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第19話 言わなきゃ

 明日こそ早起きして、今度は私からアオイを迎えに行く!

……と意気込んで目覚ましを1分刻みでセットしたのに、起きた時間はいつも通りだった。


今日も大急ぎで支度を済ませる。

なんとかアオイを迎えに行けそうだ。


チャイムを鳴らして返ってきたのは、どこか無愛想な女の人の声。


 「はい。……はい、そうですか。」


 短すぎる相槌だけ打って、アオイを呼びに行ったようだ。


少ししてアオイが出てくる。


 「うわ〜待たせちゃったかな?ごめん!」

 「いいのいいの!このために支度早く終わらせてきたんだから!」


 家から離れたくらいで、さっきのことが気になった。

ただ純粋に、雑談のつもりで聞いた。


 「さっきインターホンに出た人って、アオイのお母さん?」

 「あ〜、えっと……」


 アオイの表情が曇る。

いくら人生経験が浅い私でも、この感じは分かる。聞いちゃいけない事を聞いた雰囲気だ。


 「あ、ごめん!言いにくいなら大丈夫!ほら今日はヌイもちゃんとついてきたよ!」

 「狭い狭い狭い……」


 体操服と一緒に詰め詰めのヌイが顔を出す。


 「まあ、2人にならいっか。あの人再婚相手なの。だから他人。」


 事実を述べただけのはずなのに、そこにはアオイの感情が滲み出ていた。

いつもの呑気な感じからは程遠い、暗い響きだった。


 「教えてくれてありがとう。言わせる形になっちゃって、ごめん。」


 それより先はなんでいえば良いか分からなかった。言い淀む私に、いつもの調子で返ってくる。


 「気にしないで!言えてスッキリしたから。隠す方がしんどいよ。」


 隠す方がしんどい。私も同じだ。

でもこのタイミングで家族の話題を掘り下げることはできない。

また機会を逃してしまった。


 その日から3週間ほど経っても、私はまだ言えないままでいる。


その間いろんなまものと戦った。勉強もした。強くなっているはずなのに──


肝心なことは言えないままでいる。


枕に顔を埋め悩んでいる私を、ヌイは気にかけてくれた。


 「なんか悩み事?」

 「アオイにチハヤのことまだ言えてないの……。」


 世界云々の前にまず、チハヤを救いたい。

きっとアオイなら、私も手伝いたい、と言ってくれると思う。

……そう言って欲しいだけかもしれないけど。


 「じゃあもう、明日言いなよ。いつか言わなきゃいけないなら、そのタイミングは自分で決めよう。」


 ヌイはいつも、あと一押しをくれる。

まるで親みたいだ。

わかった!もう逃げない。


 「……ありがとう。私言うよ。」

 「うん、それがいい。」


 そして次の日、登校中は何度も言いかけてはやめた。

でも放課後──やっと切り出せた。


 「あのっ……私ね、弟がいるの。」

 「……そっか。仲はいい?」

 「え?うん。あいつ生意気だけどね。」

 「ならよかった。」


 アオイは、安心したような羨ましいような表情を一瞬だけ見せて、すぐにさっきの顔色に戻る。


 「で、その弟が……チハヤって言うんだけど。重い病気なの。」


 間が開かないうちに続ける。


 「その病気が、すっごく強いまもののせいなんだ。私はそいつをぶっ殺して、チハヤを治したい。」

 「だからえっと……その。」


 「手伝うよ。」


 少しの間があってから、アオイは言った。


「一緒にそいつ、ぶっ殺そう!見てるままなんてできないよ。それが友達の弟なら、尚更ね!」


 「……ありがとう!アオイは優しい、すごく優しい!」


 感情が先走って、語彙が拙くなる。


「私にも、アオイのためにできることがあったら、なんでも言ってね。」


 アオイの目が少し潤んだ気がした。

……夕日のせいで目が輝いて見えただけかもしれない。


 「じゃあ今度の土日、チハヤくんのお見舞いに行く……っていうのはどうかな?」

 「まって、それってまものと対峙するってことにならない!?」


 私の驚きを制すように、ずっと黙っていたヌイが口を開く。


 「多分、その心配はない。あいつは仕掛けてこない。」

 「……ヌイ?なんか知ってるの?」


 私の問いかけには答えず、そのまま続ける。


「病院となると、いろんなまもの跋扈ばっこしてる危険地帯だ。でも、それらはあいつの足手纏いにしかならない。仕掛けてくるとしたら──単騎だろうね。」


「ヌイってば……!!」


 「……分かってたんだ。」


 またあの顔。どこか曇った、悲しい顔。


 「終わったらちゃんと、話すから。」

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