第2話 センスあるじゃん
「出て来い!!!!」
「フウカ、呼んでも出てこないかもよ」
「じゃあどうやって見つけるの?」
「あいつらを影って呼んでるんだ。影は痕跡を残す。それを追うんだよ。」
そう言ってぽてぽて歩き出した。痕跡がなんなのかは私には分からなかったので着いていくしか無かった。
魔法に慣れたら私もわかるようになるのかな、とか考えながら左手に目をやる。
(風、魔法……。)
さっきみたいに起き上がろうと力んだら使えるのかな。そう考えて、まるで何かをぶん殴ってやるかのように手をぎゅっと強く握った。
すると拳は螺旋状の眩しい光を纏い、激しい風を四方八方にまき散らした。
慌てて手を開いたことでそれはすぐに収まったが、なんと最悪なことに、前髪が乱れてしまった!
「はあ……」
思わず声が漏れる。手で前髪を直しながら視線を下にやると、ぬいぐるみがひっくり返っていた。
自分で起き上がれるか不安な手足の長さをしていたので、手伝うことにした。
「ごめん、私のせいだよね。今起こすから……」
「ありがと。でも想像以上だよ、こんなに魔力があるなんて。さすがだね。」
さっきから飛び出すワードに置いていかれているような気もするが、魔力は大方魔法を使うための力ということだろう。あとでちゃんと聞かなければ。
と、ここで目の前を歩くぬいぐるみの名前をまだ聞いていないことに気がついた。
「そういえばあんた、名前は?」
「ないよ。今まで1人だったし、必要なかった。」
飛んできた斜め上の返答に困る。
しかし私は怯まなかった。ここ半年でいちばん頭をフル回転させて捻り出した私の渾身の返事は、もっと評価されるべきだと思う。
「じゃあ、ヌイ!」
「え?」
「名前だよ。ヌイにしよう!」
「なにそれ、センスないよ、あはは」
出会った時の緊張感とは裏腹に、コロコロと笑うヌイ。なんだかんだ気に入ったみたいでほっとした。
もちろんぬいぐるみだからヌイである。
そうして話していると、ヌイは突然止まって振り返った。
「この角を曲がったら影がいるよ。準備はいい?」
心に決めてある。こいつを倒して救われる人がいるならもちろん倒す。
それにヌイに弟をみてもらう為にも、ここで負けるなんてありえない!
私は強く返事をした。
「うん!」
勢いよく角を飛び出し、そいつと対峙する。
出会った時は車のような見た目だったのに、今度は四肢のある異形の形に見える。
体長も二メートルくらいあって全身真っ黒。
いかにもといった感じである。
「ヌイ!ちょっ……かなり怖い!」
「大丈夫、危なくなったらボクがサポートするから。落ち着いて、風でふっ飛ばす所を想像して!」
イメージ……イメージ?二メートル近くあるバケモノをふっ飛ばすシーンがまるで想像できない。
呆然とする私に向かってエンジン音のような鳴き声で威嚇するそれは、爪らしきものをむき出しにしてこちらに走ってきている。
そしてその凶器が振り下ろされるという時、振りかぶった地点から動かなくなった。
「フウカ!」
よく見ると影の腕には金色の糸が縫い付けられていて、びくともしていない様子だった。
「今、腕と空間を魔法の糸で縫い付けてる。大丈夫?」
「大丈夫だけど……イメージできない!普通こんなやつふっ飛ばせると思えないよ!」
その間にも奴はどうにか私を殺そうともがいている。
排気ガスの匂いに肺が支配されていく。やっぱり事故の影なんだ。
私はこいつに、殺された……。
──走馬灯。
目の前の死の気配に、私は立ち尽くすことしかできなかった。
入退院を繰り返す弟と過ごした日々、母の最期、低いベランダからの景色、三人で見た大きな満月。今日の補習、一回死んだ事、ヌイと魔法のことまで。
(風、魔法……!)
そうだ、思い出せ。ぶん殴ってやる。
拳を握りしめた途端、先程とは比べ物にならない突風を纏った。
踵で地面を思い切り押す。体重を叩きつけるように、捻った腰から拳までを一本に通す。
──バゴン。
拳はそのまま加速し、バケモノの心臓あたりを貫いた。




