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【完結】二振りの剣と星の航跡 〜次元を越え、時を超える少年の物語〜  作者: @SsRay
青年編 黄夏星(おうかせい)と緑春星(りょくしゅんせい)

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ep18.剣士の大国と希望を乗せた3年前へ

 銀色のボディが草原の風を切り裂き、ベガの放った電光の残光が地平線へと消えていく。シリウスは安堵の息を吐きながら、懐に収めた『聖樹の紋章』の感触を確かめた。


「解放軍の話じゃ、剣士の国の現況もミラと俺が吹き飛ばしたあの男……あいつの影一人の独裁状態だったらしい。まずは、その男が実権を握る前の『空白の三年間』に何があったのか。それを知る者に会う必要があるな」


 ミラの力作である『鋼鉄の野獣』は、やがて草原の境界を越え、峻険な岩山に囲まれた「剣士の大国」の領域へと足を踏み入れた。時計の針はまだ昼を少し過ぎたところだ。


「……ミラのこのバイクがなけりゃ、今頃はもう夜になってたはずだ。助かったよ。それに乗りごごちも広さもすごいなぁ」


 シリウスが感心したように、真ん中の操縦席の左右に広い座席が2つ用意されているバイクの右側の座席を降り、超硬剛ゴーレムの素材で作られた頑強なフレームを叩く。すると、運転席の丁度後ろにある広い後部座席で足を組み窮屈そうにしていたベガが、思い出したようにミラに問いかけた。


「ミラ、あの世界のクエスト報酬……もしかして、全部このバイクにつぎこんだのか?」

「違うわ。これは作品の一部よ! 他にもあるけど他のものは作成中! テストもまだやってないから、使うのは危険よ」

「そいつは危なそうだなっと」


 ベガがバイクと言いようがないような豪華な後部座席から 飛び降る。

「シリウスじゃあ俺は、その辺で退屈しのぎでもしてるぜ。城の中は窮屈だからな」

「まあ、しかたがないな。俺とミラで行ってくるか」

 

「私はこのバイクを改造するわ。バリアも取り付けたい」

「バリアなら、あの魔物に襲われても大丈夫な位の奴を頼むぜ」

「うん。そうするつもり」

 

「わかった。俺一人でさっさと情報収集してくるよ」

「そういえば、ベガ! こっちの世界じゃお金使えないはずだぞ。物々交換か、クエスト報酬で稼ぐしかない」

「ああ。このアイテムボックスに適当に売れそうなものは入れてある。何とかするさ」

「問題は起こすなよ!」


 シリウスは自分の役目をさっさと終わらせようと紋章を手に一人城へと向かうことにした。


 魔法大国の幻想的な雰囲気とは対照的に、この国は重厚な石造りの建物と、至る所に突き立てられた剣の記念碑が並ぶ、質実剛健なたたずまいをしていた。

 しかし、ここもまた戦争の傷跡は深く、街を行き交う騎士たちの鎧は煤け、人々の表情には疲労が色濃く張り付いている。


 シリウスはセレスから受け取った地図を頼りに、王宮の正門へと向かった。城の入り口。一人の老剣士が、片目を失った鋭い眼光でシリウスを見据えた。

「待て。今は取込み中だ。どんな用だ?」

「俺も解放軍のハンスがいるうちに用を済ませたいんだが? 戦争が終わって、ことの発端と思われる敵の影が俺たちが現況を倒したときに同じくらいのタイミングで消えたと解放軍からの情報があったが、本当か?」


「解放軍? もしかして、先代近衛騎士団長ハンス殿のことか? ん?……聖樹の紋章だと?」


  シリウスが手に持っていた紋章に片目の兵士が気づいた。

「ああ、魔法大国で貰ってきた紋章だ。こっちの国でもこの紋章を知っているのか?」


「その紋章はこの世界での勇敢なるもので、政治や権力に関係なく立ち入る権利を示している。3年前までは両国で渡すと決めたときに両国の国旗が入った紋章を渡すという約束の元、貰ったものはかつての勇者しかおらぬはずじゃが、お前が別の世界から来たという3人の一人か。王からお前を通すように聞いている。王様の元へと案内しよう」


 シリウスを王の元へ案内するために城の入り口から城の中を一歩一歩王の元へとあるいていく。


「両国の信頼の証か。そういう意味合いを持った紋章だったのか。3年前でこの紋章を見せたところで信頼してもらえるのか心配になってきたなぁ」


 老剣士が、吐き捨てるように言葉を継ぐ。


「3年前だと? 3年前だったら、お前も知っているだろ。その紋章を持っているものは初代勇者しかおらぬはずじゃ。戦争の前に両国の正解を平和へと導いた初代勇者が両国共に死亡し、この国の王子も殺されたんだ」


「初代勇者が死亡しただって!? その情報は初耳だ」

「ハンスに聞くといい。彼は王の側にいて、王子が殺される日も王と王子の側にいた男だ」


 老剣士の手引きで通された謁見の間には、魔法大国の王と同じく、三年間の心労でやつれ果てた剣士の王が座していた。


「……王様、そして先代の騎士団長。例のものを連れて参りました」

 老剣士の紹介に、シリウスは一歩前へ出た。


「俺は三年前の事件を防ぎ、この悲劇を終わらせに来ました」


 その言葉に、王よりも先に反応したのはハンスだった。


「若造、寝言は寝て言え。過去など変えられぬ。変えることができぬからこれだけ心を痛めておるのじゃ」

「いいえ、変えてみせます。そのために、三年前のあなたたちが俺を信じてくれるための『鍵』とこの国で起きたことを事細かに教えてほしいんです。あなたたちの想いは俺たちが繋ぎます。俺は二刀流使いだが、心に一本の剣を持っている。その剣が折れない限り俺はあきらめない。それに、俺達なら変えられるのだとしたら俺はその希望を叶えたい。それに、剣と魔法が栄えた『今』を俺は見てみたいんだ。これが俺の本心だ」


 シリウスの真っ直ぐな瞳に、ガラムはフンと鼻を鳴らし、シリウスの耳元で小声で呟いた。

「……面白い。ならば、三年前のわしにこう言え。『裏山の古木の根元に、お前が十歳の時に埋めた木剣がある』とな。それはわしが騎士を目指した時の原点……王ですら知らぬ秘密よ」


 紋章の信頼が彼にここまで信頼された証拠だろう。王もまた、深くため息をつき、自らの話し合いの最中にシリウスに手渡した。

「……もしお主たちが本当に過去へ行くというのなら、三年前のわしにそれを見せよ。この手紙にはわししか知らぬ内容が書かれておる。それに、その紋章……それはわしも承諾した証じゃが、過去へ行くというのならその手紙もあったほうがいいじゃろう」


「亡くなった勇者について知っている情報があればいいんだが……」

「悪いな。この国の勇者ガラム殿は、城の裏でいつの間にか何者かに殺されていたのを発見されたという情報しか提示することができない。皆、憎しみ合い狂ったように戦争に固執していた為、遺体があったことしかわかっていない。王子と王女の国を結ぶ結婚に、俺たちはこのような憎しみ合う戦争を企むものがいたことにすら気がつかなかった。三年前、あの男が突然やって来るまではな」

「城の裏か。それと、魔法大国側にも勇者がいたと聞いたが。俺たちにとっては初耳だ。何か知っている情報はないか?」


「魔法大国の勇者は病気で5年前に亡くなったと聞いている」

「そういうことか。3年以上前か。なら俺達にはどうしようもないかもしれないな。魔法大国及びこの国の思いを乗せて3年前のその事件を俺たちは変える為に、この世界を旅立つつもりだ」


「聞いていた通りだな。その紋章を受け取るに値する男じゃ」

「頼んだぞ青年」


(この未来で教えたところで意味をなさない気もするが……一応名乗っておこう)

「俺の名前はシリウスだ」

「覚えておこう」


 シリウスは城を後にした。

 

 必要な情報はすべて揃った。


 セレスの家族写真、剣士の王の手紙、ハンスの木剣、紋章。


「……よし。これで情報収集は完了だ」


 シリウスはベガとミラに合流しこの国の作りを今のうちに確認しておく必要がある。まずは仲間と合流するため、城下町の方へ向かった。


 人だかりの中心で、ベガは不敵な笑みを浮かべていた。


 彼がこの騒ぎを起こした理由は単純明快、「賭け」で路銀を稼ぐためだ。相手はそれなりに腕の立つ兵士だったが、木剣を構えた実戦形式の勝負は、数分もしないうちに一方的な展開へと変わっていた。


「おいおい、そんな大振りじゃ、俺の影も踏めねえぜ」


 ベガは木剣をまともに交わすことすらしない。騎士が重い一撃を放つ瞬間に懐へ潜り込み、剣を持っていない左手で相手の肘を跳ね上げ、流れるような動作で軸足を払う。


 ドサリと無様に転がった兵士の胸元を、ベガは無造作に足で踏みつけ、完全に身動きを封じてみせた。


「……っ、貴様! 剣を使わず、手足を使うなど、卑怯な……!」


「戦いに『卑怯』もクソもあるかよ。倒れた方が負け。……だろ?」


 ベガは冷たく言い放つと、周囲の観衆から巻き上げた賭け金――この世界の硬貨をジャラリと手中に収めた。


「俺の勝ちだ。文句はねえな」


 受け取った硬貨を指先で弾きながら、ベガはふと思い出したように、支払った男に問いかけた。


「……三年前でも、この金は使えるか?」


「……? ああ、三年前だろうが十年後だろうが、この国の通貨は変わらん。使えるに決まっているだろう。この国は三年前から時が止まってたようなもんだ。何も変わらねぇよ。失ったもん以外はな」


 男の答えを聞き、ベガは満足げに鼻を鳴らした。

さっそく近くの屋台で、香ばしい匂いを漂わせる串焼き肉――この世界のファーストフードをいくつか買い込み、呆れ顔で近寄ってきたシリウスに一つ放り投げる。


 二人は肉を頬張りながら、城下町の様子を静かに観察して回った。


 三年前と変わらぬ活気、聞き覚えのある鐘の音。しかし、彼らの足は自然と「目的地」へと向かう。かつて勇者の遺体が安置されていたと言われる、城の裏手の静まり返った広場だ。


 石畳の隙間に生える苔や、城壁に刻まれた古い傷跡。一つ一つを確認するように歩く。


 三年前の世界であるという確信と、それゆえの奇妙な不気味さが、彼らの胸に薄暗い影を落としていた。


 暫く城の周りを確かめた後、ミラの元へと向かった。


「ミラ! バイクの改造は終わったか? 今日はこの国で一晩過ごそう。三年前に移動したらまた夜だろうからな」


「丁度終わったとこよ! あ、ここで過ごすのもいいけどお金は?」


「たんまりあるぜ! おごってやろうか?」


「よし、宿泊で決まりだな」


 その晩、城下町の宿で一夜を明かした。ベガが隣の部屋で早々にいびきをかき始めた頃、シリウスとミラは宿のバルコニーから、静まり返った夜空を眺めていた。


「ねえ、シリウス。三年前の空って、どんな色をしてると思う?」


 ミラが手すりに顎を乗せ、降るような星屑を見上げて呟いた。


「今見てるこの星空と、何一つ変わらないはずなのに……なんだか、もっと遠い場所にあるような気がして。時を遡るって、そういうことよね」


 シリウスは隣で腕を組み、夜風に吹かれながら答える。


「そうだな。物理的な星の位置は変わらなくても、俺たちの『記憶』にあるこの空は、もっと切実なはずだ。この国で、何が起きたのか……それを確かめに行くんだからな」


「……そうね。でも、不思議だわ。三年前の今夜、私たちは別の場所で別の空を見上げているはず。明日、私たちが三年前の草原に降り立ったら、この夜空はそのまま『三年前の空』に変わる……。なんだか、星の巡り合わせに導かれているみたいじゃない?」


「ああ。明日の《《夜》》、俺たちが立っているのは過去の草原だ。そこに見える星が、俺たちを歓迎してくれるか、それとも拒絶するか……」


 シリウスはふっと表情を和らげ、ミラの肩を軽く叩いた。


「ま、どんな空だろうと、ミラのバイクがあれば切り抜けられるさ。明日に備えて、少しは休んでおけよ」


「ふふ、任せなさいって。最高の仕上がりなんだから」


 翌朝。昇り始めた朝日に背を向け、彼らは決意を固めて街を出る。


 目指す場所は、すべての始まりであり、因縁の地。

あの「三年前の草原」へと、ミラの改造されたバイクで向かうのだった。

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