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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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現実

「間に合え…!」


ユースケは地面を蹴った。

だが――。


飛びかかったウルフが、ナオヤの首へ鋭く噛みついた。


「がっ…!」


短い声が漏れる。

ナオヤの身体から力が抜け、そのまま地面へ崩れ落ちた。


【ナオヤが死亡しました】


「…え?」


ユースケの足が止まった。

ナオヤの身体が淡い光に包まれていく。

そして――。


消えた。


「…嘘だろ」


さっきまでそこにいた人間が、跡形もなく消えている。

モンスターではない。

人間が。


「そんな…」


ランの声が震える。

サトルも斧を握ったまま動かない。

ほんの一瞬。


3人の動きが止まった。

胸の奥が凍り付く。

だが――。


「くそっ!」


ウルフの唸り声で、ユースケは我に返った。

まだ終わっていない。

残ったウルフが、こちらを狙っている。

ユースケはナオヤのそばにいたウルフへ駆け込んだ。


「シールドバッシュ!」

ブロンズシールドを叩きつける。

鈍い衝撃音とともに、ウルフが大きく吹き飛んだ。


その隙に、もう1匹へ踏み込む。

片手剣を振るう。

さらに――。


「スラッシュ!」


鋭い斬撃がウルフを切り裂く。

ウルフは光の粒となって消えた。

吹き飛ばしたウルフが体勢を立て直し、再び飛びかかってくる。


「来い!」


盾で牙を受け止める。

そのまま片手剣を振り抜いた。

1撃。

さらにもう1撃。

ウルフは光の粒となって消えた。

ユースケはすぐに振り返る。


「まだ終わってない!」

その声で、サトルとランが我に返った。

「…ああ」

サトルが震える手で斧を握り直す。

「…うん」

ランも目元を拭い、拳を構えた。


残るウルフは4匹。

低く唸りながら、3人を囲むように間合いを詰めてくる。


「俺が前に出る!」


ユースケはブロンズシールドを構えた。

「無理に突っ込まないで! 1匹ずつ確実に倒す!」


サトルとランが頷く。

次の瞬間。

ウルフが飛びかかってきた。

ガンッ!

ブロンズシールドが牙を受け止める。

「シールドバッシュ!」

盾を叩きつけ、ウルフの体勢を崩す。


そこへサトルが踏み込んだ。

「ヘビィスイング!」

振り下ろされた斧がウルフを捉える。

さらにランが距離を詰めた。

「ダブルストライク!」

2連撃が叩き込まれ、ウルフが光の粒となって消えた。


「あと3匹!」

右から1匹。

正面から2匹。

「右は俺がやる!」

ユースケは右のウルフへ向かう。


飛びかかってきた牙を横へかわし、片手剣を振るった。

「スラッシュ!」

斬撃がウルフを捉える。

振り向きざまに、もう1撃。

ウルフが光となって消えた。


その間に、サトルが正面の1匹を盾で受け止めていた。

ランが横へ回り込む。

「ダブルストライク!」

拳がウルフを捉える。

続いてサトルの斧が振り下ろされ、ウルフが光の粒となって消えた。


残る1匹。

低く唸りながら後退する。

サトルが斧を構えた。

ユースケも盾を前に出し、間合いを詰める。


ウルフが飛びかかってきた。

ユースケがその牙を盾で受け止める。

その横から、ランの拳が叩き込まれた。

体勢を崩したところへ、サトルの斧が振り抜かれる。

最後のウルフが光の粒となって消えた。



静寂が森を包んだ。

誰も口を開かなかった。

さっきまでナオヤがいた場所には、もう何もない。

ユースケはその場所を見つめた。


「…行きましょう」

静かに口を開く。

「ここは危険です。またリンクするかもしれない」

サトルとランは無言で頷いた。

3人は森をあとにした。



旅立ちの草原まで戻ると、3人はその場へ腰を下ろした。

ホーンラビットが、何事もなかったかのように草を食んでいる。


ついさっきまで命のやり取りをしていた森とは、まるで別世界だった。


しばらく、誰も話さなかった。

やがてサトルが静かに口を開く。


「…助けてくれて、本当にありがとう」

深く頭を下げる。

「君が来てくれなかったら、俺たちも死んでた」

サトルは拳を握った。

「俺の判断が甘かった」

声が震える。


「もっと早く引いていれば…ナオヤも…」

その先は言葉にならなかった。


ランも目を伏せている。

目元は赤くなっていた。

「…ありがとうございました」

声がかすかに震える。

「ナオヤは助からなかったけど…」

そこで言葉が止まる。

ランは1度、息を整えた。

「それでも、私たちは生き残れました」


そしてユースケを見る。

「あなたが来てくれたからです」

2人はもう1度、深く頭を下げた。

ユースケは小さく首を振る。

「礼を言われることじゃないです」

視線を落とす。

「俺が、あと少し早く着いていれば…」


「違う」

サトルが静かに言った。

ユースケが顔を上げる。

「あの状況に飛び込んでくれただけでも十分だ」

サトルは真っ直ぐユースケを見る。

「君はできることをやってくれた」


ランも静かに頷いた。

「私だったら…逆の立場で動けたか分かりません」


再び沈黙が流れた。


やがてサトルが立ち上がる。

「…今日は街へ戻る」

ランもゆっくりと立ち上がった。

「私も…少し休みます」


サトルは改めてユースケへ向き直る。

「ありがとう」

ランも深く頭を下げた。

「ありがとうございました」


2人は始まりの街へ向かって歩き始めた。

ユースケは、その背中を静かに見送る。


――この世界では、本当に人が死ぬ。


分かっていた。

光球の宣告でも聞いた。

それでも、実際に目の前で人が死ぬのを見るのは初めてだった。


ナオヤはもう戻ってこない。

あと少し早く駆けつけていれば。

もっと早くウルフを倒せていれば。

そんな考えが何度も頭をよぎる。


でも、悲鳴を聞くまで、ユースケは3人がそこにいることすら知らなかった。


それでも――。

次に同じような場面に出会った時は、間に合わせたい。


今より速く。

今より確実に。

助けられるだけの力が欲しい。


ユースケは静かに拳を握った。

「…もっと強くならないとな」

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