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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第2章 Black Cats
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第54話 掴むもの


 七月七日、七夕の夜、七人様の最後の方、七の方が理奈のマンションを訪い、居合わせた者を彼岸へ連れ去らんとしていた。それを蜜柑の力で抑えているのだが、ひたひたと目に見えぬ水のように妖しの気配が室内を満たし始めていた。


 それを告げたのは一本の電話である。月子さんから美琴と葛音あてに電話がかかってきた。


「二人とも大丈夫? おかしな胸騒ぎがしたから。え? ちょうど電話しようとしてたところだったの? 今日は帰れない? あら、どういうことかしら。お姉ちゃん、困っちゃうんだけど。夜遊びはいけません! って、ビシッと言うところなのかしら。そういうの苦手なのに、って、ちょっと待って。なにかおかしいわ。悪いものの気配がする。これはあの時の……猫が……早く、そこから………」


 電話が切れ、圏外表示となる。それは寝室から悲鳴が上がるのと同時だった。


 理奈はシーツにくるまって微睡まどろんでいた。妖しい出来事の続く中、すっかり安心とはいかないものの、蜜柑の御札と酒盛りの陽気さが緊張をといてくれたのだ。なにより、いつでも甘えさせてくれる幼馴染みの将吾がそばにいてくれる。それだけで心がぽかぽかと温まる。


 そんな夢うつつの理奈の手を誰かが握ってくれていた。幼き日の母の手のような。なぜ、こんなにも安心させてくれるのだろう。


 ……いや?


 誰もいないはずだった。みんな酒盛りの最中で寝室に人はいないのに。理奈の顔から血の気が引き、きゅっと体が冷えて震えが止まらなくなった。手を掴んだものが、まるで唄うようにささやく。


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