第7話 肯定してよ
砂埃がはけていく。
そいつは手のひらをこちらに向けて微動だにしない。
岩でできた体。別個体とは思えない。
(ヌイがやられた。どうなってるの……!)
張り詰める緊張を打ち破ったのは、空を切る石の音と、それが着弾する音。
「ゴッ」
──遅れて、足元の地面が抉れる。
あと数センチずれていれば片足は潰れていた。
見えなかった。
振りかぶる様子も、放たれる瞬間も。
……何をした?
奴が手の位置を変えた。
間違いない。攻撃はあの手からだ。
「バンッ」
石の弾丸が顔の横を掠めた。
身に覚えがある。私の技を真似してるんだ。
パワータイプのくせに頭もいいのかよ……!
「ヌイッ!動ける!?」
「うええぇぇ……」
背後で弱々しい声が聞こえる。
あいつが狙撃に慣れるのも時間の問題だ。多分、逃げ回るのは得策じゃない。
横から風を流して軌道を逸らす!
奴との間に再び砂埃が立ち込めた。
悟られないよう発射の直前まで出力は抑える。
いつ仕掛けてくるか?そんなの勘でなんとかするんだよ!!
(今っ!)
バチィッ!
前にかざした右手に痛みが走る。
ぼたぼたと滴る血が袖の中にまで入ってきて気持ち悪い。
でも確実に軌道はずれていた。じゃなきゃ土手っ腹をぶち抜かれている。
奴はまた狙いを定め始めた。
しかしそれは私の方ではなく、ヌイの方へ。
「させるかよ!!」
出力最大で竜巻を作り出す。
それは砂利も砂も飲み込んで、大きな砂嵐となった。
視界は完全に遮られる。
痛い。砂が細かい刃みたいに皮膚を削る。
──でも。
クレーンを倒した時から考えていた。
風に乗せた砂。これはただの風じゃない。
触れれば削れる!
この砂嵐をあいつにぶつける!!
大量の砂を抱えているのと同義。さすがに重い。一瞬拡散しそうになった。
それでもやるんだ……!
威力を維持し続けろ!質量に負けるな!
「ぅオラァァァァッ!!」
奴を巻き込んだ砂嵐の中から、ザアアアァァ……と岩の削れていく音がする。
でもこれじゃトドメをさせない。
潰れていない左の拳を、あの時みたいに強く握りしめた。
魔法は身体感覚の延長。ヌイが言っていたことだ。
相手視点何も見えなくても、私は自分の風の中が全て分かる。
奴の腕が抉れていく。足が削れる。
残ったのは顔の半分と、胴体、心臓のあたり──。
「やっぱり……!そこだろ!!」
露出した黒い核のようなものが見えた。
狙いを定め、風で自分を押して加速する。
纏った突風が砂嵐にめり込んでいく。
「ブチ抜けえぇえ!!!!」
岩が核を守るようにしてボコボコと湧いてきた。
防がれる……!
その時、私の左腕から金色の糸が飛び出した。
その糸は核を掴んで離さない。
私の拳はそれに引っ張られるようにして核に到達する。
衝撃が腕を突き抜けた。
拳が何かを砕いた。
一気に息が上がる。今にも倒れそうだ。
けどヌイが……!
「ヌイッ!大丈夫!?もう倒したよ!」
「よ、よかった、間に合ったんだね……?」
金色の糸。あれはヌイの魔法だ。
「フウカの左半身にまだボクの魔力が残ってた……。それで無理やり引っ張ったんだ……ケホッ……」
「ありがとう……でも無理はだめだよ。」
助かった。けどもうわけがわからない。
なんで私達がこんな目に遭わないといけないの?
「ねぇ、教えてよ。影ってなんなの?なんで襲ってくるの?私から喧嘩売ってないのに……!」
ヌイは呼吸を整える。次に放つ言葉が途切れないよう、慎重に息を吸った。
岩なんかよりもずっと重たい事実を、フウカに伝えるために。
「影は、存在の裏側、この世界そのものが落とした影だ。」
「答えになってない!なんでっ……襲われなきゃいけないの……!?」
私だけじゃない。チハヤだってヌイだって、他の大勢の人たちだって、襲われていい理由なんてひとつもない。
血と涙が混ざって、最悪のマーブル模様を作り出す。
「引っ張ったゴムが元に戻るみたいに、世界の存在とその裏は戻ろうとする。逆に言えば、お互いの存在を否定し合ってる。」
「否定なんかして何になるの?!おかしいよ……私はこの世界が本当で、裏から見たら私たちが偽物ってことでしょ!?」
ヌイが黙った。
私は今、確信を突いてしまったのだろう。
でも私がこんな調子なら、きっと影の世界にもそう思ってる人がいると思う。
そう信じてる。
「どっちも本物じゃ、だめなの……?」




