第75話 座敷わらし?
神尾五郎が帰宅したところ、誰もいないはずの部屋に明かりがついていた。だけでなく、ことこと煮炊きの音、また人の気配もある。思い当たる節もなく、座敷わらしでもあるまいにと首を傾げてドアを開けると、そこにいたのは夏野千里だ。
五郎よりひとつふたつ年上だろうが、若い女性にしては落ち着きある態度で出迎える。
「やあ、帰ったね」
「あ、はい。帰りました。じゃなくて、なんでいるんです?」
「なんでって。あたしの部屋の真下だから」
「なるほど。いや、まったく関係ないし。そもそも開いてましたか?」
「ああ、あんた知らなかったの? ここは、どの部屋も同じ鍵で開くんだよ」
「え?」
「管理人の婆さんが面倒がってさ。馬鹿な学生がすぐ鍵を失くすもんだから、いっそのこと同じ鍵にしちまえって」
「そんな不用心な。泥棒でも入ったら……」
「泥棒って、おまえ盗まれて困るような大事な物でもあんの? 家電といって小型の冷蔵庫だけ、中に入ってるのは豆腐だけ。こんなとこに盗みに入ろうものなら逆に何か置いてってくれるんじゃないかい」
「うっ、否定できない」
「まあ、学生寮みたいなもんさ。ちょっと気になったんで、飯を作って待ってたんだよ。むしろ、感謝してもらいたいね」
ぐびぐびと缶ビールを空けながらいう。
「遠慮しないで入んなよ。あんたの部屋なんだから。名坂警部補だったか、何の話で来てたんだ?」
「話せば長くなりそうですが、実は……」
「ちょい待ち! 長くなるなら飯でも食いながらさ。ん? きみの湯で賄い付きのバイトをしてるって? いいじゃないか、余分に食っとけ」
大根に白菜、丸ごとのジャガイモや林檎も入った斬新なカレーライスを食べながら話を終えた。
「なるほどねぇ。あたしの足下に、そんなものが映っていたとはね。百年前の式神探し、面白そうじゃないか。まあ、あたしに任せときな」
どこかの誰か同様、根拠なく任されようとする千里だが、手がかり皆無というわけでもないらしい。風に舞う式札らしきもの、姉様人形が飛んでいくのを見たとか見ないとか。
「小便鳥居を塗りつぶす罰当たりも、いずれ成敗してやるとして、まずは式神探しと行こうじゃないか」
にやりと笑う千里に、不安いっぱいの五郎である。




