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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第3章 変化
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第72話 最強の恋のおまじない


 品物を見てやってくれと言われ、五郎と蜜柑だけでなく、美琴、早苗、名坂警部補も、狭い店内にひしめき合うまじないの道具をみて回っていた。


「お気に召すものがあれば、お買い上げを」


 と涼しげな声でスーがいう。


「これも何かの縁ですから、いくらかは値引き致しますよ。まじないとのろいと、同じく呪いと書きますが、当店の道具には彼我ともに不幸をもたらすようなものは御座いません。そのぶん強力な道具も御座いませんが、安心してお使いいただけましょう。いわば玩具のようなものです。長き憂き世の手慰み。欲望、願い、想いに喜怒哀楽、人の夢から生まれた儚いもの。愛おしいじゃありませんか」


 ぺらぺらと話しながら、まず声をかけたのは美琴と早苗だ。どちらも恋愛成就のまじないものを手にしていた。


「お二人とも恋多き乙女といったところですか。若いというのは、それだけで素晴らしいものですね」


「あ、あの、わたしは別に……」


 手にしていたチャームを置いて頬を赤らめる美琴である。なら、うちがもらおうかと早苗が気軽な感じで手に取って支払いを済ませてしまった。後悔した様子の美琴に、早苗が買ったばかりの包みを手渡す。


「敵に塩を送るというやつやな」


「あ、ありがとうございます」


「ふふ、愛らしい子」


 言って美琴を抱き寄せると、早苗は声に出さずに口を動かした。耳が聞こえない代わりに、唇の動きで言葉を読み取る美琴にだけ。


「心配いらん。五郎はんが許嫁いいなずけというんは嘘や。ほんまは女の子が好きやねん。五郎はんには虫除けになってもろとんのや。せやで、うちらはライバルとちゃうんよ。むしろ五郎はんがライバルになるかもしれへんな。五郎はんが嫌になったら、いつでも、うちとこへおいでやし。それと……」


 と、今度は声に出していう。


「最強の恋のおまじないを教えたろ。それはな、やっぱり言霊ことだまや。想いを伝えて縛る、そのまじないが何より。ええか、好きやと伝えるだけ。返事なんか要らへん。この子は自分のことが好きなんやと思うだけで恋に落ちる。そんなもんや。

 付き合ってくれとか、好きか嫌いかて返事を迫るようなことはせんでええ。気持ちも言葉も受け手次第。ただ伝えること、それが大事やで。あんたは稀に見るええ子やな。がんばりや」


 と笑顔で軽く肩を叩かれて、ほんのり頬を赤らめる美琴である。


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