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玄武の渡り人 ~帰還できるのは、ただ1つの大陸だけ~  作者: かにかま
第1章 始まりの街

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旅立ちの森

翌朝。

ユースケは朝食を済ませると、宿を出た。

向かう先は、旅立ちの草原。


「その前に…」

ユースケはヘルパーを呼び出した。


【瞬足】


「まずは試してみよう」

スキルをONにして歩き始める。


「…いいね!」

すぐに違いが分かった。

無理に足を動かしている感覚はないのに、自然と足運びが速くなっている。

景色も、いつもより少し速く流れていく。


「思ったより快適だね」

体感では2割ほど速くなった程度だろうか。

それでも、街と狩場を何度も往復することを考えれば、この差は小さくない。


「盗賊らしいスキルだ」

少し嬉しくなりながら、ユースケは旅立ちの草原へ向かった。



草原の奥では、ホーンラビットがいつものように歩き回っていた。

もう苦戦する相手ではない。

だが、今日は試したいことがある。


「まずは弓だね」

ユースケはヘルパーへ念じた。


【アイアンボウ装備】


片手剣と木盾が淡い光に包まれ、代わりにアイアンボウが両手へ現れた。


「…なるほど」

装備の切り替え自体はすぐに終わる。

だが、そのわずかな間は攻撃も防御もできない。


歩き続けることはできるものの、敵が目前にいれば十分な隙になる。


「やっぱりディレイがあるか」

便利だからこそ、完全なノーリスクではないらしい。

敵との距離を見て持ち替える必要がある。

ユースケは近くにいたホーンラビットへ狙いを定めた。


弓を構える。

すると、弦の上へ淡い光が集まり始めた。

光は細長く伸び、1本の矢を形作る。


「これが自動生成される矢か」

矢筒は必要ない。

昨日説明を見てはいたが、実際に目にすると不思議な光景だった。


狙いを定める。

放つ。

ヒュッ。

光の矢が一直線に飛び、ホーンラビットへ命中した。


「ギィッ!」

ホーンラビットがこちらへ向かってくる。


「威力は…」

片手剣の通常攻撃より、少し低そうだ。

それでも十分にダメージは入っている。


ユースケはすぐに装備を変更した。

アイアンボウが淡い光に包まれ、片手剣と木盾へ切り替わる。


切り替えが終わるまでの間にも、ホーンラビットとの距離は縮まっていく。

最初から距離を取っていたからこそ、落ち着いて構える時間があった。


「これなら実戦でも使えそうだね」

接近してきたホーンラビットへ盾を構える。

突進を受け流し、そのまま片手剣を振るった。


「スラッシュ!」

ホーンラビットは光の粒となって消えた。


「弓だけでも戦えそうだけど…」

次のホーンラビットへ矢を放つ。

命中。


今度は弓のまま迎え撃つ。

2射目を放つ頃には、ホーンラビットが目の前まで迫っていた。


「やっぱり連射は遅いか」

装備を変更する。


だが、その途中でホーンラビットが突進してきた。

ユースケは横へ飛び退く。

角がすぐ横を通り過ぎた。


「ギリギリだったね」

苦笑する。

近距離では片手剣。

遠距離では弓。


持ち替えるなら、十分に距離があるうちに。

その後も何匹か相手に試射を繰り返した。

弓で先制攻撃。

接近されたら片手剣へ持ち替える。


この流れがもっとも安定している。

すると――。


【DEXが1上昇しました】


「よしっ!」

思わず笑みがこぼれる。

「弓を使ってると、DEXが伸びやすいのかもな」

まだ1回だけだ。

それでも、試す価値はありそうだった。


「弓はだいたい分かった。そろそろ先へ行こう」

装備を片手剣と木盾へ戻し、草原の奥にある森へ向かう。

瞬足のおかげもあり、ほどなく森の入口へたどり着いた。

草原の景色がそこで途切れる。

目の前には、深い森が広がっていた。



草原とは違う深い緑が、視界いっぱいに広がっている。


「ここからが新しい狩場か」

ユースケはヘルパーを呼び出した。


【旅立ちの森】

【推奨レベル12】


「いきなり上がったね…」

今のレベルは10。

数字だけを見れば、少し早い。


「まあ、無理そうなら戻ればいいか」

慎重に森の中へ足を踏み入れる。

しばらく進むと、前方の茂みから灰色の獣が姿を現した。


「いたか」

ユースケは足を止め、ヘルパーを確認する。


【ウルフ】

【レベル10】


鋭い牙をむき、低い姿勢でこちらを睨んでいる。

「まずは1匹。慎重に様子見だね」

片手剣と木盾を構える。

次の瞬間、ウルフが勢いよく飛びかかってきた。


ユースケは半歩横へずれ、その牙をかわす。

すぐに片手剣を振るう。


1撃。

さらにもう1撃。

反撃を木盾で受け止める。


ガンッ。

ホーンラビットより重い衝撃が腕へ伝わった。

距離を取り直し、再び斬り込む。

次の攻撃で、ウルフは光の粒となって消えた。


【ウルフの牙を入手しました】


「ふぅ…問題なく倒せるね」

ホーンラビットよりかなり強い。

だが、1匹なら十分に対応できる相手だった。



そのまま森を進む。

しばらくすると、再びウルフを見つけた。

近付こうとした、その時だった。

茂みが大きく揺れる。

左右から、さらに2匹のウルフが姿を現した。


「3匹…!」

最初に見つけた1匹が低く唸る。

それに呼応するように、3匹が同時にユースケへ駆け出した。


「リンクだ!」

ユースケは迷わず踵を返した。

瞬足を使って走ると、少しずつ距離が開いていく。

森の入口近くまで下がったところで、3匹は追跡を諦め、それぞれ元の場所へ戻っていった。


「近くの仲間まで反応するのか…」

少なくとも、密集している場所へ不用意に近付くのは危険だ。


「これを正面から相手にする必要はないね」

ユースケはアイアンボウへ持ち替えた。



しばらく進むと、今度は2匹のウルフを発見した。

距離は十分にある。

ユースケはアイアンボウを構え、弦を引いた。

光の矢が一直線に飛び、手前のウルフへ命中する。


ギャンッ!

1匹だけが怒りの声を上げ、こちらへ駆け出してきた。

もう1匹は動かない。

「成功。1匹だけ釣れた」


すぐにアイアンボウをしまい、片手剣と木盾へ切り替える。

持ち替えが終わった時点でも、ウルフとの間合いにはまだ余裕があった。


「来い!」

飛びかかってきたウルフをかわす。

片手剣を振るい、続けて盾を叩きつける。


「シールドバッシュ!」

ウルフの身体が弾かれ、体勢を崩した。

そこへ追撃を叩き込む。

ウルフは光の粒となって消えた。


「これなら安全に戦えそうだ」

ユースケは周囲を見渡した。

複数のウルフがリンクするなら、わざわざ正面からまとめて相手をする必要はない。


弓で1匹だけ釣る。

片手剣と盾で仕留める。

「1匹ずつ確実に倒す。これでいこう」

少なくとも今の自分には、それが安全だった。



その後も同じ戦法を繰り返した。


弓で1匹だけ釣る。

片手剣へ持ち替える。

シールドバッシュで隙を作る。

確実に仕留める。


危なげなく討伐を重ねていく。


すると――。


【片手剣熟練度がLv4になりました】

【片手剣適性が10%上昇しました】


「ピコーンきたー!」

思わず声が出る。

メイン武器だけあって、もっとも長く使ってきた武器だ。


「適性アップか。これは地味に強いな」

盗賊の片手剣適性は100%。

そこへ10%上がったなら、110%になる。


数字としても分かりやすい。

「使い続けるほど、適性まで伸びるのか」

武器を育てる意味が、また1つ増えた。

さらに――。


【レベルが11に上昇しました】


「レベルも上がったか」

周囲の安全を確認してから、ヘルパーを開く。


【名前】ユースケ

【職業】盗賊

【レベル】11

【HP】40

【MP】22+1

【STR】15+2

【VIT】14+1

【AGI】15+1

【DEX】15+2

【INT】14

【LUK】15


「ノービスの時とは伸び方が違うね」

レベル10の時と比べる。


HPは2。

MPは3。


STR、AGI、DEX、LUKも伸びている。

その一方で、VITとINTの基礎値は変わっていない。


「シスターが言ってた成長傾向か」

ユースケはステータスを見つめる。

「まだ1回だけじゃ断定できないね」


分かったことは記録する。

分からないことは保留する。

いつものやり方でいい。



夕方まで狩りを続けた。

何度かウルフがリンクしたが、そのたびに無理をせず距離を取る。


弓で釣れる位置を探し、1匹ずつ倒していった。

そして――。


【レベルが12に上昇しました】


「よしっ」

再びヘルパーを開く。


【名前】ユースケ

【職業】盗賊

【レベル】12

【HP】42

【MP】25+1

【STR】15+2

【VIT】15+1

【AGI】16+1

【DEX】16+2

【INT】15

【LUK】15


レベル11の時と見比べる。


HPは今回も2。

MPは3。


AGIとDEXは今回も上昇している。

一方でSTRとLUKは変わらず、今度はVITとINTが上がっていた。


「AGIとDEXは毎回伸びてる」

ユースケは少し考える。

「STRとLUK、VITとINTが交互…?」

口にしたところで首を振った。


「いや、まだ2回だ。決めつけるのは早いか」

法則らしきものは見えてきた。

だが、確定させるには情報が足りない。


「この辺もレベルを上げていけば分かるかな」

ヘルパーを閉じ、再び弓を手に取った。

狩りを再開する。

すると――。


【DEXが1上昇しました】


「また来た」


表示を見て、口元を緩める。

「やっぱり弓はDEXと相性良さそうだ」

さらに狩りを続けていると――。


【弓熟練度がLv2になりました】

【パワーショットを習得しました】


「本日2回目のピコーン!」


ユースケはすぐに詳細を確認した。


【パワーショット】

消費MP:3

威力の高い矢を放つ。


「スラッシュの弓版って感じかな」


使い勝手は実際に撃ってみれば分かる。

「これは試さずにはいられない」

近くにいたウルフへ弓を向けかけ――やめた。


日が傾き始めている。

「今日はここまでにしよう」

夜の森で新しいスキルを試す必要はない。


新しい狩場。

新しい戦法。

新しいスキル。


十分な成果だ。

ユースケは街へ戻り、素材を換金した。

宿で夕食を済ませる。

普通なら、今日はここで終わりだ。


「…まあ、普通ならね」



夜。

ユースケは再び旅立ちの草原へ戻っていた。

「森じゃなければ、もう少し試せる」

相手はホーンラビット。


昼間より格下で、動きも見慣れている。

「まずはパワーショットだ」

アイアンボウを構える。


「パワーショット!」

弓と矢が淡く光る。

放たれた矢は勢いよく飛び、ホーンラビットへ突き刺さった。


「おお、ちゃんと強い」

通常の矢より威力は高い。


「やっぱりスラッシュと同じ系統っぽいね」

そのまま弓だけで戦ってみる。


近付かれても片手剣には持ち替えない。

身体をひねる。

横へかわす。

距離を取り、再び弓を引く。


「パワーショット!」

回避を繰り返しながら距離を保ち、弓だけでホーンラビットを倒していく。


しばらく狩りを続けたところで――。


【AGIが1上昇しました】


「よし」

ユースケは小さく頷いた。

回避を増やした分、AGIにも反映されたらしい。


そのまま狩りを続ける。

気付けば、時刻は深夜1時を回っていた。


「今日はこのくらいで許してやるか」

そう呟いて帰ろうとしたところで、足が止まる。


「…いや、最後にもう1つだけ」

向かった先は、旅立ちの草原にあるスライムゾーンだった。


周囲を見渡す。

この時間なら、他のプレイヤーはほとんどいない。

ブルースライムを見つけては近付き、次々と後ろへ引き連れていく。

十分な数が集まったところで振り返った。


「電車でゴーゴートレイン狩り!」

片手剣を構える。

「ワイドスラッシュ!」


放たれた斬撃が、まとめてブルースライムを飲み込んだ。


もう1回。

さらにもう1回。


MPが減っていくたびに、自然回復を待って再開する。

深夜の草原で、ひたすらワイドスラッシュを繰り返した。

そして――。


【MPが1上昇しました】


「よし。今日は大収穫だったね」

満足そうに頷く。


瞬足。

弓。

片手剣適性。

レベルアップ。

パワーショット。

そして、行動成長。


試したかったことは、かなり確認できた。

ユースケはようやく宿への帰路についた。


この時のユースケは、翌日起きる惨劇を知る由もなかった。


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