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第56話 湧き出ずるもの
蜜柑の御札で中は安全、夜明けまで耐えれば良いと思っていたところ、吹くはずのない風が巻き起こり、獣じみた目をした異形のものが姿を現していた。
それは黒髪を伸ばして理奈と将吾に巻きつき、さらにジジをも捉えて巻きついていく。それを救おうとした千里ともども黒い繭としてしまった。部屋中に伸びた黒髪は新たな獲物を探して這い回る。
五郎らは玄関へ向かったが、そのドアもすでに黒髪に覆われていた。
「駄目か。おい、蜜柑! いつまで惚けてるんだ。なんとかしてくれよ。責任とるんだろ?」
「責任なんて取れるか! よう見てみい、御札はそのままや。わての結界は破られてへん。こいつは中から湧いて出たんや。しゃあないやんか」
「わかったわかった。とにかく御札を出せよ」
言いながら、クローゼット代わりの洋間へ逃げ込んだ。所狭しと置かれた服や靴、あるいはバッグ類、防虫剤独特の臭いが鼻をつく。
名坂警部補と狭間巡査がドアを抑え、美琴と葛音を奥に押しやった。部屋の中央では、大口を開いた蜜柑が、んべっと白紙の束と硯に筆を吐き出し、半ベソで墨をすりはじめた。その間にも、ごうごうと風が吹き、七の方の唄うような声が近づいてくる。




