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第55話 寄らば寄れ、遊べや遊べ
寝室から理奈の悲鳴が響いた。ごうごうと風が吹き始め、捲り上がったシーツの向こうに覗くのは、獣じみた巨大な目だ。周囲を覆う黒々としたものは艶やかな髪の毛かのようで、ゆらゆらと揺蕩いながら触手のように伸び、理奈をベッドから引きずり出していた。七の方が澄んだ声で唄う。
「はてさて、終に今年も文月じゃ。そなたらの御魂をもらおうか」
「いえいえ、まだ師走は遠くありましょう」
と返すのは理奈の幼馴染み、遠山将吾だ。声は震えているが、同郷とあって、理奈と同じく地元のわらべうたで応じる。
「もそっと御山でお待ちあれ。その間に馳走を設けましょう」
「ほうほう、それは楽しみじゃ。されど寂しい御山のありようよ。こなたの娘は連れ行こう」
「いやいや、嫁入り前の御子なれば」
「よもや、相手はわぬしではあるまいな?」
「そうとあれば、どうなさる?」
「ならば待とうか、待とうじゃないかとは行かぬ。去る年の無礼、相応の返しを要するゆえに。御山へ連れて行こうでないか。さあ、寄れ、近う。寄らば寄れ、遊べや遊べ。金のなる身よや。さあ!」
七の方が黒髪を伸ばし、理奈と将吾に巻きつけて、しゅるしゅると黒い繭のようにしてしまった。一方、蜜柑は為すすべもなく、なんで中から現れるんやと呆然としていた。




