第48話 シクヨロ
猫柳理奈のマンションで、身振り手振りを交えて話し出したのは小さなくまのマスコットだ。
「ええか、よう聞け! わてこそは名門神尾家の護り神、式霊にして禍つ神。姓は温州、名は蜜柑。流れ流れて流されて、あほの五郎に取り憑いて、ここでこうして話しとる。縁は水物、流れ物。ここで会ったが百年目! おまんらの命、わてがもろた!
なに? なにを言うとるかわからんやと? そら、そやろ。適当に喋っとるだけやさかい。ええんや、雰囲気や、なんとなくや。細かいことを気にしとると禿げるで。なんや、なにこれやと? 驚いとるやつもおるな。まあ、落ち着け。わての正体を誰に話して誰に話してないか、もうわからんわ。とりあえず、わての力を見せたろやないか」
テーブルの上で長口舌を振るった温州蜜柑が片手をあげると、部屋の中が真っ暗になり、天井や壁が消え失せて、一面の星空に変わった。
「どや! 明日は七夕、綺麗な夜空が見えるか? わての正体を誰かにばらそうもんなら、そいつも夜空の星にしたるさかいな。
あ、わての正体を知った者からは、ちょっとずつ運気をもらうでぇ。そいつを、ごにょごにょっとして神気に変えて、本当に困っとる人のために使うんや。クーリングオフは効かんぞ。おまんらに拒否権はないでな。そこんとこ、ヨロシク、ってか、シクヨロ」
様々な疑問が浮かぶ面々だったが、なんでわざわざ言い直してシクヨロ? と、比較的どうでも良いところに気持ちが行ってしまうのであった。
ともあれ、理奈が七人様に取り憑かれていること。そのことを話せば、相手にも難が及ぶと恐れて一人で抱え込んでいたことを伝えた。
聞き終えた千里は、すっと立ち上がり、将吾にもたれてうたたね中の理奈の頬を両手で挟み込んだ。ふわっと声をあげる理奈を抱きしめる。
「馬鹿だね、あんたは。怖がりのくせに、一人で我慢して。いつにも増して眠たげなのは、よく眠れないからじゃあないのかい?」
返事はなく、理奈は震える手で千里を抱きしめ、その温もりを感じるようにしていた。




