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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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渡り人ディナー

夕暮れ。


約束していた冒険者ギルド前で、ユースケは2人と合流した。


「ユースケさん!」


シオリが元気よく手を振る。

ヒナも隣で小さく会釈した。


「2人とも、転職おめでとう」

「ありがとうございます!」


その時だった。

ピコン♪


【シオリからトレード申請が届きました】


「?」

ユースケが承認すると、表示が切り替わる。


【3,000Gを受け取りますか?】


「これ…」

「宿代!」

シオリが笑顔で頷いた。

「ちゃんと返すって決めてたから!」

続けて、もう1度通知が鳴る。


【ヒナからトレード申請が届きました】


承認する。


【3,000Gを受け取りますか?】


「私の分です」

ヒナが微笑む。

「本当に助かりました。でも、お借りしたものは返したいんです」


「いや、気にしなくていいのに」

ユースケが苦笑すると、シオリが頬を膨らませた。


「ダメ!」

「受け取ってくれないと、私たちが困るもん!」

ヒナも静かに頷く。


「借りたままでは、私たちも落ち着きません」

「受け取ってください」

2人とも譲る気はないらしい。


「…分かった」

ユースケは承認した。


【3,000Gを受け取りました】

【3,000Gを受け取りました】


「これで貸し借りなしだね!」

シオリが満足そうに笑う。


「じゃあ、その代わり」

「え?」

「今日は俺が奢るよ」

シオリが目を丸くした。

「えぇっ!? 今返したばっかりなのに!」


「転職祝いだからね」

「今日は遠慮しないで」

ユースケは2人へ笑いかける。


「改めて、転職おめでとう」

シオリとヒナは顔を見合わせた。

「…じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

「ありがとうございます」



3人は、始まりの街では少し高級なレストランへ入った。

席に着くと、ほどなく料理が運ばれてくる。


【渡り人ディナー 2,500G】

【7,500Gを支払いました】


「また財布が軽くなったな…」

ユースケが呟くと、シオリが笑った。

「さっき返したばっかりなのに!」

「まあ、今日はいいよ」


テーブルには、普段の食事とは比べものにならないほど豪華な料理が並んでいる。


「すごい…!」

シオリが目を輝かせる。

ヒナも料理を眺めながら、小さく笑った。

「美味しそうですね」


「せっかくだし、今日は遠慮しなくていいよ」

3人で食事を始める。

その直後だった。

ピコン♪


【渡り人ディナーを初めて食べました】

【初回限定ボーナスが適用されます】


【HPが1上昇しました】

【MPが1上昇しました】

【STRが1上昇しました】

【VITが1上昇しました】

【AGIが1上昇しました】

【DEXが1上昇しました】

【INTが1上昇しました】

【LUKが1上昇しました】


「…え?」

ユースケの手が止まった。


「どうしたんですか?」

ヒナが不思議そうに尋ねる。


「今、食事をしたら全ステータスが上がった」

「えっ!? ご飯食べただけで!?」


シオリも慌ててヘルパーを確認する。

「ほんとだ! 私も上がってる!」


「私にも表示されています」

ヒナも驚いたように画面を見つめていた。


「なるほど…」

ユースケは表示を確認する。

「初回限定ってことは、この料理を初めて食べた時だけみたいだな」


「じゃあ、もう1回食べても強くならないんだ?」

「たぶんね」

「残念…」

シオリが肩を落とす。


「そこは残念なんだ」

思わずユースケが笑う。

ヒナもくすりと笑った。

「でも、転職祝いで食べられてよかったですね」


「そうだね」

ユースケはグラスを手に取った。

「じゃあ、改めて」

「2人とも、転職おめでとう」


「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


3人のグラスが、軽く音を立てて重なった。

食事を楽しんでいると、自然と転職の話になった。


「そういえば、シオリは魔術師で、ヒナは僧侶なんだよね」


「うん! 私は魔術師!」

シオリが嬉しそうに頷く。


「転職のお祝いでアイアンスタッフをもらって、魔法はファイアにしたよ!」


「私は僧侶です」

ヒナも続ける。

「私もアイアンスタッフを選んで、ヒールを覚えました」


「なるほど」

ユースケは頷く。

そして、2人を交互に見た。

「…ってことは」


少し間を置く。

「後衛が2人か」

「そうなの!」

シオリが吹き出した。


「転職したあと、2人で同じこと言って笑っちゃった!」

ヒナも少し照れたように微笑む。


「でも、ユースケさんがパーティーを組もうと言ってくださったので」

「それで、2人とも好きな職業を選んだんだ?」


「はい」

ヒナが頷く。


そして、少しだけ悪戯っぽく笑った。

「なので、ちゃんと責任取ってくださいね?」


「責任か…」

ユースケも笑う。


「前は任せて。危なそうならすぐ逃げるけどね」

「そこは逃げるんだ!?」

「死んだら終わりだからね」

「それはそう!」


シオリが笑い、ヒナも口元を緩めた。

3人はそのまま、しばらく他愛のない話を続けた。

だが――。


ふと、ヒナがユースケを見る。


「ユースケさん」

「ん?」

「今日は少し、元気がないように見えます」


ユースケは箸を止めた。

「…分かる?」


「はい」

ヒナが静かに頷く。


ユースケは少し迷った。

けれど、この2人には話しておこうと思った。


「今日…」

ゆっくりと口を開く。


「目の前で、人が死んだ」

シオリの表情から笑顔が消えた。


店内の喧騒が、急に遠くなったように感じる。

ユースケは旅立ちの森で起きたことを、静かに話し始めた。



ウルフが何匹もリンクしたこと。

助けを求める声が聞こえたこと。

瞬足で駆けつけたこと。


それでも、ナオヤには間に合わなかったこと。

そして、サトルとランのこと。

2人は途中で口を挟まず、最後まで聞いていた。


やがて、シオリが小さく息を吐く。

「そんなことが…」


ヒナは胸の前で手を握っていた。

「辛かったですね」

「…うん」

ユースケは少しだけ視線を落とした。


「分かってたつもりだったんだけどね」

「この世界では、本当に人が死ぬんだって」


言葉にすると、改めて重く感じる。

「次に同じようなことがあったら、今度は間に合わせたい」


しばらく沈黙が流れた。


その空気を変えるように、シオリが顔を上げる。

「じゃあさ!」

いつもの明るい声だった。

「明日は3人で行こ!」


ユースケが顔を上げる。

「1人より3人の方が、できることも増えるでしょ?」

シオリなりに考えて出した言葉なのだろう。


ヒナも頷いた。

「私もヒールで支えます」


「私はファイア!」

シオリが胸を張る。

「火力担当するね!」


「頼もしいな」

2人の言葉を聞いているうちに、ユースケの顔にも自然と笑みが戻った。


「そうだね」

明日からは3人だ。


1人ではできなかった戦い方もできる。

試したいことも、また増える。


「じゃあ明日から、3人で旅立ちの森を攻略しよう」


「うん!」

「はい」


2人の返事が重なった。

今度は1人ではない。


ユースケの胸に残っていた重苦しさが、ほんの少しだけ軽くなった。

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― 新着の感想 ―
うん、ヒナ派です。 いま決めました。
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