他山の石
サトルとランを見送ったあと。
ユースケは1人、旅立ちの森へ戻ってきた。
森の静けさは、さっきまで起きていたことが嘘のようだった。
足を踏み入れた途端、ナオヤが消えていく光景が頭をよぎる。
ユースケは片手剣を握り直した。
「…行こう」
そして、ゆっくりと森の奥へ歩き出した。
◇
狩りは、いつも以上に慎重に進めた。
弓で1匹だけ釣る。
片手剣へ持ち替える。
シールドバッシュで体勢を崩す。
通常攻撃を重ね、最後はスラッシュで確実に仕留める。
リンクしそうな位置では無理をしない。
敵の位置だけでなく、退路も確認する。
「同じ危険を、見落とさないようにしよう」
ナオヤの死を、ただ目の前で起きた出来事として終わらせるつもりはなかった。
無理をすれば死ぬ。
数を見誤っても死ぬ。
分かっていたつもりだったことを、改めて突きつけられた。
だからこそ、今まで以上に慎重に進む。
それでも足りないなら、もっと強くなる。
ユースケは次のウルフへ弓を向けた。
◇
昼頃。
【レベルが13に上昇しました】
「レベルアップか」
ユースケは周囲の安全を確認してから、ヘルパーを開いた。
【名前】ユースケ
【職業】盗賊
【レベル】13
【HP】44
【MP】28+2
【STR】16+2
【VIT】15+1
【AGI】17+2
【DEX】17+3
【INT】15
【LUK】16
「やっぱりAGIとDEXは毎回伸びてるな」
Lv11、Lv12、そして今回のLv13。
ここまで3回続いている。
「盗賊の成長傾向としては、かなり濃そうだ」
とはいえ、まだ確定とは言い切れない。
「もう少しデータを集めれば分かりそうだな」
ユースケはヘルパーを閉じ、再び森の奥へ進んだ。
◇
午後も同じ戦法で狩りを続ける。
ブロンズシールドは、木盾より明らかに安心感があった。
ウルフの攻撃を受けた時の衝撃も軽い。
シールドバッシュも使いやすくなった気がする。
「ブロンズシールドに替えて正解だったな」
そんなことを考えながら、次のウルフと戦っていた時だった。
【HPが1上昇しました】
「…来たか」
ユースケは表示を見つめる。
今日も何度か攻撃を盾で受けている。
防いではいるものの、すべての衝撃を完全に消せているわけではない。
「ダメージを受けることが、HP上昇の条件なのかもな」
第9話で考えた仮説。
危険だからわざと試すことはしなかったが、普通に戦っているだけでも検証材料は集まる。
「これなら無理に試す必要もないな」
さらに狩りを続ける。
片手剣を振るう。
かわす。
また踏み込む。
そして――。
【STRが1上昇しました】
「こっちも来たか」
思わず口元が緩む。
さらに――。
【盾熟練度がLv3になりました】
【シールドノックを習得しました】
「ピコーンきた…けど、今日はちょっと複雑だな」
ユースケはヘルパーを開いた。
【シールドノック】
消費MP:3
盾を打ち鳴らし、敵の注意を自分へ向ける。
「挑発系か」
ソロでは使う機会は少なそうだ。
だが、パーティーなら話は違う。
敵の注意を自分へ向けられるなら、後衛へ向かった敵を引き戻すこともできるかもしれない。
「後衛を守る時に使えそうだな」
その瞬間。
ナオヤの姿が脳裏をよぎった。
ウルフに囲まれた姿。
助けを求める声。
そして、光となって消えた姿。
「…」
ユースケはしばらく黙っていた。
忘れるつもりはない。
けれど、今ここでできることもある。
「使えるものは、ちゃんと使えるようにしておこう」
シールドノックの表示をもう1度確認し、ユースケはヘルパーを閉じた。
◇
気付けば、夕日が森を赤く染め始めていた。
そして――。
【レベルが14に上昇しました】
「よし」
ユースケはヘルパーを開いた。
【名前】ユースケ
【職業】盗賊
【レベル】14
【HP】46+1
【MP】31+2
【STR】16+3
【VIT】16+1
【AGI】18+2
【DEX】18+3
【INT】16
【LUK】16
Lv13の時と見比べる。
HPは今回も2。
MPは3。
AGIとDEXも、やはり1ずつ上がっている。
一方で、今回はSTRとLUKが伸びず、VITとINTが上昇していた。
「AGIとDEXは毎回」
そして――。
「STRとLUK、VITとINTが交互…かな」
Lv11ではSTRとLUK。
Lv12ではVITとINT。
Lv13では再びSTRとLUK。
そしてLv14ではVITとINT。
ここまで並べると、かなり規則的だ。
「まだ断定はしないけど…たぶん合ってる」
少しずつ、盗賊の成長法則が見えてきた。
「あと何回か確認すれば確定できそうだな」
ユースケはヘルパーを閉じた。
まだ検証したいことはいくらでもある。
それでも、この世界の仕組みは少しずつ見えてきていた。
◇
その時だった。
ピコン♪
【グループチャットに新着メッセージがあります】
「ん?」
グループチャットを開く。
(シオリ)
『転職終わったよー!』
続いて、ヒナからも届く。
(ヒナ)
『私も無事に転職できました』
「おっ」
思わず笑みがこぼれた。
(ユースケ)
『おめでとう』
すぐに返信が届く。
(シオリ)
『今日は3人で夕飯食べに行かない?』
ユースケもすぐに返した。
(ユースケ)
『了解』
『ちょうど狩りを切り上げるところだから、今から街に戻るよ』
チャットを閉じる。
張り詰めていた気持ちが、ほんの少しだけ軽くなった。
ユースケは夕日に照らされた旅立ちの森を振り返る。
今日ここで起きたことを、忘れるつもりはない。
それでも――。
立ち止まり続けるわけにもいかない。
「さて…帰るか」
ユースケは森に背を向け、始まりの街へ向かって歩き始めた。




