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祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―  作者: 酒の飲めない飲んだくれ
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第118話:あなた専用の武器


その夜、家は静まり返っていた。


リネアは自室で早めに休んでいる。

隣の部屋から微かに寝返りの音がするくらいで、あとは何も聞こえない。


俺だけが目を開けていた。

胸の奥がざわついて、眠れなかった。


俺の中で色々な事が……全部ごちゃ混ぜになって、落ち着かない……。


「……」


小さな木箱を取り出し、蓋を開ける。

自分でここにしまったはずの“それ”が、中で静かに光っていた。


――青い、硝子のイヤリング。


手に取ると冷たくて、けどどこか温かい。


(……なんでだ……)


理由もないのに、喉の奥が詰まる。

見つめているだけで胸が軋む。


持ち主の名前も、記憶も、何もないのに。

このイヤリングを視界に入れるだけで、胸が苦しくなる。


最近…、決まった夢を見ていた……。


(……夢の中の、あの赤い髪の……騎士……)


剣を教えてくれる腕。

火のような髪。

凛とした背中。

そして――俺を呼ぶ声。


“ナイル”ではない名前で。


何も覚えてないのに、

なのに夢の中の俺は、

その赤髪の騎士を――


(……大切に、想ってる)


奥で言葉にすると、胸が痛んだ。


そのときだった。


「……ナイル?」


扉の向こうから、遠慮がちな声。


驚いて木箱を閉じ、置く。


ドアが少しだけ開き、

白い髪の影――リネアがそっと顔をのぞかせた。


「……灯りがついてた、から……」


「起こしたか。悪い……」


「……眠れなくて……

 ナイルが、いない気がして……」


小さく呟きながら、リネアは部屋に入ってくる。


その視線が、俺の手元の木箱に一瞬だけ向いた。

けど何も言わず、俺の隣に腰を下ろした。


「……胸、痛いの……?」


「……ああ」


嘘をつく気になれなかった。


リネアは黙って俺を見る。

責めるでもなく、嫉妬するでもなく――

ただ“心配している”目で。


その視線に、言葉が勝手に零れた。


「……ずっと夢を見るんだ。

 赤い髪の騎士……たぶん俺に剣を教えてくれてた人だ」


「……教えて、くれた?」


「立ち方も、腕の角度も……

 全部、夢の中でだけ“懐かしい”って思うんだ。

 それが……嫌でも胸に刺さる」


リネアの瞳が揺れる。


「それだけじゃ……ないんだよね?」


「……うん…」


視界がかすむ。

理由もなく、涙がにじむ。


「夢の中の俺は……その赤髪の騎士を……

 “すごく大事にしてる”

 ……そんな気がする」


リネアは少しだけ俯き、指をぎゅっと握った。

でも責めない。


震える声で、正直に言った。


「……わたし、ナイルを縛るつもりはない……

 過去を否定したいわけでも……ない…」


「……リネア」


「でもね……

 ナイルの胸が誰かでいっぱいになってるのを見ると……

 怖いよ……

 ナイルがどこかに行っちゃいそうで……」


その声に胸が締めつけられる。


そっと、リネアの手に触れた。


「俺には過去はない……。

 覚えてるものも、帰る場所も……何も」


リネアが顔を上げる。


「でも。今の俺には……お前がいる」


リネアの瞳が大きく見開く。


「この部屋の声も、飯の味も……

 全部、リネアが俺にくれた“最初の記憶”だ」


リネアの目から涙が溢れた。


「……ナイル……」


「過去が何だったとしても……

 今の俺は……リネアを大切に思ってる。

 それだけは確かだ」


リネアは涙をぬぐいもせず、俺の胸に飛び込んだ。


「……よかった……私をここに連れてきてくれたのが……ナイルで……本当に」


その細い腕が、必死に俺を抱きしめる。

俺はそっと彼女の背を抱いた。


しばらくして、リネアが弱く囁く。


「……ねぇ、ナイル…………一緒にいて……」


顔を赤くし、けど目だけは真剣で。

胸があたたかく痺れた。


「……あぁ。いるよ」


立ち上がったリネアが、少し恥ずかしそうに手を差し出す。


「来て……?」


その手を取ると、リネアはほっと笑った。


二人で静かに隣の部屋の布団に入り、

リネアは俺の胸に頬を寄せる。


「……おやすみ、ナイル……」

「……おやすみ、リネア」


胸の痛みは消えなかったが――

その夜、初めての“温かさ”が痛みと一緒に胸に残った。


ーーーー


昼前の訓練場。

今日も俺は班長として部下三人に囲まれていた。


「班長いきます!」

「今日は倒してみせます!」

「今日は! 今日こそは!」


「おう、全員まとめて来い」


踏み込み、体重の移動、間合い――

全部“夢の中で習ってる感覚”で身体が動く。


一瞬で背後を取り、部下たちをまとめて地面に転がした。


「は、早すぎ……」

「どこ行ったんですか今……」

「俺たち三人で囲ってたよな……?」


その瞬間――


「おいお前らァ!! 見ろ見ろ!!」


訓練場に、

熊獣人の隊長バルグが鼻息を荒くして腕を組む。


「型に縛られねえ動きだ!

 うちの新人もあれぐらいできんか!」


「いや無理でしょ隊長!?」

「あれ人間の動きじゃ……」

「本人の前で言うなっ!」


俺は肩をすくめる。


(……俺だって何者かわかんねぇよ)


訓練場の端では、

フード+薄布で顔を隠したリネアが、お弁当を抱えながら心配そうに座っていた。


(今日はちゃんと遠巻きにしてるな……よし)


……っと、そこへ……。


「ナイルちゃ〜ん、できたよ〜」


のんびりした声が近づいてきた。


訓練場の入り口で、

包みを抱えたミラが手を振っている。


「……ちゃ、ちゃん……?」


ナイルが眉を寄せる。


「うん♪ かわいいから〜」


「かわ……いや、もういい……」


完全にペースを乱される。


訓練場の視線が一斉に集まる。


「職人のミラだ……」

「なんで訓練場に?」

「また妙な武器を作ったって聞いたぞ」


ミラは気にせず、俺の前にドスンと包みを置いた。


布をめくると、まず黒い剣が出てきた。


「剣はそのままなんだな?」


「うん♪ これはナイルちゃんの“相棒”って感じがしたから〜。

 勝手にいじったら怒られちゃうし。だから綺麗に整えておいたの♪」


(怒らねぇよ……たぶん)


そして次にミラが取り出したのは――

筒状の金属。


(……これが、壊れてた魔道具……?)


ミラは、得意げというより“ワクワクして仕方ない子ども”みたいな顔で説明を始めた。


「えっとね〜、この魔道具。

 やっぱり“魔力を打ち出すもの”ってことは確実なのね?♪」


おい待てそれ重要だろ。


「だからぁ〜

 私が作った“魔鉱のパーツ”をつけて長くすると〜……」


カチッ。

先端が部品で延長され固定される。


「じゃ〜ん♪

 “遠くまで狙える打ち出し槍魔道具?”の完成で〜す♡」


リネアが思わず「わぁ……」と声を漏らす。

部下たちは「怖っ」「何が飛ぶんだこれ……」とざわつく。


だがミラは止まらない。


「さらに! さらにねっ!」


黒い剣をひょいと取り出し――


「ここにこうして〜」


カチンッ。

剣が金属筒の基部にぴったりはまった。


「じゃ〜ん!!

 “長槍”にもなるの〜! パチパチパチパチ♡」


リネアがぽかんとする。

部下は後ずさる。

バルグは「お、おお……?」と興味津々。


俺は頭を抱えた。


「……いや、なんで剣も刺さるんだよ」


「えへへ〜?

 ナイルちゃんの武器って、組み合わせたら楽しそうだな〜って思って♡」


(なるほどな……)


そしてミラは“いちばん大事な話”を思い出したようにポンと手を叩く。


「あっ、そうそう!

 この魔道具ね〜……」


声が少しだけ真面目になる。


「“契約印”みたいなのが仕込まれててね?

 持ち主じゃないと魔力が動かないみたいなの」


「契約……」


「だから〜直せたとは思うんだけど……

 実際にナイルちゃんが使ってみないと、分かんないの♡」


「……分かんないってお前な」


ミラは目をきらきらさせながら両手で俺に魔導銃(?)を押しつけてくる。


「じゃ、早速使ってみましょ〜♡」


「待て待て待て待て! 何が出るかも分かってねぇだろ!」


「大丈夫大丈夫♪

 ナイルちゃんなら死なないですよぉ〜?」


「その安心のさせ方はやめろ!!」


訓練場は大騒ぎ。


部下たちは足早に離れ、遠くから叫んでいる。


「班長ぉぉ! 離れてくださいぃぃ!」

「何か爆発する匂いがします!!」

「絶対ろくでもない!!!」


そしてバルグとリネアもいつの間にか端っこに移動していた。


「はっはっは! これは面白くなってきたな?」

「な、ナイル……だ、大丈夫……? ほんとに……?」


そんな中、俺は魔道具を手に取った。

その瞬間。


(……あれ?)


胸の奥が微かに震えた。


“握ったことがある”

そんな感覚が、指にしっかり残る。


(……なんだこれ……俺……)


まるで本能が――

「構え方」を知っている。


ミラはにっこり笑い、手を合わせる。


「さっ、ナイルちゃん。

 “あなたじゃないと使えない武器”……

 試してみてくださぁい♪」


訓練場の空気が、張りつめる。


俺は近くのカカシに狙いを定め、引き金?に指をかけた。


(……本当に撃てんのか、これ)


一瞬、躊躇う。

けど、握った感触がやけに“馴染む”せいで――

逆に指が勝手に動いた。


カチッ。


魔鉱のあたりが、じわっと熱を帯びる。


次の瞬間――


パンッ!!


肩に重い反動が走った。

先端から、光の弾が一直線に走る。


ッ――


カカシの頭が、きれいさっぱり吹き飛んだ。


「ひッ!!?」

「頭なくなったーー!?」

「な、なんすか今の!!」


訓練場が一斉にざわつく。


焦げた藁の匂い。

カカシの首から上は、綺麗に消えていた。


(……今の感覚……)


腕の中に残る重さと反動に、

森を駆けていたときの“別の反動”が重なる。


――“力に逆らうな。流して、次の一手に変えろ。”


誰かの声が、相変わらず霧の向こうから響いてくる。


「やっぱり動いた〜〜! すご〜い!」


ミラが手をぱちぱち叩きながら跳ねる。


「ね? ね? ちゃんと“魔力を打ち出す”武器だったでしょ〜?」


「お、お前……最初から俺がブッ放す前提でここ持ってきただろ……」


「そうですよぉ〜?」


悪びれない。


バルグはというと――


「はっはっは! こいつはすげぇ!!

 おいお前ら! ああいうのを“遠距離の牽制”って言うんだ覚えとけ!!」


「無理です隊長!!」

「俺たち魔力撃てません!!」


部下は相変わらずうるさい。


リネアはというと、フードの中で目を丸くしていた。


「……すごい……」


その視線に、なぜか少しだけ背筋が伸びる。


――ミラが「あっ」と声を上げた。


「そうだそうだ〜。ナイルちゃん、もう一個のレバーも引いてみて〜?」


「……もう一個って、これか?」


銃身の側面を見ると、確かにさっきとは別の小さなレバーがついている。


(森でやったやつか……)


背中にまだうっすら残ってる“矢の痛み”の記憶が、ぞわっと浮かぶ。


「それなにが出るんだよ」


「え〜とね〜……“刃を飛ばす機構”だと思うの♪」


「思う、ってなんだよ“思う”って……

 ……まぁ、だいたい想像はつくが」


どうせどっちみち試すことになる。

だったら人のいない方向を選ぶだけだ。


「……よし、次はあっちのカカシな」


少し離れた位置の別のカカシへ、槍の先を向ける。


森で鎖を伸ばしたときと同じ感覚を、指先に思い出す。


(押せば飛ぶ。もう一回押せば、今度は“俺の方が”引かれる)


分かった上で、二つ目のレバーを引いた。


ガチンッ!!


金属が噛み合う音。

直後――


ギュルルルル!!


伸びたのは光じゃない。

“鎖”だ。


先端に固定された黒い剣の刃が、そのままぶっ飛び、

鎖に引かれてカカシの胴体へ突き刺さった。


ドガッ。


カカシがのけぞる。


「ひぃぃぃ!?」

「剣が飛んだーーー!?」

「やっぱりろくでもないじゃないですかー!!」


(……ああ、この感覚)


森の木々の間を飛び移った時の、

あの“胃がひっくり返るような引っ張られ方”が、鮮明によみがえる。


「ナイルちゃん〜! もう一回引いて引いて〜!」

「………ったく」


何が起こるかは分かっている。

分かってるうえで、今度は構えを低くして――


「行くぞ」


もう一度、レバーを引いた。


ガンッ!


鎖が一気に巻き戻る。


ギュルルルルルルル!!!!


「っと……!」


予想して膝を曲げていても、

体が前に“引きずられる”勢いは相変わらずエグい。


森で木にぶつかった時よりはマシだが、

それでもカカシの間近まで一気に間合いを詰めさせられた。


ズザザッ――。


地面を滑って、目の前でぴたりと止まる。


「班長ーー!?」

「なんすか! いまの!!」

「慣れてる感じが逆に怖いです!!」


息を整えながら刺さった剣を引き抜く。


(森のときは、ぶっつけ本番だったが……

 今は最初から“引っ張られる前提”で動ける)


遠距離から刃を飛ばし、

巻き取りで一気に接近。


それがどういう戦い方になるのか――

身体のどこかは、もう理解している。


ミラはケロッとした顔で親指を立てていた。


「ね〜ね〜、ちゃんと戻ってきたでしょ〜?」


「お前、俺で実験して楽しんでるだろ?」


リネアが端の方で胸をおさえながら、こっちを見ている。


「ナイル……こわい……でも……かっこよかった……」


(……その感想の混ざり方どうなんだ)


バルグは腕を組み、にやりと笑った。


「良いじゃないか! 飛び道具も近接も一辺に鍛えられるぞ!」


「俺の身体は一個しかねぇんだけどな!」



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