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【完結】二振りの剣と星の航跡 〜次元を越え、時を超える少年の物語〜  作者: @SsRay
青年編 星の使命

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ep31.帰路ー世界を救ったもの達ー

 決勝戦の熱狂が冷めぬ、夜の酒場。

 喧騒のなか、ベガが重厚なジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた。その目は冗談を言っているようには見えない。


「……で、最後のアレは何だよ、シリウス。あの力の使い方、本当はもう分かってんだろ?」


 ミラとスピカも、食事の手を止めてシリウスを見つめる。シリウスは自分の掌を見つめ、静かに、だが確信に満ちた声で答えた。


「ああ。……集中して、心の雑音を消すんだ。『無心』。それが、あの『星を守る力』を引き出す唯一の鍵だった」


 その言葉に、ミラが小首をかしげてふわりと微笑んだ。


「『無心』、か……。なんだか、一番しっくりくるわ。私、戦ってる時って、なんだか頭の中が真っ白になって、世界がすごく綺麗に見えるの。あ、今の変だったかな?」


「いや……変じゃねえよ。それがお前の強さの正体なんだろうな」


 ベガが感心したように笑った。酒場を出た一行は、月明かりの下で足を止めた。シリウスの導きに従い、四人は静かに目を閉じ、己の内側へと深く潜っていく。


 刹那、夜の闇を塗り替えるほどの眩い蒼光が爆発した。シリウスだけでなく、ベガの大剣、スピカの槍、そして誰よりも透明な光を纏ったミラの拳。全員が、それぞれの魂に宿る『星の力』を同時に発動させたのだ。


「これなら……ブラック達4人とも、……」


 ミラが、自分の拳に宿る星のような輝きを不思議そうに見つめて呟く。しかし、シリウスの視線はその先、遠く険しい故郷の山へと向けられていた。


「この力の本当の意味を知らなきゃいけないんだ。僕が赤ん坊のとき、あの山で僕を拾ってくれたじいさんとばあさんなら……僕をこの世界へ送った『向こう側』への入り口を知っているはずなんだ」


 シリウスは、自分の中に眠る異世界の記憶に触れるように胸を押さえた。


「行こう、あの山へ。二人のところへ」


    ◇


 翌日。辿り着いた故郷の光景に、シリウスは息を呑んだ。


「……え?」


 修行の日々を過ごした、ボロボロだが温かかった我が家は、跡形もなく消え去っていた。そこにあるのは、ただの更地。

 そして、寄り添うように並ぶ二つの真新しい墓石だった。


 剣聖・ゼノス ここに眠る。一振りの重みは、世界を背負う一撃。


 聖拳・エルナ ここに眠る。その拳。砕けぬものなし。


 墓石には『世界を救った英雄』という、シリウスの知らない称号が深く刻まれている。

「……死んでる? そんな、本来なら5年は経っているはずだが……大体、この異名は何なんだ!? ゲートの時間を考えると…… まだ……」

 スピカが顔を伏せるなか、ベガが墓の裏側に異変を見つけた。


「おい、これを見ろ! シリウス、お前が旅立ったっていう一週間後じゃないか?」

 墓石の日付には、シリウスの旅立った一週間後が記されていた。

「一週間! そういうことか……。俺を10歳で送り出したのはそういうことだったのか。だけど、これじゃ何の手掛かりもないじゃないか……」

「ここへのゲートは過去を選べないゲートだった」

「過去にさえ行くことができれば……」

「——」




 そのとき、墓石の背後、空間が歪み、吸い込まれるような光の渦――次元ゲートが口を開けた。

「お前のじいさんたちが呼んでるのかもしれないな」

 シリウス達は迷わず、導かれるように無言でその渦の中へと足を踏み入れた。


    ◇


 ゲートを抜けた先。そこは、シリウスがよく知る我が家だった。だが、目の前にあるのは、建てたばかりと言わんばかりの白木の香りが漂う真新しい屋敷だ。


「おいおい、こんな山奥に家を建ててどうするんだよ」

「いいだろ、ここなら静かに隠居できる」


 そんな快活な話し声と共に、屋敷から四人の男女が現れた。

 シリウスは息を呑む。そこにいたのは、腰が曲がる前、覇気に満ち溢れた若き日のおじいちゃんとおばあちゃんだった。さらにその傍らには、鋭い眼光を放つ女槍使いと、岩のような体躯の男の大剣使いが並んでいる。


「……もしかして、ゼノスおじいちゃんとエルナおばあちゃん?」

「私はカミラだよ。こっちのでかいのが、アルガだ。おい、ゼノス、エルナあんたらいつの間に子供を作ったんだい?」

「何言ってんだよ、お前たちとこの前まで世界を旅して、全員で世界を救った後、一緒に家を建てたんだろ」

 奥から痩せたおじいちゃんの目と同じ青年が表れた。

「そんな暇がどこにあるっていうんだよ」

 その横に、おばあちゃんの顔立ちのムキムキの女の子が横に立っていた。

「この人が、剣聖のゼノスと聖拳のエルナさんで、シリウスのおじいちゃんとおばあちゃんってこと?」

 腰のシリウスの星の剣の様子をゼノスがちらっとシリウスに、エルナはミラに、カミラはスピカの槍を見てスピカに、そして、大男のアルガはベガの大剣を見て不敵に笑った。

「えっと、会えてよかった。何から話せばいいのか全然わからないや……」

「順を追って話しましょう」

 困っているシリウスをミラが整理させ、シリウス達4人は自己紹介と、それぞれの出会いやブラックや星を破壊する破壊者について話をした。


 それと、自分たちが未来から来たこと、世界を闇に染めようとするブラックの脅威、そして星を守るために修行が必要であることを一気に伝えた。


 若き英雄たちは顔を見合わせると、新築の祝杯を置いた。

「未来の弟子に泣きつかれちゃ、隠居も返上だな。……よし、世界を救った『重み』、お前たちに叩き込んでやるよ! ついてきな。シリウスっていったか?」

「よろしく頼みます」

「まあ、おまえにこの力はまだ早いかもしれないな。俺の一撃を受け流してみな」

 修行は、地響きを伴う実戦となった。

 おじいちゃんが抜いたのは、一振りの質素な鋼の剣。だが、構えただけで周囲の空気が重圧で押し潰される。

 シリウスは星の剣を一刀流で構えると、ゼノスはシリウスへ軽い一撃を走り込みもせず、歩くようにシリウスへと踏み込んだ。シリウスは軽く一刀流で両手で受け流そうとしたが、その軽いふりの剣が異常な重さを持っていた。シリウスは両手で支えきれず、瞬時に押し負けそうになるところで、二刀流へと切り替え、更に重力を乗せた連撃を交互に受けてない方の剣を滑らせ突き技以外の8つの型を組み合わせ、何発もの重力連撃を叩き込み、物理的な重みをこれでもかとぶつける。しかし、おじいちゃんの剣は微動だにしない。むしろ、シリウスが渾身の力で振るう二刀が、おじいちゃんの『ただの一振り』にジリジリと押し返されていく。


「な、なんだ……この重さは!? 重力魔法じゃない、もっと根源的な……何かが違う」


「これが、世界を背負うということだ!」

 ゼノスはニヤリと笑うと、シリウスの方へその軽く降った一撃を更に重みをかけてシリウスの方へと押し込んできた。

「くっっっ」

 おじいちゃんに剣を貰ったときのことを思い出しながらその一撃を放った。

「――これが、俺の、『心の剣』だ!!」


 シリウスは二刀を投げ捨て、胸の前にある『心の剣(大剣)』の柄を両手で強く握りしめた。その答えを聞いたおじいちゃんは、一瞬だけ満足そうに口角を上げた。

 少しだけその一瞬、ゼノスの片手で放たれた一撃を押し戻そうとしたが、それは一瞬だけだった。シリウスの剣は軽々と押し込まれ、シリウスを後ろに下がらせた。そこで、ゼノスは笑いながら剣を収めた。

「俺が育てた子供か。中々いい線行ってたぜ、世界を背負う重みってのはこういうもんだ。おまえの剣は確かに『重い』のかもしれない。だが、心を込めた確かな一撃が俺の『思い』だ。どんな重い剣でも、巨大な剣でも気持ち次第で重さは変わる。ただの鉄の棒でも、どんな威力の剣にも、気持ち一つで折れない剣になる。その『思い』は気持ちが勝れば絶対に押し負けることはない」

「おもい?」

「おまえの気持ちを剣に込めろ。俺の育てた子供なら出来るはずだ。まあ、今、出来なくてもいい。世界の『思い』を理解したその時、使うべきときに使えるようになればいい。おまえならそのうち出来るさ」

「おじいちゃん。いや、ゼノスさん。もう一度さっきの剣の重みをその『思い』を感じさせてほしい」

「フッ。いいだろう」

 シリウスは集中し、星の守護者のちからを発動させた。そして、ゼノスの剣を青いオーラを放ちながらその思いをその重みをしっかりと受け止めるのだった。


    ◇


「ミラちゃんあんた。武道の素質があるね。私の拳を軽く教えてあげる。おばあちゃんになってしまったら教えられないだろうからねぇ」

 ミラは本気で星の守護者の力を発動させ、ミラの体が点滅するような強弱のある赤い光のオーラを纏い、エルナおばあちゃんにその拳を教わろうと必死にいつもの科学銃ではなく。星の守護者の力で、強烈な赤いオーラを放ちながら、エルナへと拳を突きつけた。

「見込んだ通りだね。だけど、力のまとまりにばらつきがあるねぇ」

 そう言うと、ミラの拳を同じ正拳で弾き返す。連撃になるが、ミラの拳を越える威力でエルナは拳に拳で返しつつも、ミラの方へとその威力を押し返してきた。

「ほらほら。まだまだいくよ!」

「はい」

「どうしたんだい? あんたの心を拳に込めるんだよ!」

 ダンダンダンと殴り合う音が山の中で響き、ミラが集中し、その拳と拳がぶつかり合うことで、徐々に理解し、集中しつつ、その拳に力を込めていった。


    ◇


 ベガが深く息を吸い込むと、全身から眩いばかりの黄色いオーラが噴き出した。星の守護者の力と、彼自身の魔力が融合し、周囲の空気がビリビリと震える。

「……行くぞ」

 次の瞬間、ベガの姿が消えた。

 雷鳴のような轟音と共に、黄色い閃光がアルガの視界を駆け抜ける。

「……速いな」

 アルガが呟いた瞬間、ベガは大剣を振り下ろしながら、アルガの背後に現れた。

「オラァァァ!」

 渾身の一撃。しかし、アルガは微動だにせず、ただ背後を振り返ることもなく、片手でその大剣を受け止めた。

「な……ッ!?」

 ベガは目を見開いた。

「速さは認めてやる。だが、その速さにこの重みを乗せてみな!」

 アルガが大剣を軽く押し返すと、ベガはオーラごと吹き飛ばされた。

「……くそッ!」

 ベガは受け身を取りながら、地面に足をついた。

「どうした? それが貴様の全力か?」

 アルガが挑発する。

「……まだだ!」

 ベガは再び黄色いオーラを纏い、雷の速度でアルガに襲いかかった。

「――!」

 ベガはアルガの言葉を反芻しながら、剣を振り続ける。しかし、アルガの防御は完璧だった。ベガの攻撃は全て受け流され、その度にベガは吹き飛ばされた。

「……まだまだッ!」


    ◇


 一方、静寂に包まれた広場では、女槍使いカミラがスピカと対峙していた。


 カミラの構えには一切の隙がなく、ただ立っているだけで獲物を狙う神速の鷹のような鋭さがある。


「あんた、槍の筋は悪くない。けど、まだ『迷い』が刺突を鈍らせてるね」

「……迷い?」


 スピカが反芻するように呟く。彼女は深く息を吐き、内なる星の力を呼び覚ました。


 スピカの槍に宿ったのは、鋭利で澄み渡るような青白い光。それは触れるもの全てを貫通する、高密度のエネルギー体へと変貌する。


「私が見せるのは一度きりだよ。あんたが辿り着くべき、槍の到達点だ」


カミラが地を蹴った。


次の瞬間、スピカの視界から彼女の姿が消えた。

「奥義・星穿ほしうがち!」

それは「走る」という動作を置き去りにした、文字通りの閃光だった。


 カミラの突き出した槍が、音速を超えて大気を切り裂き、スピカの頬の横を通り抜ける。遅れてやってきた衝撃波だけで、背後の巨岩が粉々に粉砕された。


「……今のは、ただの突きじゃない。空間そのものを最短距離で繋いだ……?」

「気づくのが早いね。自分の『意志』を槍の先に尖らせな。世界で一番速いのは、あんたの思考なんだから」

 スピカは震える手で槍を握り直した。


 今見た、光をも追い越す一撃。その残像を脳裏に刻み込み、彼女は再び構えを取る。その瞳には、先ほどまでなかった確かな「確信」が宿っていた。


    ◇


 修行を終え、別れの時が来た。

 過去へのゲートは、役割を終えるように静かに閉じ始めている。シリウスは、若き日の二人に最後の依頼をした。


「じいちゃん、ばあちゃん。俺を拾うことになる『あの場所』の地図を、どこかに埋めておいてほしいんだ」

「なら、ここだ!」

 ゼノスは、新築の家の少しはなれた位置を指差した。

「分かった。また来れたら会いにくるよ」


 元の時代へ戻った一行は、シリウスがかつて拾われた、あの山の一角を掘り起こした。

 土の中から現れたのは、時を経ても朽ちない魔法の袋に入った一通の手紙。


 そこに記されていたのは、おじいちゃんが10年前に見つけた『俺を転移させてきた次元のゲート』だった。

 その場所に向かうと確かな黒いゲートが口を開けていた。


「これって……もしかして、シリウスの本当の親がいる場所へのゲート……!?」


 全員の声が震える。

 光の先に開いたのは、これまでとは違う、シリウス自身のルーツへと繋がる巨大な次元の門。

 四人は頷き合い、新たな、そして最も過酷な旅路へと一歩を踏み出した。



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