表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第3章 変化
74/166

第74話 暮れなずむ街


 スーの店を出て表通りへ向かうと、早めの夕食か、食べ歩きの観光客が多く、すでに人混みとなっていた。夕陽を浴びて浮かび上がる中華街独特の赤と金の建物が、馥郁ふくいくとした点心の香りに滲んで、美味な陽炎かげろうといった風情ふぜいである。


 中華風のちまきや角煮饅頭、ラーメンに、飴を絡めたポテトの類い、あるいは月餅げっぺいや桃饅頭まで。あれを食べよう、これを食べようと美琴を連れまわす早苗を尻目に、小汚い裏道で壁の染みを指して名坂警部補がいう。


「この黒い染みを見てくれ。中華街との境で、もともと小便鳥居が描かれていたんだ。それが黒く塗りつぶされたようになっている。この染み、私には鳥のような形に見えるが」


「俺にもそう見えます。烏みたいな?」


「わてには三本足の八咫烏やたがらすに見えるで」


 と、五郎に続いて蜜柑もいう。


「なるほど、烏に見えるか。さほどの実害がある話でもなく、頭の片隅に置いてもらえばいい。それより、スーに頼まれた件はどうするのだ?」


「古い式神が街を彷徨さまよっているという話ですね。正直、ぴんと来ないんですけど、金はなくとも暇はある身ですから。まずは千里さんに聞いてみますよ。なにか気付いたことがなかったか」


「そうだな。どうも千里の奴は警察嫌いのようだし、お前から聞いてみてくれ」


「ええ、わかりました」


 と五郎が応じた頃には、早苗は美琴に付き合わせて食べ歩きを堪能したらしく、最寄り駅から、じゃ、帰るわなとあっさり帰っていった。一杯ひっかけて帰るという名坂警部補とも別れ、暮れなずむ街を背に、五郎は美琴と二人での家路だ。


 とはいえ、余計な一匹、蜜柑もいるわけだが。そのせいか、最強の恋のおまじないを教わったにも関わらず、美琴は何度か口の端にのぼせた言葉を仕舞い込んでしまった。


 赤く染まったバスが二人を運ぶ。


 美琴を送り届けて帰宅した五郎は、文化住宅の暗い自分の部屋へ向かった。寂しい男の独り暮らし。ところが、なぜか部屋には煌々と明かりがついていた。それも誰かが夕餉ゆうげの支度をしているのか、コトコトと煮炊きの音が聞こえてくる。


 思わず、部屋を確認する五郎だが、文化住宅一階、西の角部屋、自分の部屋で間違いない。首を傾げながらドアに手をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ