今晩も順調だね」
弓を使い、攻撃をかわしながら戦い続けた結果だろう。
片手剣の熟練度も、少しずつ上がっている。
「そろそろLv5も見えてくるかな」
次に何を覚えるのか。
それも楽しみだった。
ふと時刻を確認する。
「…もう1時か」
さすがに明日のことを考えると、この辺りで切り上げた方がいい。
「今日はこのくらいで許してやるか」
誰に言うでもなく呟き、ユースケは旅立ちの森を後にした。
◇
旅立ちの草原へ戻る。
あとは街へ帰るだけだ。
だが、ユースケのMPにはまだ余裕が残っていた。
「…最後に使い切って帰ろう」
恒例のゴーゴートレインだ。
ブルースライムを次々と引き連れ、誰もいない夜の草原を走る。
十分な数が集まったところで振り返る。
「ワイドスラッシュ!」
横薙ぎの斬撃が、まとめてスライムを飲み込んだ。
次々と光の粒へ変わっていく。
場所を移し、もう1度。
さらにもう1度。
MPが残りわずかになった頃、最後のブルースライムが光となって消えた。
その直後だった。
ピコン♪
【安らぎの指輪を獲得しました】
「…ん?」
聞き慣れないアイテム名に、ユースケは足を止めた。
すぐに詳細を開く。
【安らぎの指輪】
装飾品
効果:横臥時のHP・MP自然回復速度上昇(小)
「装飾品?」
武器でも防具でもない。
今まで手に入れたことのない種類のアイテムだった。
ユースケはそのままヘルパーへ問いかける。
(装飾品)
【装飾品は2つまで装備できます】
【主にモンスターのレアドロップや宝箱などから入手できます】
【始まりの街では販売されていません】
「レアドロップか」
続けて、安らぎの指輪について確認する。
(安らぎの指輪のドロップ率)
【ブルースライムから0.02%の確率でドロップします】
「0.02%…」
頭の中で数字を計算する。
「単純計算で5,000体に1つか」
思わず口元が緩んだ。
「狙って手に入れるものじゃないな」
改めて指輪を見る。
「横臥時か」
草原で自然回復を調べた時、横になれば座っている時より回復が速くなることは確認している。
この指輪は、その横臥時の回復速度をさらに高めてくれるらしい。
「戦闘向きではないけど…」
休憩時間を短くできるなら、ユースケには十分魅力的な効果だった。
夜まで狩りをすることの多い自分には、むしろ相性がいい。
「…これは俺向きかもしれないな」
ユースケはさっそく安らぎの指輪を装備した。
クイックステップの検証。
AGIとDEXの上昇。
そして、思いがけないレアドロップ。
「今日は本当に大収穫だね」
満足しながら、今度こそ始まりの街へ戻っていった。




