第12話 マジか
風魔法はだめだ。
教室内の空気で戦っても量が足りない。
この中で竜巻なんて起こしたら、それこそ地獄絵図だ。
考えてる間にもそいつは机や椅子をかき分けながら、ジリジリ距離を詰めてくる。
まるで確実に仕留めるみたいに。
攻めきれない理由があるのか……?
いやそれよりも、あいつは机と椅子を貫通してない。炎なら通り抜けられるはずだ。
──違う。
あれは炎じゃない。
質量を持った、物体……!
私は一番近くにあった椅子を影に叩きつけた。
鈍い音が教室に響く。
(効け、効け!)
影は後ろに大きくのけぞった。
効いてる……!
その隙にドアまでの道を視線でなぞる。
そもそも場所が悪い。外だったら一瞬で吹き消せる。
だったら……
「逃げて!外まで走って!!」
「フウカちゃんっ、ドア、開かないっ……!」
マジか。こいつ勝ち方が卑怯すぎる。
チッ……と舌打ちしかけて飲み込む。こんな時まで印象を気にしちゃう……!
視界の外でガラガラと散乱した机をかき分ける音がした。木材の焼ける音が爆発的に大きくなる。
いやこれは、近づいてる。
(まずい、目を離し──)
私は咄嗟に、机の下に潜り込んだ。
(てねーよバーカ!)
「ガンッ」という音が、私の判断の正解を知らせる。それでも奴は机ごと私を押し潰す気だった。
裏の金属に腕を押し当てて、下から風を叩き込む。
ぐんと持ち上がる感じに勝機を見い出す。
「ヌイ、なんとかドア開けられない!?鍵穴をカチャカチャさ……!針とかで!!」
「やったけど、もう開いてるみたいなんだ!」
「でもさっきフウカが殴ったとき、一瞬だけ指くらいの隙間はできてた!!」
……そういうことね。
勝たなくていい、弱らせれば出られる。
そうすればこっちの勝ちだ。
より一層力が入る。
どんどん押し返して、ちょうど互角くらいになったところだった。
急に軽くなって机が弾けるように飛び、黒板に突き刺さる。
今までの動を全て静に帰すように、チョークの粉がゆっくりと舞った。
こいつらはいつも卑怯だ。勝てると思った方を先に殺ろうとする。
「ヌイ!アオイ!!」
影が両手を突き出して2人に襲いかかる、その瞬間。
「キャーーー!!」
と、悲鳴をあげながら、アオイは持っていた辞書みたいな分厚い本を振り上げた。
本は一瞬で人の丈ほどまで巨大化する。
(でっっっっか?!)
本は影を押しつぶすように、開きながら叩きつけられた。
爆音と風圧が、教室中を覆い尽くす。
砕けた床のタイルがこっちまで飛んできた。
天井が抉れて、白い粉がパラパラと降ってくる。
そいつの気配は完全に消えた。
……核ごとやったんだ。
「「え……?」」
ヌイと私は絶句。
開いた3畳ほどの本は、光の粒とともに元のサイズに戻っていく。本の形に合わせて床が数センチ凹んでいた。
「フウカちゃん、ヌイちゃん、」
アオイは小さくなった本を、震える指で示す。
目を見開いたまま、信じられないものを見たような顔で私たちに訊く。
「これが……ま、魔法、なの?」




