第14話 本の魔法
「何、その称号……」
「そうだよ、ヌイ。そんな変なあだ名つけないであげ──」
「なんか強そう!」
ヌイは、「でしょ?」とでも言いたげに、アオイにドヤ顔を見せつける。
そしてその凄さを、つらつらと語り始めた。
その中で一つ、耳を疑うような事実を知ることになる。
「本の魔法使いは世界で一番多い。というか、ほとんどの人がその魔法を持ってる。」
「えっ?!ちょ、ヌイ!詳しく!!」
いつも難しい話は頭に入ってこない。
でも、今回ばかりはそれじゃダメだ。
「本の魔法──その本質は願いだ。手紙、日記、短冊。願いを込めた文字にそれは宿る。」
「願い……サンタさんへの手紙とか、かな?」
「でも、それで起きる変化は小さい。せいぜい“ちょっとした奇跡”くらいだよ。」
「……で、大事な法則がある。魔法が発動するのは1日に1回だけだ。」
「少なっ」
「おまけに、魔力に関係なく最低保証の力で。」
「渋っ」
「でもアオイは、そのリミッターを振り切っている。それでも今まで魔法が暴走しなかったのは、“日記”だったからだよ。」
「日記って……そんなに大きな意味を持っていたの?」
「すでに起きたことの記録だから、魔法の発動が抑制されていた。それでも絆創膏のときは、魔力が漏れ出してた。ちょっとした奇跡なんかじゃ、なかったんだよ。」
アオイはカバンから、その本を恐る恐る取り出す。
おかしなところがないか、いろんな角度から観察していた。
「その本は具現化した魔法だ。莫大な魔力によって現実になった、結晶。」
……すごいぞ私。頑張ったぞ私。全部理解できた。本の魔法も、アオイのヤバさも。
──そして、今の自分の限界も。
「って、ことらしいよ……フウカちゃん?大丈夫、頭痛い……?」
「ううん、大丈夫……。それよりも、アオイはいいの?」
「うん?」
アオイは首を傾げる。
今度は君の番だと言わんばかりに、ヌイは黙って私を見ていた。
「さっきの戦い、見たでしょ?あれが魔法少女になるってことだよ。」
本当はアオイと友達になって、なんなら一緒に魔法少女もしたい。
……けど、口から出る言葉はそれを止めようとするものばかりだった。
多分、自分が欲しかった言葉だったと思う。
「魔法少女になるってことは、世界の歪みと対峙するってことなんだよ?現実をねじ曲げるなんて重すぎるし、無理して背負う必要なんてない。それに、死ぬかもしれない……。」
──そう、死ぬかもしれない。私は1回死んでいる。
痛くて、暗くて、怖かった。
ついさっきも殺されかけたばかりだ。アオイには同じ目に遭って欲しくない。
「フウカちゃん、」
アオイはいつのまにか俯いていた私の顔に、右手をそっと寄り添わせる。
「1人で背負わないで……いいんだよ。」
気づいた時には、泣いていた。
今の自分じゃ理不尽に襲われていく人たちを助けられない。できたばかりの友達すら守れなかった。
チハヤの件だって、まだ何も進んでいない。
「フウカちゃんはすごく優しい。でもそのせいで苦しんじゃだめ。その重荷、私にも背負わせてよ。」
はっとして顔を上げる。
アオイの目は潤んでいた。
「アオイだって、優しいじゃん……。」
「そうだね、私も優しいかもね。」
なんて、少し誇らしげに言う。
手に持った本をひらひらさせて、無邪気に笑った。
「それに、誰かを救えるならそうしたいよ。今こうして2人とお話しできたのも、魔法があったおかげでしょ?」
「……じゃあ、いいの?私と魔法少女になっても。目標は桁違いで、イカれてるよ。」
「フウカ……そんなに自分を卑下しないで。ボクもそうするって、2人で決めたんだから。」
「じゃあそれ、今日から3人ね!」
──こうして、私たち3人は、
仲間で、魔法少女で、友達になった。
「……で、その。桁違いでイカれてる目標って、どんなの?」




