転職(前編)
始まりの街へ戻ってきたユースケは、その足でヘルパーを呼び出した。
(転職)
【転職は玄武教会で行えます】
「玄武教会か」
昨日までは気にも留めていなかった建物だ。
街の中心部へ向かうと、ひときわ大きな建物が目に入る。
深緑色の屋根に、黒い石造りの外壁。
入口の上には、巨大な玄武の紋章が掲げられていた。
亀に蛇が巻き付く姿が、精巧に彫られている。
「さすが玄武大陸の教会だね…」
これだけ立派な建物なら、玄武はこの大陸にとって特別な存在なのだろう。
青龍、朱雀、白虎にも、それぞれ違った教会があるのかもしれない。
「他の大陸へ行くことがあれば、その時に分かるかな」
ユースケは玄武教会の扉を開いた。
◇
教会の中は静寂に包まれていた。
磨き上げられた石畳。
深緑の絨毯が祭壇まで真っすぐ続き、壁には玄武を描いた大きな壁画が飾られている。
祭壇の奥には、巨大な玄武像が静かに鎮座していた。
その前に立つシスターが、ユースケへ微笑みかける。
「ようこそ、玄武教会へ」
「ユースケです。転職に来ました」
「承りました」
シスターは穏やかに一礼した。
「レベル10へ到達された渡り人は、こちらで転職を行えます。転職後は再び経験値を獲得できるようになります」
「職業は全部で6つございます」
シスターが手をかざす。
ユースケの前に、新たな表示が現れた。
【戦士】
【格闘家】
【盗賊】
【僧侶】
【狩人】
【魔術師】
「6つか」
「転職後は、職業ごとにレベルアップ時の成長傾向が変化します」
続けて画面が切り替わる。
【職業ごとの成長傾向】
【戦士 STR・VIT】
【格闘家 STR・AGI】
【盗賊 AGI・DEX】
【僧侶 VIT・INT】
【狩人 DEX・AGI】
【魔術師 INT・DEX】
「成長傾向…?」
「はい。職業によって、特に伸びやすい能力が異なります」
「例えば戦士ならSTRとVIT、魔術師ならINTとDEXです」
「盗賊はAGIとDEXか」
「その通りです。ただし、それ以外の能力が成長しなくなるわけではございません」
「なるほど」
得意な能力が変わるだけで、完全に成長が固定されるわけではないらしい。
「さらに、各職業には固有スキルが存在します」
「武器スキルとは別ですか?」
「はい。職業ごとに習得できる特別な能力です。戦闘だけでなく、探索や支援に役立つものもございます」
職業固有スキル。
これも転職後に確認しておきたい。
「そして、もう1つ重要なのが武器適性です」
シスターが再び手をかざした。
【主な武器適性】
【戦士 片手剣120%/両手剣120%/斧120%/盾120%】
【格闘家 ナックル120%】
【盗賊 短剣120%/弓110%/ナックル110%/片手剣100%/槍100%】
【僧侶 杖120%/鈍器110%/盾110%】
【狩人 弓120%/短剣110%】
【魔術師 杖120%/短剣110%】
「武器適性が高いほど、その武器の性能を引き出しやすくなります。また、武器熟練度も上がりやすくなります」
「なるほど…」
ユースケは表示を見比べる。
戦士は剣や斧、盾に強い。
格闘家ならナックル。
狩人なら弓。
僧侶と魔術師なら杖。
どの職業にも、分かりやすい得意武器がある。
その中で盗賊は少し違った。
短剣が120%。
弓とナックルも110%。
片手剣と槍も100%ある。
「盗賊は使える武器が多いんですね」
「はい。突出した分野では他の職業に譲る場合もございますが、多くの武器を扱いやすい職業となっております」
「これは面白い」
片手剣を使いながら、必要なら弓へ持ち替える。
短剣にも強い。
槍も使える。
今まで試してきた戦い方と相性が良さそうだった。
「ちなみに、魔法にも職業ごとの適性がございます」
「魔法にも?」
新たな表示が現れる。
【魔法適性】
【戦士 攻撃魔法70%/回復魔法50%】
【格闘家 攻撃魔法70%/回復魔法50%】
【盗賊 攻撃魔法90%/回復魔法70%】
【僧侶 攻撃魔法100%/回復魔法130%】
【狩人 攻撃魔法80%/回復魔法70%】
【魔術師 攻撃魔法130%/回復魔法100%】
「職業が違っても、魔法は覚えられるんですね」
「はい。魔法書を使用すれば、職業を問わず習得できます。ただし、適性によって効果は変化します」
「同じファイアでも?」
「魔術師が使用した方が高い威力を発揮できます」
「逆に、ヒールなら僧侶が一番ですね」
「その通りです」
誰でも使える。
だが、誰が使っても同じではない。
武器と同じ仕組みらしい。
ユースケはもう1度、盗賊の適性を確認した。
短剣120%。
弓110%。
片手剣100%。
攻撃魔法も90%ある。
戦士ほどSTRは伸びない。
専門職ほど剣や弓、魔法を極められるわけでもない。
その代わり、選択肢が多い。
敵や状況に合わせて武器を変え、必要なら魔法も使う。
昔からMMOでは、特化型よりバランス型でキャラを作ることが多かった。
バランス型は器用貧乏。
そう言われることも多い。
確かに、1つの能力だけを比べれば特化型には勝てない。
でも、それだけじゃない。
できることが多ければ、それだけ状況に合わせて戦い方を変えられる。
器用貧乏も、突き詰めれば万能型になる。
少なくとも、ユースケは昔からそう思っていた。
「盗賊が一番合いそうだね」
自然と笑みが浮かぶ。
シスターが静かに尋ねた。
「転職先はお決まりになりましたか?」
ユースケは頷く。
「盗賊でお願いします」
「かしこまりました。それでは、祭壇の中央へお進みください」
促されるまま、祭壇の中央へ立つ。
足元には玄武の紋章が刻まれていた。
シスターが静かに祈りを捧げる。
すると、玄武像の足元から深緑色の光がゆっくりと溢れ出した。
光は祭壇を包み込み、やがてユースケの身体へ広がっていく。
その瞬間、目の前に表示が浮かび上がった。
【転職を開始します】
深緑の光が、ユースケの身体を包み込んだ。




