ep20.因果を穿つ三色の星光
鼓膜を叩くのは、不気味にうねる魔力の咆哮。黒の魔導士が、その指先にドス黒い「憎悪」を凝縮させていた。
「(……動けない……っ!?)」
あまりの剣の重圧に身体が石のように強張る。その隙を突き、死の光線が放たれようとしたその瞬間――。
「シリウス、後ろッ!!」
ベガの怒号と同時に、鼻先で鮮烈な閃光が炸裂した。
――チュドォォン!!
ミラの放った「強化徹甲弾」が、物理的な衝撃波で魔術の軌道を強引に捻じ曲げ、相殺する。
「……っ、助かった、ミラ!」
「お礼は後! それよりシリウス、それ《ペンダント》!!」
叫び声に導かれ視線を落とすと、そこには旅立ちの日に託されたペンダントがあった。
それは今、心臓の鼓動を上書きするような激しい脈動を伴い、視界を白く染め上げるほどの熱量を放ち始めていた。
「なんだよ、この光は……」
「まさか、子供の頃の……あの力が!?」
シリウスは咄嗟に、師匠が語っていた《《ミラの過去》》を思い出した。力が暴走し、意識を失ったというあの話を。
「ミラ、大丈夫か……っ!」
案じた次の瞬間、彼女の身体から《《紅蓮の光》》が噴き出した。風もないのにツインテールが重力に逆らってゆらゆらと踊る。
呼応するように、シリウスの身体からは《《青の輝き》》が、そしてベガは《《黄金の稲妻》》を纏って宙へと浮き上がった。
「理屈は分からねぇが……いける。一気に突破するぞ!」
「へっ、よくわかんねぇが最高だ。このクソみたいな戦況、まるごとひっくり返してやるぜ!」
ベガが虚空を指差す。
「――虚空の雷禍!!」
黄金の雷光が地平線までを焼き払い、城壁へと続く一本の光の道を切り開いた。
ミラがバイクに飛び乗り、スタートブーストのトリガーを引く。シリウスはその背後を守るように、二刀を構えて無造作に、だが最速の軌道で振るった。
「――星破・蒼穹斬!!」
放たれた青い刃は、文字通り星をも撃ち抜く威容で空中の魔導士たちを両断する。
(……子供の頃は振るうだけで精一杯だったのに、本来の力は、ここまで強いのか……!)
空中を並走するベガが不敵に笑う。
「雑魚掃除は俺に任せな! お前のその奇想天外な剣、どうにかする方法あんじゃねぇか」
「ああ! ミラ、全開突破だ! 止まらずに駆け抜けるぞ!!」
「バリア展開! 飛ばすわよ!! 振り落とされないようにね」
「落ちたら俺が拾ってやるよ!」
だが、草原の中間地点――因果の淀みが最も濃い場所で、ソレは待っていた。
かつて俺たちを襲ったあの魔獣。いや、それ以上に禍々しい《《黒い影》》を纏った絶望の化身。そいつは巨大猿のような見た目で、ものすごい俊敏にバイクに追いついてきた奴だったが、今。目の前にいるそいつは、漆黒の影のような凶器に溢れた姿をしていた。
シリウスとミラを乗せたバイクは、そいつを振り切って駆け抜けようとそいつの横をすり抜けようとした瞬間――。
「速いっ!?」
バイクのブーストすら置き去りにする速度で、魔獣が横腹に突進してくる。
――ドォォン!!
「きゃあぁぁ!!」
「うわあああぁっ!」
強固なバリアすら紙切れのように引き裂かれ、俺とミラはバイクごと吹き飛ばされた。
空中で体勢を立て直そうとする俺の視界で、粉塵の中から《《苛烈な真紅の光》》が爆発した。
粉塵の中、大破したバイクをアイテムボックスへ収容し、その場に立ち尽くすのは――ミラだった。
「……許さない」
静かな、だが大地を震わせるほどの怒りを込めたミラの声。
科学銃を捨て、拳を固めた彼女の姿は、いつものエンジニアではなかった。
襲いかかる魔獣の拳に合わせ、ミラが地面を蹴り、ものすごい速度で黒い猿へと突進する。小さな体の2倍はあるそいつの拳にミラの拳が炸裂した。
「――爆星拳!!」
赤い衝撃が炸裂し、黒い野獣の腕を内部からマグマのような熱量で破壊し尽くす。
しかし、魔獣も負けじと闇の波動を放ち、両者の拳は互角のまま拮抗した。
「ベガ、ミラを頼む! 俺は先に行く!」
「はあ!? 水臭ぇこと言ってんじゃねえよ!」
「いや、俺の予想だが、こいつらは倒しても無限に復元する『因果のバグ』だ! ここで足を止めるわけにはいかない。俺が魔法大国を叩けば、歴史は変わる! この世界の住人にはこいつらは見えていなかった。俺たちがやるべきことはこいつらの相手をすることじゃない。この世界を変えることが出来さえすれば、3年後の未来を変えられるんだ」
「……ちっ、分かったよ! 周りの雑魚どもは俺が消してやる。……行け、シリウス!」
「悪い、助かる! ……道は、俺が作る!」
シリウスは剣に絶対零度の魔力を乗せ、凍てつく地面へと突き立てた。
「――アイスフィールド!!」
刹那、草原の半分が純白の氷原へと変貌する。
シリウスは氷の上を弾丸のごとき速度で滑走し、驚愕する魔獣と黒い兵士たちの間をすり抜け、遥か彼方の城門へと消えていった。




