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脅迫状が、届いた

 春芽月の月、十三日目。夕刻。

 予備会議の閉幕から、三時間後。

 王宮の執務室の稜の書斎の扉を誰かが激しく、叩いた。稜が扉を、開けた。書記官補のクロヴィスが息を切らしながら、立っていた。手には一通の、封筒。

 「師匠。──匿名の、脅迫状でございます」

 稜は封筒を、受け取った。

 封蝋は既に破られていた。書記官室の検閲で既に内容が、確認されていた。稜は書斎の卓の上に封筒を置き中の紙を、開いた。

 書かれていたのは短い、脅迫文。

 「契約更新日の署名を、行うな。行えばアウリオンの町に火が、放たれる」

 差出人は、なかった。

 しかし紙の下の方に小さな、五家の家紋のうちの一つが薄く、印刷されていた。

 稜はその家紋を見た。

 クルビット家の、家紋。

 五家の貴族のうち最も、没落している一家。十年前の議会制の失敗で家の多くの所領を、失った。当時、家長であった老父は既に亡くなっている。現在の家長は二十九歳の、若い当主。

            ─── ─── ───

 稜はクロヴィスに即座に、指示した。

 「クロヴィス。今すぐ、ブラン殿を、呼んでくれ」

 「はい、師匠」

 クロヴィスが走って書斎を、出た。

 五分後、ブランが書斎に、現れた。

 稜はブランに脅迫状を、見せた。ブランはゆっくりと文を、読んだ。

 「──クルビット家の、家紋ですね」

 「ああ。五家の中で最も、没落した家」

 「稜殿。──この脅迫は、本気ですね」

 稜は頷いた。

 ブランは左頬の古い傷を指で、触った。十年ぶりに傭兵の感覚が、戻っていた。

 五家の没落の物語は、千年のアウレリアの歴史の中で繰り返されてきたテーマだった。千年前初代王アドレアンが独立戦争を戦った時、五家の貴族は王の側で戦った。独立後、五家は王宮の重要な決定に関わる立場を得た。しかし千年の間に五家のうちのいくつかは没落し、いくつかは繁栄した。繁栄した家は王宮での影響力を保ち続けた。没落した家は静かに王宮から距離を置いた。十年前の議会制の試みで、クルビット家を含む三つの家が所領の多くを失った。当時の宰相カスパルはこの三家の没落を議会制の成立を急ぐあまり、十分に配慮できなかった。その配慮の足りなさが十年後の今クルビット家の若い当主カイルの怒りとして、蓄積されていた。稜は半年前に草案を書き始めた時この十年の蓄積された怒りを新しい条約の中でどう解消するか、深く考えていた。怒りを無視して条約を結んでも将来、同じ形で怒りが爆発する。怒りに譲歩しすぎて条約の骨格を崩しても、新しい時代は始まらない。稜が選んだ解決策は怒りの原因を、新しい議会制度の中で具体的に解消する条項を組み込むことだった。五家の固定議席。没落した五家の所領の段階的な回復。これらの条項は稜の草案の第二段階の付属条項として書かれていた。今夜カイル・クルビットの目の前でその条項が具体的な和解の道として、初めて提示された。

            ─── ─── ───

 「稜殿。今夜私は王都の、クルビット家の家屋敷を、見てまいります」

 「警戒させずに、見るだけです」

 「若い当主の動きの痕跡を、確認いたします」

 稜は深く頷いた。

 「ブラン。一人では、行くな」

 「稜殿。──どなたと一緒に、行けとお命じになりますか」

 稜は静かに、告げた。

 「私とだ」

 ブランの目が、広がった。

            ─── ─── ───

 夜稜とブランは王宮の、裏門を密かに、出た。

 夜の王都の商業区の通りを稜は町人の服装で歩きながら前世のコンサルタントとして経験した危険な現場への単身乗り込みの記憶を、静かに辿っていた。前世で稜がこのような直接介入を行ったのは十五年のキャリアの中で、三回だけだった。三回とも通常の手続きでは解決できない案件で稜が単身で相手の本拠に乗り込み、交渉で全てを解決した。三回とも稜の命の危険が、現実にあった。しかし三回とも稜は生きて戻ってきた。生きて戻ってくるための参謀の技は通常の交渉の技とは、異なる種類の技だった。相手の心の最も深い層にある恨みや恐怖の原因を、瞬時に読み取る。読み取った原因を別の形で解消する具体的な道を、即座に提示する。相手が提示された道を受け入れるまで自分の命を、賭ける。この三つの段階を稜は前世で身につけていた。異世界でこの技をもう一度試す機会が今夜、来ていた。稜の左手は懐の中で草案の写しを、握っていた。右手は、何も持っていなかった。剣も書簡も護衛も、持たない。しかし稜の胸の中には半年の準備の全体が一つの大きな静かな確信として、形を取っていた。

 稜は参謀の正装ではなく町人の服装に、着替えていた。ブランも同じく、町人の装いだった。二人は王都の商業区の夜の通りを、歩いた。

 目的地はクルビット家の、家屋敷。王都の西の端没落した貴族の、住む区画。二十分、歩いた。

 家屋敷の近くの一軒の酒場の裏の路地に、稜とブランは静かに、立った。

 「稜殿。ここから、見られます」

 ブランが指を家屋敷の正面の扉の方に、指した。

 「扉から人が、出入りしています」

 稜は扉を見た。

 午後九時のこの時刻に家屋敷に、出入りしているのは通常の家族や、使用人ではなかった。

 武装した男が五人、扉をくぐって、中に入った。

 そしてもう一人最後に扉を、くぐった男がブランの注意を、引いた。

            ─── ─── ───

 「稜殿」

 「ブラン」

 「──あの最後の男服装が、違います」

 稜もその男を、見ていた。

 ブランの指摘した男は、クルビット家の、使用人の装いではなかった。

 帝国の近衛騎士の、独特の装いだった。ただし鎧は、着けていない。しかし腰の剣の柄と鞘の形が明らかに、帝国製。

 「ブラン。──あれは帝国の騎士、だ」

 ブランは深く頷いた。

 「稜殿。──マルクス・ディロン殿の、仰っていた情報、本当でしたね」

 「ああ」

 ヴィスカルト皇太子の、個人的な刺客。

 商人ギルドの帝都の情報網がつかんだ話が今現実に、王都のクルビット家の家屋敷の、中に入った。

 稜は静かに、判断した。

 「ブラン」

 「はい」

 「今夜、この家屋敷に私は直接、乗り込む」

 ブランは驚いた顔で、稜を見た。

 稜はクルビット家の家屋敷に乗り込む判断を、瞬時に下していた。通常のコンサルタントとしての稜ならこのような危険な判断は、絶対に避けていた。前世の稜は多くの案件で危険な現場への直接の介入をクライアントに代わって、他の者に任せていた。しかし異世界で稜は自分以外に代わる者が、いなかった。カスパルは七十二歳の宰相。アルデス公は王国参与。副宰相ヴァルドはまだ、経験が足りない。ブランは剣の使い手として頼りになるが、交渉の当事者にはなれない。参謀として敵の本拠に単身乗り込み交渉で全てを解決する役割を担えるのは、稜一人だった。稜はこの判断の背景をブランに全て説明する時間は、なかった。ブランは稜の判断を、即座に受け入れた。十年の傭兵生活でブランは指揮官の判断の背景を全て問わずに即座に動く訓練を、身体に刻んでいた。今夜稜は指揮官としてブランは実行者として二人で家屋敷への乗り込みを、実行する。その役割分担が短い会話の中で完璧に、確定した。前世のコンサルタントとしての稜はこの種の役割分担を多くのチームで、経験していた。異世界でも同じ感覚が稜とブランの間で、自然に働いていた。

 「稜殿。──そのご判断、再考いただけないでしょうか」

 稜は首を、振った。

 「ブラン。私が乗り込むことで、ヴィスカルトの刺客は、混乱する」

 「明日の契約更新日の署名を中止させるために、アウリオンの町に火を放つ、という計画」

 「その計画の実行の前夜にアウレリアの参謀がクルビット家の、家屋敷に一人で、現れる」

 「刺客はこれを、予想していない」

 ブランは長く稜を、見ていた。

 それから静かに頷いた。

 「稜殿。分かりました」

 「私は裏の、抜け道から家屋敷に、入ります」

 「稜殿の後ろで、控えます」

            ─── ─── ───

 稜は一人でクルビット家の、家屋敷の正面の扉を、叩いた。

 三度、叩いた。

 中から声が、した。

 「どちら、さまでございますか」

 「アウレリアの参謀、稜でございます」

 扉の、向こうで沈黙が、あった。

 三十秒の、沈黙。

 それから扉がゆっくりと開いた。

 扉を開けたのは、クルビット家の、若い当主だった。

 二十九歳。痩せた身体鋭い目、茶色の髪。

 若い当主は稜の顔を見て、驚いた。

 「──稜殿」

 「夜分、失礼いたします」

 「何のご用で、でしょうか」

 稜は静かに、告げた。

 「脅迫状、拝読いたしました」

 若い当主の目が、広がった。

 そして背後に、振り返った。

 家屋敷の奥の部屋から、五人の武装した男と一人の帝国の騎士が、出てきた。

 全員剣を、抜いていた。

            ─── ─── ───

 稜は一人剣も持たずに家屋敷の玄関で六人の、武装した男と向かい合って、立っていた。

 若い当主は、混乱していた。

 「稜殿。なぜお一人で、いらっしゃったのか」

 「クルビット家の、当主殿」

 「私は、あなたと対話をしに、来ました」

 「対話、でございますか」

 「はい」

 稜はゆっくりと手を、広げた。

 「剣は、持っておりません。護衛も、連れてきておりません」

 「私とあなたで、一対一の対話を、したい」

 若い当主は長く稜を、見ていた。

 それから奥の、帝国の騎士を、振り返った。

 帝国の騎士が低い声で若い当主に何か、告げた。稜には、聞こえなかった。

 若い当主は、帝国の騎士に頷いた。

 そして稜に、告げた。

 「稜殿。──奥の書斎に、お入りください」

            ─── ─── ───

 稜は家屋敷の奥の書斎に、通された。

 書斎には若い当主と帝国の騎士の、二人が入った。五人の武装した男は書斎の外に、控えた。

 書斎の卓に、稜は座った。

 若い当主も座った。帝国の騎士は、立ったまま。

 稜はまず、若い当主に、問うた。

 「クルビット家の、当主殿。──お名前を、伺っていいでしょうか」

 「カイル・クルビット、と申します」

 「カイル殿。──あなたの怒りを、聞かせていただきたい」

 若い当主カイルは長く稜を、見ていた。

 それから静かに語り始めた。

 「稜殿。私の家は千年のアウレリアの、五家のうちの、一家でございました」

 「千年五家は王宮の、重要な決定に、関わってまいりました」

 「しかし十年前の議会制の試みで、私の家の所領の七割が、失われた」

 「当時の家長は、私の父でございました」

 「父は、失意の中で五年前に、亡くなりました」

 「父の、死の原因は心の、病でございました」

 「家の、没落が父の心を、壊したのでございます」

 稜は静かに、聞いていた。

 「私は、二十九歳」

 「家を継いで、五年」

 「五年家の、再興のために、何もできなかった」

 「アウレリアの現在の王と宰相の体制の下では、没落した五家の声は、届かない」

 「だから私は別の力を、借りることに、決めました」

 稜は帝国の騎士を見た。

 騎士は無言で、立っていた。

            ─── ─── ───

 「カイル殿」

 「はい」

 「ヴィスカルト皇太子殿下はあなたに何を、お約束されましたか」

 カイルは長く、沈黙した。

 それから静かに告げた。

 「──契約更新日の署名を、中止させた場合」

 「皇太子殿下はクルビット家の失われた所領の、半分を取り戻す、とお約束された」

 稜は頷いた。

 そして静かに問うた。

 「カイル殿。──その約束は本当に、果たされるとお思いでしょうか」

 カイルは帝国の騎士を見た。

 騎士は無言で、立っていた。

 カイルは稜に答えた。

 「稜殿。──本当かは、分かりません」

 「しかし、今の私には他に道が、ない」

 稜は長くカイルを、見ていた。

 二十九歳の、若い当主。五年前に父を、失った男。家の再興の具体的な手段を、持っていない男。

 稜は静かに、告げた。

 「カイル殿。──私から一つの、別の提案を、させていただきたい」

            ─── ─── ───

 「別の提案、でございますか」

 「はい」

 稜は懐から、一枚の紙を、取り出した。

 明日の契約更新日の調整された草案の、第二段階の頁の、写しだった。

 「カイル殿。明日の会議で我々が署名する、新しい条約の、第二段階」

 「三年後の、議会制の再整備」

 「この第二段階で五家の貴族の議会への、正式な参加が、明文化されます」

 カイルの目が、広がった。

 「稜殿。──五家の、議会への参加、と仰いますと」

 「はい」

 「五家は議会の五つの、固定議席を、得ます」

 「千年の王宮での五家の影響力が新しい議会制度の中で、正式な形で、継承される」

 「そして没落した五家の所領の段階的な回復も第二段階の、付属条項として、含まれています」

 稜は紙の、その条項を指で、示した。

 カイルは長く、その条項を、見ていた。

 「稜殿。──この条項は本当に、実施されるのでしょうか」

 「はい、カイル殿」

 「明日陛下が、この条約を、署名されます」

 「署名された条約は帝国も四国もアウレリアも、守る義務を、負います」

 「ヴィスカルト皇太子殿下の個人的な、約束とは重みが、違います」

 カイルは長く、動けなかった。

            ─── ─── ───

 帝国の騎士が初めて口を、開いた。

 「稜殿。──我らの計画を、中止させようとされているのか」

 稜は騎士を見た。

 騎士は剣の柄に手を、置いていた。

 稜は静かに答えた。

 「中止を、迫るわけではありません」

 「クルビット家の当主殿に、別の選択肢を、お示ししているだけです」

 「選択は当主殿の、ご判断にあります」

 騎士は剣の柄を、握り始めた。

 その瞬間書斎の奥の、窓から静かにブランが入ってきた。

 ブランは裏の抜け道から、家屋敷に入り書斎の奥で、待機していた。

 ブランの腰には剣が、あった。十年ぶりに鞘から、抜かれる剣。

 帝国の騎士が、ブランの姿を見た。

 ブランの左頬の、古い傷を見た。

 騎士の目が、広がった。

 「──ブラン・ゼグラル」

 ブランは静かに答えた。

 「──その名を、ご存じでしょうか」

 騎士は深く息を、吐いた。

 「十年前サンミール渓谷の北で三時間、戦った傭兵団の、生き残り」

 「帝国の傭兵管理の記録に、あなたの名前が、残っています」

 ブランの目が、広がった。

 「──帝国の、記録に」

 「はい。あなたは帝国が密かに、追跡していた、傭兵でございました」

            ─── ─── ───

 帝国の騎士は剣の柄から手を、離した。

 そしてカイルに、告げた。

 「カイル殿。──我らの計画は、中止でございます」

 「ヴィスカルト皇太子殿下への、報告は私が、いたします」

 「今夜、この家屋敷で何も、起きなかった」

 カイルは長く騎士を、見ていた。

 それから稜に、向き直った。

 「稜殿。──今夜のことは深くお詫び申し上げます」

 「明日の契約更新日の会議に私は五家を代表して、参加させていただきたく、存じます」

 稜は頷いた。

 「カイル殿。歓迎いたします」

 稜は卓の上の、草案の写しをカイルに、渡した。

 「今夜のうちにこれを、お読みください」

 「明日第二段階の、具体的な条項についてご意見を、お伺いします」

 カイルは深く頭を、下げた。

            ─── ─── ───

 稜とブランはクルビット家の家屋敷を、出た。

 帝国の騎士は別の出口から静かに家を、離れていった。騎士は今夜のうちに帝都への早馬を、出すはずだった。ヴィスカルト皇太子への、失敗の報告。その報告が神崎にも、届くはずだった。

 王宮への、帰り道。ブランは長く、沈黙していた。

 「ブラン」

 「はい、稜殿」

 「剣を抜かずに、済んだな」

 ブランは微かに笑った。

 「はい。今夜、私の剣は鞘から半分、出ただけでした」

 「それで、十分だった」

 「はい」

 二人は静かに王宮の裏門に、戻った。

 書斎に戻った稜はカスパルとアルデス公に今夜の、短い報告を、した。

 二人は長く、稜の報告を、聞いていた。

 カスパルが最後に、告げた。

 「稜殿。──五家のクルビット家を敵から、議会の席に、招く」

 「この選択は四十年の宰相の、経験の中でも見たことのない、大きな交渉でございます」

 アルデス公も頷いた。

 「稜殿。──あなたの、参謀の技は戦わずに勝つの境地に、達しておられますな」

 稜は微かに笑った。

 「アルデス公。──私は前世で同じ技を、多くの企業の再建で、学びました」

 「恨みを、抱えている者を、敵にしない」

 「恨みの原因を別の形で、解消できる道を、示す」

 「それが参謀の最も、古い技でございます」

            ─── ─── ───

 夜が、深くなった。

 契約更新日まで、あと一日。

 春芽月、十三日目の月は既に西の空に、傾き始めていた。

 明日の満月の夜千年の属国条約の、最後の署名が、行われる。

 稜は書斎の窓を、開けた。

 夜の春の風が、書斎の中に、入ってきた。

 書斎の机の上の、五十頁の草案が、風に微かに揺れた。

 明日の夜全てが、終わる。

 そして明日の夜、全てが新しく、始まる。

 書斎の灯りを消す前、稜は机の上の五十頁の草案をもう一度撫でた。半年間この机の上で毎晩書き続けてきた塊。明日この塊が四国の代表の署名の入った条約文書として、アウレリアの公式の文書庫に収められる。草案の原本は稜の手元に残す。原本の表紙の裏に、稜は小さな一文をすでに書き加えていた。「春芽月、十四日。千年の属国条約、新しい形への最初の一歩」。明日署名が終わった後、この一文の下に「完」の一文字を書き加える。そして原本を書斎の一番奥の、鍵のかかる引き出しに収める。半年の塊がそこで静かに眠りに入る。稜は草案の表紙を撫でる手を止めた。明日の朝までの最後の数時間、身体を休める必要があった。

 稜は書斎の窓を閉じた。風が止まり書斎の空気が、再び静かになった。明日の満月の夜千年の属国条約の最後の署名が、行われる。そしてその翌朝、神崎玲は帝都への帰路に就く。神崎が帝都でヴィスカルト皇太子との対決をどう進めるのか、その具体的な手順を稜は知らない。神崎の草案の最後の数頁に帝国内部の変革の段階計画が書かれていたが、それは帝国の宰相が帝国内部で実行する計画。外側の稜が関与できる部分は、限られていた。ただし神崎が計画の実行の中で万一の危機に陥った場合稜はアウリオンから帝都に向かう用意を、既に内側で整えていた。月の庭での対話で稜は神崎に「お前が皇太子を倒せなかった場合、私は帝都に向かう」と告げていた。その覚悟は今夜、稜の胸の中で確実に根を張っていた。

第七章の、十二話目です。

脅迫状が届き稜とブランがクルビット家の、家屋敷に、乗り込みました。

帝国の騎士が、家屋敷の中に、いる場面。

書きながらこの回緊張感が、高いなあと、思いました。

刃物が直接ぶつかるのではなく、言葉の交渉で全てを、解決する展開。

これは稜の、参謀としての最もらしい、技だと思います。

カイル・クルビット、二十九歳の、若い当主。

五年前に父を、失った男。

家の再興の、具体的な手段を、持っていない男。

この男を、敵ではなく、議会の席に招く提案。

書きながら稜、カッコよすぎるなあと、思いました。

そして帝国の騎士が、ブランを、知っていた場面。

「帝国の傭兵管理の記録に、あなたの名前が、残っている」

ブランの十年の傭兵生活が、帝国の目にずっと、見られていた。

この事実、第二部への伏線の、一つです。

ブランの剣は鞘から半分、出ただけ。

書いていて、この表現、好きです。

次話いよいよ、第一部の、最終話。

契約更新日。

千年の属国条約の、最後の署名。

そしてロッテの母との、父と弟妹との、再会。

神崎との、別れ。

全てが一日で、閉じます。

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